最下位に終わった今年の箱根駅伝から7ヶ月。日本大学陸上競技部特別長距離部門は、個人として、チームとしての成長の鍵を握る夏合宿を、8月上旬から北海道釧路市でスタートさせた。

3年連続の箱根駅伝出場、そして上位への躍進を目指すチームの中で、新雅弘監督をサポートしながら、選手たちを見守り続ける武者由幸コーチ(2006年文理学部卒)に、監督とは異なる視点からチームの現状について聞いた。

  (取材日:2025年8月15日)

愛されるチームになっていくことが必要

武者由幸コーチ

武者由幸コーチ

−新監督が就任して約2年半、チームの成長をどう感じていますか?

 

監督が来てから年々強くなっているのを実感しています。選手たちの練習に対する意欲だったり、箱根駅伝を走りたい、活躍したい、シード権を獲るんだっていうところのモチベーションまで、やっと来ていると感じるので、そこは少しずつ成長してきているんじゃないかなと思いますね。

監督とのコミュニケーションも、就任したばかりの頃は、お互い探り探りでやっていた部分もありましたが、今は学生も思ったことを言えているし、年々コミュニケーションが取れるようになって、雰囲気も変わっているなと感じています。

 

逆に、まだ足りないと感じるところは?

 

足りないところはいっぱいある(笑)。チーム全体として本当にモチベーションを持ってやれているかと言えば100%ではないし、全員がそれを持っているかと言うとそうでないところもある。逆に言えば伸びしろがまだたくさんあるので、楽しみでしかありません。

 

競技以外の部分ではどうですか?

 

生活面での取り組み方ですね。寮の部屋などを見て回ると、汚かったりするところもある。そこを1回言えばできる学生もいれば、そうじゃない学生もいる。日々の小さな積み重ねがタイムに比例してくることを理解してもらえたら、自ずと行動が変わり、競技力にもつながっていくはずです。

長距離で主力になっていくような選手たちはケガをしないでどれだけ練習をこなせるかというのが勝負になってくるので、そういう点でも生活面を充実させる意識が全般的に高まっていけば、チームとしても大きく変わってくる。まだできていないところは指導していく必要があると思っています。

あとは、誰からも応援されるようなチームを目指していかないとダメだと、常日頃感じています。

みんなから愛される、応援される、応援したくなるようなチームとなれば好循環が生まれ、組織力と人間力も向上していくと思います。

−地域貢献などの取り組みは?

 

夏合宿では、昨年も行政からの依頼を受けて小学生の陸上教室を開きましたが、年間通してはできていません。

やはり多方面と関わり、地域だけじゃなく大学も含めて取り組んでいく必要があると思います。他の競技部ではいろいろとやっていますし、駅伝という人気スポーツにおいて他の大学ではそうした取り組みをやってSNSで発信しているところもあります。地域とのつながりをつくり、地域の方々に日本大学を身近に感じてもらえれば、そこからチームへの応援パワーが生まれると思いますし、競技だけでなく、さまざまな活動をしていかなければ、これからの時代は勝ち上がっていけないんじゃないかと感じています。

 

本気で強くなるために、今やるべきことがある

−チーム戦力の面ではどのように見ていますか?

 

4年生は最後なので、何としても頑張りたいという気持ちは練習でも伝わってきています。4年生が強い時は、結果に結びつくと思うので、4年生の頑張りには期待しています。ただ、今の日本大学は発展途上。たとえ苦しい状況であっても、チームで助け合える戦力・選手層にしていくことが、この合宿の意図だと思っています。部の全員に競争意識が生まれてくれば全然違うので、B・Cチームからはい上がってくる選手たちが出てきてほしい。それがあるのがいいチームだし、それがスタンダードになってほしいなと思います。

そういう点でも、まだ時間はあるので期待したい。1年生が本戦に間に合う時間も十分ありますから、チャンスはありますね。

 

チームを強くするために取り組んでいることは?

 

僕はOBとしても、箱根に出ることは当たり前で、優勝したいと思って携わってきています。単に箱根駅伝に出られればいいと目標レベルを下げることはしません。我々はできることを努力しますが、大学や校友の皆様、企業様等に支援していただかないと他大学に対抗できません。ですから、大学に提案書を出しました。「結果が出ていないのに」と言われるところもあると思いますが、僕らが本気で目指し、本気でやっているということをわかってもらいたかった。ぶつかりあった結果、大学も本気になってくれていると実感しています。もちろん、お願いばかりではなく、自分たちもきちんとやらなければいけない。有望な高校生に日本大学を選んでもらうために、魅力ある組織にしていくことが重要であり、斬新なプランも発信していくことが必要だと思っています。

 

箱根予選会突破へ向けて課題を挙げるとすれば?

 

どこを目指すかっていうところだと思いますね。選手はシード権を獲りたいし、監督もそのつもりで指導していますが、選手の可能性は無限大だと思うので、どこまで伸びるかっていうところ。この夏で本当に変わってくると思うので、夏を越えてあとは予選会でどう戦えるか、そこにピークを持っていけるかが大事だと思います。

昨年は予選会の前に疲れ切ってしまったような状態で厳しい戦いでした。そのあたりの準備を、選手も我々指導者も反省して臨んでいかないと、本戦で自信を持って戦えないと思います。予選会をトップ通過するくらいのモチベーションで、最低でも3位くらいでいかないとシード権は望めないのではないか。ただ、それができる力は十分にあると思います。

 

−目標達成のために必要なことは?

 

一番は、チーム全員で同じ方向に向かうという高い意識を持つこと。何を目指すかという目標をしっかり立て、それを実現するためにどうやっていくのかを考え、全員がそれに向かってクリアしていくというのをしっかりやるところだと思います。そういう1つの目標に向かっていく結束力が非常に大事ですし、そこに向けては練習も生活面も、いろんなことが紐づいているように思います。

新監督の体制になって3年目、今年は力のある4年生がいるので楽しみですが、その力を出せるか出せないか。夏合宿は、その能力を自分たちで発揮できるようにするための、鍛錬期だと思いますし、選手たちの頑張りに期待しています。

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