「2024年度日本大学進学ガイド」インタビュー

フィクションの枠を超えた
宇宙規模のエンターテインメントを
学部一丸となって切り拓く

芸術学部 文芸学科 教授

青木 敬士(写真左)

PROFILE

1993年日本大学芸術学部文芸学科卒業。2005年日本大学芸術学部文芸学科に着任。2017年より現職。デジタルアーカイブ学会や人工知能学会に所属。著書に『世界はゴミ箱の中に』(現代図書),『SF小説論講義』(江古田文学会)など。

芸術学部 デザイン学科 准教授

布目 幹人 (写真右)

PROFILE

2000年日本大学芸術学部デザイン学科卒業。株式会社マッキャンエリクソンでアートディレクターを務め,2012年に独立。現在フリーのアートディレクターとしてプロモーションの企画制作やブランドのコンサルティングなどを行う。国内外の広告賞を多数受賞。

学部の総力を挙げて取り組む壮大な宇宙エンタメ

布目 理工学部の奥山先生から,超小型衛星『てんこう2』を開発中で2023年度中に打ち上げ予定だという話を聞き,それと連動して何かクリエイティブなことができないかと考え,発想したのが『N.U Cosmic Campus』です。宇宙開発に理系以外の学生も巻き込み,より多くの人と夢を分かち合いたいと思いました。技術的に大きな価値がある研究開発を,分かりやすく楽しいものとして発信したいと考えたんです。デザイン学科の私のゼミナールの学生たちがアイデアを出すところから始まり,こんなことができるんじゃないか,あんなこともできるんじゃないかと何度かやり取りをしているうちに,こんなに面白いことを私たちだけで抱え込むのはもったいないと感じるように。そこで,「SF小説論」などの授業を担当している芸術学部屈指の“宇宙オタク”,文芸学科の青木先生に声をかけたところから,プロジェクトが本格始動しました。

青木 布目先生からの「先生,宇宙に行きませんか?」という魅惑的な誘いは今でも忘れられません。それまで布目先生とは創作活動での接点はほとんどなかったのですが,この一言で「ぜひ詳しく聞かせてください!」と前のめりになりました。私はSF小説に関する本も書いていますが,長い間,宇宙は想像の対象でしかありませんでした。ところが,今回はリアルな創作活動として関われるという話で,二つ返事で参加を決めたんです。

布目 芸術学部にはもともと他学科との連携を後押しする空気があるんです。青木先生を筆頭にあらゆる分野の先生方にお声がけし,最終的に8学科全ての先生方,学生が協力してくれるようになりました。

青木 それぞれ異なる専門分野から『宇宙』という共通テーマで創作に取り組んでおり,まさに学部を挙げたエンターテインメントとして盛り上がっています。

芸術学部ならではの視点から宇宙を捉える

布目 奥山先生には,宇宙開発について教えていただきながら,そこにエンターテインメントの要素をプラスしていきたいとお話ししました。創作の第一歩として手がけたのが,バーチャル宇宙飛行士『キャプテンヒカル』のプロデュースです。宇宙と聞いて真っ先に思いつくのは宇宙飛行士でしょう。しかし,今回打ち上げるのは37cm×23cm×10cmの超小型衛星です。実際に人を乗せられないならバーチャルにして乗せようという考えから,彼女は誕生しました。そして,理工学部で「宇宙にいる衛星からは常にハウスキーピングデータ(衛星の状態を示すデータ)が送られてくる」という話を聞いて,彼女に何をしてもらうか具体的なイメージが浮かんできたんです。『てんこう2』の打ち上げ後は,『キャプテンヒカル』が本物の宇宙飛行士のように観測や衛星の状況確認など数々のミッションを行い,地上にいる私たちに報告してくれるという演出を考えています。

