
雨の中で集団走をする選手たち【日本大学】
2027年正月の箱根駅伝で「シード権を獲る」ことを目標に掲げる日本大学陸上競技部特別長距離部門。8月の夏合宿は北海道・釧路市からスタートし、弟子屈町での第2クールを経て、8月21日(金)からは紋別市に移動して北海道合宿の総仕上げとなる第3クールに突入した。ハードな練習に取り組む選手たちを引っ張る3人の4年生たちに、現在の状況と学生最後の駅伝シーズンへ向けての意気込みを聞いた。
(取材日:8月24日)
チームを牽引し、昨年を超えていく
参加メンバー20人のうち、1年生 7人がメンバー入りというフレッシュな陣容になった北海道合宿。紋別に移動しての第3クールは、2名の離脱により18人でのスタートとなった。
平地での集団走で距離を積んでいく釧路合宿から、ポイント練習やアップダウンを走る紋別合宿まで、練習内容自体は昨年と大きく変わったところはないものの、「昨年は、みんながまとまって走れていましたが、今年は離れてしまう人も多くいたので、全体としてはまだまだですね。Aチームに来ている3・4年生が少ないこともあって、上級生がチームを引っ張っていくという部分が少し足りないかなと感じています」と、主将の山口聡太(文理4・佐野日大)は顔を曇らせる。
月1回、選手だけのミーティングを行っているという山口聡太主将。「各学年で毎月目標を立て、その成果と反省を話し合っています」【日本大学】
7月下旬、日大駅伝OBの俳優・和田正人氏と対談した際、和田氏は昨年の4年生をリスペクトする現4年生の姿勢を高く評価していた。その言葉が印象に残っているという山口は、「そこも含めて今感じるのは、やはり4年生としての物足りなさ。和田さんの言葉を改めて思い出し、期待に応えるためにも、もっと4年生が頑張ってやらないといけないと強く感じています」
山口自身、夏合宿に入ってから足を痛めたこともあり、「チームを引っ張りきれてない」と忸怩たる思いを抱える。新雅弘監督からは「誰が引っ張ってもいい」と言われているが、「4年生がしっかり引っ張ろう」という意識で、副主将の天野啓太と双子の兄・山口彰太が先頭を走ることが多い。「徐々に走れるようになっている」という山口(聡太)は、今は3年生の長澤辰朗とともに後方から下級生を押し上げていく役割を担う。
「昨年の1年生も頑張っていましたが、今年の1年生もよく頑張ってついてきているなと思います。それでも合宿の練習はきついと思うので、声掛けは意識してやっています」
個人としても、2月の学生ハーフで自己ベストを記録して以降は、納得のいく走りができなかったが、「自分自身もこれからコンディションを上げていき、いい夏にしていきたい。今後の記録会などでは、他校の選手に負けないというだけでなく、チーム内トップで走らなきゃいけないと思っています」と、意気込みを語った山口。
さらに勝負の駅伝シーズンに向けて、「出雲駅伝は選手全員が初めてですが、箱根駅伝が10番だったので、それより1つでも上の順位を目指そうと話しています。そして、11月の全日本大学駅伝はシード獲得(8位以内)を目指しますし、箱根駅伝もシード獲得と今年以上の成績が目標。そこに向けて、主将としてしっかりチームを引っ張っていくつもりです」と、決意を新たにしていた。
最後尾から下級生たちを押し上げるように走る山口聡太主将【日本大学】
目標達成へ、チーム力をもっと高めていきたい
北海道合宿がスタートして約3週間、ここまでチームで唯一、練習にフル参加しているのが副主将の天野啓太(法4・岡崎城西)だ。
「3・4年生が少ない中での最後の夏合宿なので、下級生を引っ張っていこうという責任感と覚悟を持って臨んでいます。自分自身は練習の消化率100%で、非常にいい状態でやれていると思っています」
天野啓太副主将の言葉からは、最後の夏に賭ける熱い思いが伝わってきた【日本大学】
昨年の夏合宿は、以前からの腰の不安もあって途中離脱となってしまったが、その反省を踏まえて、ふだんの練習からフィジカル面だけでなく考え方にも、新たな意識を持って取り組んできたという。
「フォームであったり筋力であったり、体の使い方であったりというところを改善してきたことが、今の走りにつながっている。意識してきたことをいつも通りに続けていて、それが夏合宿の練習を消化できていることに結びついているので、その点は成長していると思っています」
しかし、今シーズンの前半を振り返ると、全日本大学駅伝の予選では納得する結果を出せず、それ以降も「練習ができても試合で走れない」という課題が残った。
「あまり良い前半シーズンではなかったけれど、練習面に関してはしっかり詰めていたと思う。それだけに、何かを変えていかなければ後半もうまくいかないのかなと思っています。そのためにはまずケガをしないこと、そして自分で“走れるイメージを作る”というか、練習に対してのイメージをしっかり持って臨むことを意識しています」
