「2025年度日本大学進学ガイド」
インタビュー

安心安全な避難生活実現のためには,民間企業の力が鍵に
研究の始まりから実装まで,日本大学の総合力で解決

危機管理学部 危機管理学科 准教授

宮脇 健

PROFILE

2009年4月から2015年3月まで日本大学法学部にて助手を務める。その後,日本大学総合科学研究所専任講師や気象大学校非常勤講師などを経て,2016年日本大学危機管理学部着任。2021年4月より現職。災害時のリスク研究のみならず,社会調査や公共政策などにも知見が深い。ゼミでは世田谷区と連携した防災への取り組みも実施。

話し合いを重ね,リスクへの対応を検討する

私が専門としている「リスクコミュニケーション」とは,自治体の住民や行政が災害時のリスクについて話し合うことを指します。例えば,避難所が設置される場所を周知したり,避難所が機能しなかった場合の対応を検討したりしておけば,いざという時に安心です。また,行政がどのように避難所を運営するのか,住民の代表者と話し合っておくことで,避難生活がスムーズに運ぶでしょう。住民と行政,両者の主張が食い違うこともありますが,どちらが間違っているということはありません。お互いの違いを理解して歩み寄り,起こりうる事態に対応することが重要です。災害発生前に検討を重ねるだけでなく,災害発生後も現状で何ができるかを話し合うことで二次被害を防げるという側面もあります。私はこのようなコミュニケーションについてアンケート調査などを通じて研究を進め,浮かび上がった課題や災害で生じるリスクを住民や行政に提示することで,災害に強い社会の実現を目指しています。

民間企業の参加で,避難所運営をより円滑に

長年の研究の中で課題と感じていたのは「どのようにすれば人々をスムーズに避難させ,避難後の安全を確保できるか」という点です。災害時にはさまざまな情報が自治体に集まりますが,それらを住民にうまく発信できていないことが,避難が遅れる原因ではないかと考えました。そこで,理工学部の山中新太郎教授とともに災害時避難行動支援システム『災害用パーソナル・アラート』の研究開発を進めています。実用化されれば,位置情報を活用して個人の状況にあった避難情報をスマートフォンなどに即時に届けられます。アプリや機器などの開発が可能な理工学部と連携したからこそ実現可能なシステムであり,文理が融合した研究にやりがいを感じています。
その他に私が研究しているのは,避難所運営などの業務を民間企業に委託することです。被災地における最大の課題は人員不足であると考えています。例えば,世田谷区の場合,人口約90万人に対して区の職員は5,000人ほど。一つの避難所に一人の防災の担当者が常駐するのは難しいと考えられます。さらに,職員が遠方に住んでいたり,被災地で過疎化が進んでいたりすると,人手がより不足します。そんな時に頼れるのは,被災地域の近隣に位置する企業や被災しなかった地域の人々です。例えば,警備会社で日常業務として待機している人員を避難所運営の対応に回せるかもしれません。必要な人員が確保できれば,よりよい避難所環境を提供できるでしょう。もちろん,民間企業が業務委託をした際には責任や権限の所在を考える必要がありますが,既に一部の自治体では,積極的に検討されています。私は,そういった自治体や委託先企業へのヒアリング調査を実施し,課題やメリットを抽出しています。それらを整理したうえで,理想的な官民連携の形を導き出し,自治体も民間企業もWin-Winになる環境を検討していきたいと思います。

災害を自分ごととして捉え,日本に合った対策を

避難所は災害時に不可欠な存在ですが,性別・年齢・価値観の異なる大勢の人々が共同生活を送るのは想像以上の困難を伴います。ストレスがたまり,普段なら許せることでもイライラしてトラブルに発展することも多く,衛生面や騒音,ジェンダーをはじめ,さまざまな課題が考えられます。避難所の環境に関して,海外との比較がよく話題に上がります。例えば,欧米ではテントを張ることでプライバシーを確保する方策が取られており,日本は遅れているという主張が一部では見られます。しかし,日本は諸外国と比べて災害の多い国です。海外から学ぶことはもちろん大切ですが,前提となる社会環境や法律,制度などが大きく異なる海外と日本を比較し,日本の避難所が劣悪だと断定するのではなく,上記の条件を踏まえて考えてみる必要があります。日本の課題の一つは,災害が多いにもかかわらず対応する人員が少ないこと。国内の状況に目を向け,日本にあったやり方を模索することが解決への近道です。私たち全員が関係者であると認識し,自分ごととして捉えられるようになれば,話し合いが前進すると考えています。
危機管理学部では,学生が災害に関する課題を主体的に考えられるよう,先生方が授業をされています。学生たちが将来行政職員や民間企業に就職し,学んだ知識や意識を広く共有できれば,日本の状況はよい方向へ変わっていけるのではないでしょうか。また,私は学生と地域のつながりづくりにも力を入れています。防災教育や研究を通じて,地域の人々と関わることで,コミュニケーションが活発になり,災害への対策が進展するでしょう。

幅広い専門知識へのアクセス性の高さが,研究の推進力に

『日本大学災害研究ソサイエティ(通称:NUDS)』では,日本大学の多様な研究成果を融合させ,災害に強い社会づくりに取り組んでいます。私がNUDSに参加したきっかけは,危機管理学部の吉富望教授からのお誘いでした。「理工学部と共同で災害研究を行わないか」と言われたのです。理系学部の知識を借りることでより高度な災害研究を実現でき,社会実装を進められると思い,参加を決めました。NUDSには文理の枠を超えた多くの学部が参加しており,必要な専門知識にアクセスしやすいのがメリットです。例えば,避難所民営化を実装させるにあたっては,法的な知識が必要不可欠。ゆくゆくは法学部の先生方と協力しながら,実現方法を考えていくことになるでしょう。避難所の環境などについては,芸術学部のデザインやアイデアが必要になると考えています。他にも,情報システムや医学,心理学など,さまざまな先生方が所属されています。多角的な知識をすぐに借りられる環境は,総合大学の日本大学ならではです。
学生にとっても,多様な興味関心に応える選択肢の広さが日本大学の魅力だと思います。特に危機管理学部には,さまざまな“危機”に関する授業や専門家が揃っており,他大学にはない専門性の高さが特徴です。学生の皆さんは,貴重な環境を生かしてぜひ自分のやりたいことに挑戦してください。