第95回日本学生氷上競技選手権大会(インカレ)で日本大学の阿部心哉選手(文理学部・1年)が500mと2000mリレーに出場し、共に優勝。「短距離の日大」と称される本学スケート部の500mに1年生で唯一メンバー入りを果たし、北京五輪銅メダリストの森重航選手(専修大4年)を破っての優勝は大きなインパクトを与えた。今季からナショナルチームに参加し、ユニバーシアード冬季大会にも出場を果たした阿部選手に迫った。

名は体を表す

インカレ・500mを制し、表彰台に立つ阿部選手。

インカレ・500mを制し、表彰台に立つ阿部選手。

心の強い人になってほしいと「心哉(もとき)」と名付けられた阿部選手は小学1年生のときにベクトルスピードスケート少年団で競技をスタートさせた。着実に実力を伸ばし、中学時代は全国大会で2位になるなど活躍。帯広三条高に進学する。
しかし、なかなか勝てない日々が続いた。特に印象に残っているのが高校3年の全日本ジュニアだ。2位に終わり、世界ジュニア選手権の切符を逃してしまう。同じく日大に進学した時安清貴(経済学部・1年)選手ら4人いる帯広三条高の3年生で同大会に出場できなかったのは阿部選手だけだった。
 
「万年2位で悔しい思いをたくさんしましたが、このときがスケート人生で一番辛かった。ですから次は絶対に勝つと強い気持ちを持っていました」
 
次の大会というのは1週間後の全道高校スケートのことだ。その言葉通り、大会記録を1秒更新する35秒39の自己ベストで優勝。24人が出場できる北京五輪代表選考会の出場を勝ち取った。
 
両親の願った「心の強い人」になった瞬間だった。

阿部選手の強さ

「日常生活においては少しシャイでどこにでもいる19歳。どちらかと言えばおっとりした性格でしょうか」と語るのは日大スピードスケート部門の河瀬祐二監督。しかしスケートにおいてはしっかりと芯を持っている。
 
インカレの500mを制した直後のインタビューで阿部選手は「自律」「コツコツ」「着実に」などの言葉を口にした。先に挙げた全道大会で彼は気持ちの大切さに気づいた。そして強い「メンタルを保つためには、練習はもちろん普段の生活がいかに大事かということを学んだそうだ。
 
「選手として彼が持つ特性は非常に柔軟性に優れている点です。例えばレース中にバランスを崩してもすぐに立て直すことができるのは体の柔らかい選手です。高校時代からその特徴は顕著でした」と河瀬監督は阿部選手を分析する。
 
そんな阿部選手が大学に進学し、着手したのは肉体改造だった。ウエイトトレーニングや自転車トレーニングに力を入れ、4キロの筋肉増量に成功した。
 
「体脂肪は変わっていないので筋肉だけを増やせました。フィジカルが成長したことで、しっかり氷を押して推進力をつけることができるようになったと感じています。春から昨年10月ごろまでそういった練習を続け、全日本距離別選手権で自己ベストを更新できましたし、トレーニングの効果を自分自身も感じています」
 
自律した生活で1歩1歩着実に成長を続ける阿部選手だが、さらに強くなるために、河瀬監督はコミュニケーション力を高めて欲しいと考える。本学以外の監督、コーチ、選手からたくさん吸収することが、一流選手として羽ばたくために必要な能力なのだ。

悲願の五輪出場へ

阿部選手にとって今後の最大の目標は2026年に開催されるミラノ・コルティナ五輪に出場し、メダルを獲得することだ。
 
「まだまだ足りないところは多いですが、次のオリンピックは十分狙えるでしょう。今後彼に日本のスピードスケートを牽引してもらいたいですし、日大出身の羽賀亮平のようになってもらいたいですね」(河瀬監督)
 
羽賀亮平氏(平24年・日本大学文理学部卒)はバンクーバー五輪代表で、過去にインカレの500mを4連覇した本学出身の偉大な先輩だ。インカレの阿部選手のスケートはその姿を彷彿とさせたのだ。
 
「3年後に向けて、急に成長するというのではなく、焦らずに1年1年着実に成長していきたいと考えています。その1歩目としてユニバーシアードで納得のいく滑りをしたいですし、今シーズンも残り少ないですが、34秒台をマークして自己ベストを更新したいと考えています」

Profile

阿部 心哉[あべ・もとき]

2003年生まれ。北海道出身。帯広三条高卒。小学1年生で競技を始める。高校3年生の全道高校スケート・男子500mで大会記録を1秒更新する35秒39で優勝し、北京五輪日本代表選考会の切符を獲得。高校生では唯一の出場だった。自身初となるインカレでは北京五輪代表の銅メダリスト、森重航選手を破り、500mで優勝。2000mリレーでもアンカーで出場し、チームの勝利に貢献した。今季初めてナショナルチームに選出。今後のスピードスケートを牽引する新鋭として注目を集めている。500mのベストタイムは第29回全日本スピードスケート距離別選手権の35秒14。

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