青木 理工学部の学生は驚いていましたよね。芸術学部ならではの発想であり,そこにこそ私たちが参加する意味があるといえるでしょう。ちなみに,『キャプテンヒカル』の声を演じる声優は芸術学部の学生で,オーディションで決定しました。芸術学部に声優のコースはないのですが,大学の授業以外に自分で声優の勉強をしている学生,演技を学んでいる学生,声優や演技は未経験だけれど挑戦したいという学生など15人ほどの応募があり,かなりハイレベルなオーディションになりましたね。結局1人に絞り切れず,『キャプテンヒカル』の本編やサイドストーリーで,仲間のクルーやグランドスタッフなどとして登場してもらおうかと考えています。ストーリーづくりには,私のゼミナールの学生でSFコンテストの大賞をとったSF作家も参加しています。

布目 芸術学部にはデザイン学科のほかに美術学科もあり,そのほかの学科にも絵を描ける学生がいるので,キャラクターデザインも全て学生が考え,それをもとに映像をつくるなど,『てんこう2』打ち上げ後の配信開始に向けて準備を進めています。衛星の打ち上げというと,打ち上げるときには大きな関心を集めますが,その後,宇宙で何をしているのか伝わりにくいですよね。打ち上げ後に『キャプテンヒカル』や仲間たちを登場させてストーリーを展開し,『てんこう2』がリアルに空を飛んで観測データや映像を送ってくる裏で彼女たちががんばっている姿を伝えられれば,コンテンツとしての力が大きくなると考えています。

宇宙は手が届くもの。自由な発想で向き合ってほしい

布目 私たちは宇宙開発については全くの素人ですから,理工学部の学生たちにいろいろ教えてもらう中でさまざまな発見があります。例えば,衛星に搭載するのは宇宙放射線などの影響を受けにくい旧式のコンピュータで,処理速度がそれほど早くないという難点があるそうです。電力量も限られるため,多くのミッションをこなすのは電力やコンピュータの処理能力との戦いでもあるのです。また,フライト中には太陽フレアやスペースデブリで衛星が破損するといったアクシデントも起こり得ると聞きました。ここから着想を得て,さまざまな困難を乗り越えてミッションをクリアしていく体験型のボードゲームを完成させたんです。JAXA宇宙科学研究所の特別公開に出展した際には,多くの子どもたちに体験してもらえました。理工学部のオープンキャンパスでも使ってもらえるよう,バージョンアップを図っているところです。

青木 ここまでご紹介してきたのは活動のほんの一部で,宇宙の魅力を伝えるアイデアは尽きません。引き続き,より多くの人に宇宙を身近に感じてもらえるコンテンツづくりを学生主導で進めていきます。クリエイターの卵である学生自身も,『N.U Cosmic Campus』の創作活動を通して“宇宙は手が届くものだ”という感覚を抱いてくれていると思います。また,アニメや映画,小説などのフィクションをきっかけに宇宙に興味を持つようになり,宇宙研究に挑戦しようと考える若者もいるでしょう。実際の宇宙研究にフィクションを掛け合わせたこのプロジェクトにより,多くの若い世代に宇宙に関心を持ってもらえればと願っています。そして,技術面から研究に携わるだけでなく,クリエイターの立場からも宇宙のロマンに迫ることができるという夢と可能性の広がりを感じてほしいです。

布目 宇宙と聞くと自分とは遠い世界のように感じるかもしれませんが,クリエイターとして関わることもできて,その魅力を感じながら多くの人と夢を分かち合えるのです。私たちは宇宙事業にエンタメが参入できると証明し,新ジャンルとの融合の先駆けになりたいと思っています。こういった試みができるのは,日本大学の広い学びのフィールドがあるからです。1つの大学の中で全く違う分野の学生同士,研究者同士が互いをリスペクトしつつ高め合っていけるというのは日本大学ならではの環境でしょう。学内で多様な研究が展開されているからこそ,こうしたコラボレーションの可能性は無限に広がるのです。芸術は,どんな分野でも必要とされるイノベーション力を磨ける,開かれた学問だと知っていただけたらうれしいです。