2023年の春、2人のフットボーラーがプロとなって日本大学サッカー部から巣立つことになった。1人は男子サッカー部の近藤友喜選手。J1リーグの横浜FCに加わる。もう1人は女子サッカー部の大沼歩加選手がちふれASエルフェン埼玉(WEリーグ)の戦列に加わることとなった。新たなステージでの戦いに向け、2人の決意と抱負をお届けする。

向上心と速さ

2022年12月20日にスポーツ日大稲城パフォーマンスセンターで開催された入団内定記者会見に臨んだ近藤友喜選手(法学部・4年)は感謝をまず口にした。
「プロになるという幼い頃からの夢を素晴らしいクラブで叶えることができて非常にうれしく思います。僕がプロのサッカー選手になれたのは何不自由なくサッカーを続けさせてくれた両親、お世話になった指導者の方々、いつでも応援してくれる友達や自分に関わるすべての人たちのおかげです」

攻守で貢献できる選手となって横浜FCでの活躍を狙う近藤選手

攻守で貢献できる選手となって横浜FCでの活躍を狙う近藤選手

横浜FCが獲得を決めたのは2年前のこと。「近藤選手には、リーグ戦でもカップ戦でもスピードで相手を置き去りにできるスピードがありました」と横浜FCの福田健二テクニカルダイレクターが言うように彼には際立った武器がある。確かに、右サイドを疾風のように駆け上がってゴールを決め、味方のゴールをアシストできる能力は魅力にあふれる。18年ぶりの1部復帰を決めた日大サッカー部でも欠かせない選手として輝いた。特別指定選手として横浜FCでプレーをしてもスピードは通用した。
近藤選手自身もスピードがストロングポイントであることを自覚しているが、あぐらをかかず、向上心を失わない。
「自分より速い選手はいますし、スピードだけではきついなというのを大学2年生の頃に感じ、オフ・ザ・ボールの駆け引きを意識するようになりました。スピードの活かし方をしっかりと考え、特に相手の背後をとる動きに関して試行錯誤しました。背後をとる動きのコツはつかめたと思うので、(プロ入り後は)パサーとの関係を磨いていきたいと思います」
スピードは天賦のものとも言えるが、近藤選手は生まれた持った能力を磨き続けることで夢であるプロへの扉を切り開いた。中学時代から緩急の使い分けを考えて相手と対峙し、高校時代には「小柄な自分は特殊なことをしなければ苦しいかもしれない」とJリーガーのドリブル突破を習得している。

近藤選手は関東大学サッカーリーグ2部で9得点。1部昇格を目指すチームをけん引した

近藤選手は関東大学サッカーリーグ2部で9得点。1部昇格を目指すチームをけん引した

スピードと向上心という成長を促す素養を兼ね備える近藤選手はプロの世界でいかなる選手へと成長していくのだろうか?
「ウイングのほうが攻撃に専念できると思いますが、守備も嫌いではありません。守備がどこまで通用するかは分かりませんが、1対1で仕掛けてきた相手を止めるのも好きなんです。攻撃もできるし、守備もできる選手として強みを発揮していきたい」と近藤選手は自身を冷静に分析して「なるべき姿」の解像度は高い。
そして言う。
「横浜FCで試合に出ることをまず目指し、目に見える結果を残したい。1点でも多く得点に絡みたい。それができなければ先はないと思うからです。J1は自分が世界へ羽ばたくためにも活躍しなければならない舞台だと思います」
横浜FCの右サイドは要注目だ。

高さと1対1の強さ

花咲徳栄高校時代には全日本高等学校女子サッカー選手権大会に出場し、2019年にはU-19日本女子代表候補にもなり、2023年からWEリーグでのプレーを選んだ大沼歩加選手(文理学部・4年)だが、初めからプロ志望だったわけではない。
「(入学時は)関東大学リーグの2部所属だったため、1部昇格とインカレ出場を目標にしていました。大学には教員になろうと考えて入ったんです」
4年生になると就職活動や教育実習を経験したが、何かピンとこなかった。「サッカーに未練があるのかな」と感じた彼女は持田紀与美監督に思いを伝え、ちふれASエルフェン埼玉の練習に参加して加入を勝ち取った。

女子のトップリーグであるWEリーグに飛び込む大沼選手

女子のトップリーグであるWEリーグに飛び込む大沼選手

埼玉県出身であり、地元でサッカーを続けてきた彼女はAS埼玉のことはよく知っていた。育成部門に所属する同年代の選手に対して「うまく、すごいな」と思っていたそうだ。
そして「練習参加した際には速いとすぐに感じました。判断とプレー・スピード、そしてスプリントも速かった。大学とはレベルが違うと思いました」
しかし気後れは一切ない。
「でも1対1や身長を活かした高さは通用すると感じました。大学に入学した時にも速いという印象を持ちましたし、速さにはやっていれば慣れると思います」
入学後、2020年度に1部昇格を果たし、2021年度には初の全日本大学女子サッカー選手権大会でベスト8。最終学年では全日本大学女子サッカー選手権大会でベスト4まで勝ち上がり、女子サッカー部の新たな歴史を刻んできた大沼選手には秘めたる自信もあるのだろう。
「1対1になると燃えます。体を入れてボールを取り切ると楽しいんです」といたずらっぽく笑った。

167センチという身長と守備の楽しさを熟知していることはメリット。そして相手の視線を確認してプレーを察知できる読みの良さや優れた洞察力は彼女をもう1つ上のレベルへと引き上げる隠し味になるだろう。
鋭い洞察力は自己分析にも向けられる。
「私はアジリティーがさほど高い選手ではありません。ウイークポイントをカバーするためにも予測は欠かせません。相手の先回りして自分の守備に引き込むようにしています」と言い、さらに「高校と大学の1、2年生ではボランチでしたが、センターバックのほうが自分に向いていると感じていました。上を目指すのであれば、センターバックだと思います」とチャレンジすべきポジションもしっかり理解している。
「失点すると嫌になりませんか?」という質問に大沼選手は明快に答えた。
「クリーンシート(無失点)で終わりたいという思いはあります。確かに、気持ちが切れそうになる時はありますが、そうなったらきっと後悔します」
プロとして生きていく過程では厳しい瞬間もあるだろうが、大沼選手は後悔しないためにやり切るに違いない。

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