同時に、卒業後は競技から離れることを決めている天野は、「ここまで陸上競技に集中するという状況も最後ですし、結果を求めて走るということは最後だと思っているので」と、夏合宿、そして駅伝シーズンへ、人一倍強い思い入れを示した。
その一方でチーム全体としては、「下級生が頑張っている中で4年生がいないという状況が負担をかけてしまい、ここにきて疲労が見えてきている。9月に入っても合宿が続くので、4年生がきっちりチームを引っ張っていく状況を作っていかなければならない」と、危機感を口にした。
それでも、前日の練習では「久しぶりに4年生が揃っていい練習ができたなと思います」と言い、午後練習でのポイント走を振り返った。2本目までは全員が揃ってフィニッシュしていたが、設定タイムが上がった3本目は、下級生の何人かが集団から離されていった。
「最後はペースが上がりましたが、絶対できないペースではないと思うし、心のどこかにブレーキがかかって落ちていった選手もいたと思う。ただ、ある程度まとまって走れたのは良かったし、今後も4年生がうまく回しながら、最後まで全員がまとまって走れるようにしていければ、チームの雰囲気的にも良くなっていくと思います」
さらに、「入部してまだ半年たたない1年生が、初めての夏合宿で、ジョグとは言え朝から長い距離を走るのはしんどい部分もあると思いますが、それでも食らいついているのはすごい。そして、その厳しさを1年経験した今の2年生は、やっぱり力がついてきているなと感じますし、下を見る余裕もあるように思います」と下級生たちを評価する。
「4年生が7人いた昨年に比べれば、現状でのチーム力はまだまだですが、伸びる余地はあると思っているし、必ず対等以上の力を発揮できるようになる。そこはここから残りの期間で仕上げていきたいですね」
来るべき秋に向けての抱負を尋ねると、「箱根駅伝でシードを獲るというチーム目標を第一に考えて、ここからの4ヶ月で何ができるかというのを一人一人が考えていくようにしたい」と言葉に力を込めた天野。
「個人としても三大駅伝は全部狙っていきたい。特に全日本大学駅伝は、昨年自分がブレーキになってしまったし、地元も近いというのもあるので、もう1回リベンジしたいですね。そして箱根駅伝では、昨年よりもさらに上を目指して走り、確実にシードを獲る。そこは手放しちゃいけない、見定めないといけないので、しっかり意識していきたいと思います」
ポイント走の短いインターバルの間も、選手たちの様子に目を配る天野副主将【日本大学】
最後の箱根駅伝へ、静かに闘志を燃やす
シード権の獲得と、昨年を上回る順位を目指して挑む最後の箱根駅伝。「プレッシャーはありますが、やらなきゃいけない立場ですから」と言いつつも、今夏の合宿は「3年生に助けられているな、という感じです」と、やや固い表情で話す山口彰太(スポーツ科4・佐野日大)。個人的にも、春先に負ったケガは癒えているものの「練習の消化率が悪いこともあって、仕上がりとしてはあまり良くないです」と、納得していない。
熱い思いは胸に秘めて、「いつも通りに取り組んでいく」という山口彰太選手【日本大学】
今年の箱根駅伝では1区を任されたが、中盤からは経験のないハイペースで走る集団についていけず、区間17位に終わった。チームに勢いをもたらすことはできなかったことを反省しつつも、「タイム的にさほど悪かったわけではない」と、10kmでは自己ベストを上回っていたことから、感覚的には前向きに捉えることができたという。
その1ヶ月後、気持ちを立て直した山口は2月の日本学生ハーフマラソン(丸亀国際ハーフ)で日大記録を打ち立てる好走を見せると、3月の立川シティハーフマラソンでも、中盤過ぎからの一人旅で見事に優勝を飾った。
これまでの3年間は“山口ツインズ”として取り上げられることが多かったが、今シーズンは主将となった弟・聡太とは別に、自身の成績からチームの浮沈を握る選手として注目されることは必至だ。だが山口自身は、泰然自若の姿勢を崩すことはない。
「周囲の声はさほど意識しません。すべていつも通りです。もちろん、自分の中で思うことはありますが、それを表に出したり、口に出したくはないですね」
駅伝シーズンに向けての目標を尋ねると、「走った区間で区間賞を獲るというのを基本に頑張っていきたいと思っています。任された区間で活躍することが目標です」と答え、いくらか顔をほころばせた山口。最後は、「しっかり箱根に合わせていきたいと思います」と、“いつも通り”の柔和な笑みを浮かべ、力強く締め括った。

集団の先頭を走り、背中で下級生を引っ張る山口彰太選手【日本大学】
この日の朝練習は、宿舎からジョグでオホーツク流氷公園へ向かい、園内のクロスカントリーコースを周回。山口彰太選手(左)と天野選手(右)が終始先頭を走り続けた【日本大学】