「2025年度日本大学進学ガイド」
インタビュー

五感を使って竹と町の魅力を発信
学生の力で地域に温かい灯りを

危機管理学部 危機管理学科 4年(2024年3月現在)

石井 颯太

大学が生んだ地域とのつながり。竹を活用して網代の町を照らす

静岡県熱海市の網代で,新たなイベントを開催しました。かつては東京や大阪に並ぶほど漁業が盛んだった網代ですが,今では少子高齢化の影響でその活気が徐々に失われつつあります。また,地域で愛されてきた長谷観音(長谷寺)では竹林の管理が行き届かず,放置竹林が問題となっていました。どうにか地域の課題を解決できないかと悩んでいた地元住民の方々。その中に,網代出身で,地域を盛り上げるために活動している日本大学の卒業生がいらっしゃったのです。「卒業生が,竹を活用した地域活性化の取り組みに力を貸してくれる学生を募集している」。そう学部の職員の方から話を聞き,ぜひ力になりたいと手を挙げました。私は以前,SDGs推進をメインテーマとした自主創造プロジェクトを行っており,本来ならば廃棄される竹がどのように町の再興に結び付けられるのかと関心が湧いたのが大きな理由です。また,私の地元である鎌倉も竹林が多く,竹が身近な存在だったことや,放置竹林が全国的に問題となっており,何かできることはないかと考えたことも参加のきっかけでした。
実施にあたっては,企画内容を考えるところから進行,運営まで私たちが主体となって進めました。ゼロベースからの始まりでしたが,周りの方々との「縁」に助けられながら,イベントを実施することができました。





育んだ「縁」が私たちを救ってくれた

本プロジェクトに参加したのは,生物資源科学部2名と私を含む危機管理学部3名の合計5名です。学部・キャンパスが異なり,初対面のメンバーもいる中で,まず必要なのは心の距離を埋めることでした。プロジェクトを実施する前に何度かオンラインツールで顔を合わせ,お互いのことを知るところからスタート。自己紹介や趣味のことなど気軽な話題でコミュニケーションを深めました。その甲斐もあり,プロジェクトが始まる頃にはすっかり打ち解け,チームワークを築くことができました。
企画内容を決める段階では,地元住民の方々にもお世話になりました。竹職人の方から竹の活用方法のアドバイスをいただいたり,地元の方々に町内を案内していただいたりと,竹の魅力や歴史溢れる網代の街並みのよさを発見。また,日頃から海洋や山林について研究している生物資源科学部のメンバーからは,専門的な知識に基づいたアイデアが提案されました。自分にはない新たな発想に触れられて,学部連携の醍醐味を実感できた瞬間です。こうしてさまざまな意見を合わせ,「竹灯ろうを作って町を照らす」イベントに決定。自分たちで竹灯ろうをデザインして,お客さんに楽しんでもらおうというコンセプトを立てました。
企画内容が決まったら次はいよいよ実製作です。5回にわたって週末に網代を訪れ,数百基の竹灯ろうを作りました。デザインが得意なメンバーが筆頭となり,一つひとつ手作りで製作。「網代を盛り上げたい」という我々の熱意を汲んで,作業スペースとして網代漁港の施設を貸していただいたり,製作を手伝っていただいたりと,地元の方々が応援してくださったのが心強かったです。また,製作には近隣の静岡大学の学生も参加。製作を通じて地元の方々や他大学の学生など,貴重な縁を育むことができました。完成した竹灯ろうは,メインとなる網代漁港や,「ひもの銀座」という商店街,弁天神社に設置。写真を撮って楽しめるフォトスポットのほか,子どもが竹の遊具を体験できるスペースを設けるなど,多くの方が楽しめるような工夫も凝らしました。







たくさんの思いが詰まった「竹あかり」。ずっと受け継がれるイベントになってほしい

こうして全員の力を集めて創り上げたイベントのタイトルは「竹あかりの縁~共に照らそう網代のまち~」。メンバー全員で思いを込めて名付けました。例えば,「竹あかり」の「あかり」はあえてひらがなにすることで,見た人に柔らかなイメージを与え,気軽に足を運んでもらおうという思いがあります。また「縁」には,イベントを開催するにあたって協力してくださった方々への感謝,そして,このイベントが網代と来場者の方々の「縁」をつないでほしいという願いを込めました。その思いが通じたのか,当日は予想を上回るほどの盛況となりました。網代の方々はもちろん,遠くの町からいらっしゃった方も。年齢層もさまざまで,若い方からお年寄り,家族連れまで幅広く参加いただきました。参加者の皆さんからの「地域を盛り上げてくれてありがとう」,「今後もやってくれるといいな」という言葉が何よりも嬉しかったです。さらに,「竹灯ろうを持って帰りたい」という声もあり,それほどこの竹灯ろうが愛されているのだと実感できました。持ち帰った竹灯ろうをきっかけに,イベントに来ていない方にも取り組みを知ってもらえたら,もっと興味関心の輪を広げられるかもしれません。私たちが主体となって考え,創り上げたこのイベントが,網代の町の新たな価値を拓いていくのだと思うと,とても嬉しかったです。

このプロジェクトに参加できたことは私自身の大きな成長につながりました。ゼロから自分たちでイベントを作り上げる経験は,なかなかできるものではありません。自ら考えて形にする力は社会に出てからも必要不可欠でしょう。たくさんの人と協力して成し遂げたこの経験を,自信にしていきたいです。また,これまでつながりのなかった網代という地域が,今回を機に特別な存在になりました。今後も後輩たちがこの思いを引き継いで,さらなる盛り上がりをもたらしてくれることを期待しています。