日本大学陸上競技部特別長距離部門のOBであり、箱根駅伝を2度走った経験から解説者としても活躍する俳優の和田正人さんと、新チームの主将を務める山口聡太選手(文理4・佐野日大)と、双子の兄で2年連続箱根駅伝出走を果たした山口彰太選手(スポーツ科4・佐野日大)の“山口ツインズ”が対談。後半は、和田さんの経験談から箱根駅伝への向き合い方や、今シーズンに懸ける思いなどを語り合った。

「楽しむこと」ができれば、走りも変わる

−今シーズンは三大駅伝に出ることになりましたが、そこを見据えた練習メニューなど、これまでと変わってきている部分はありますか?

 

聡太 スピード練習はちょっとペースが上がったという感じはありますが、あくまで土台はこれまで通りという感じで今はやっています。

 

和田 今この時期、月間何kmくらい走るの?

 

聡太 6月7月で1900kmくらいですかね。

 

和田 そんなに。 7月8月で1000km・1000kmみたいなことをこの数年やっているんでしょ?

 

彰太 ずっとそうですね。

【日本大学】

和田 やばいね。初年度からそんなに走ってたの?

 

聡太 最初からですね。今よりむしろ最初の頃の方が、試行錯誤しながら突貫工事みたいにやっていたので一番走っていました。

 

和田 他大学の監督たちが言っていたもの、「日大って、7月8月に1000km以上ずつ走っているらしいよ。しかも一部の選手だけじゃなくて、全員がだって」と。それが噂になっていたから、「日大は予選会通るよ」ってみんな言っていた。それで本当に通ったしね。

 

和田さんは3年生の時に箱根駅伝に出られなかった経験から、メンタルをコントロールする術が身についたということですが?

箱根駅伝9区を走る和田さん

箱根駅伝9区を走る和田さん

和田 3年生の時に10000mで28分56秒ぐらいを出して、「俺も大学長距離会のエースクラスに成長したぞ」って言っていたんだけど、それが自分の中でプレッシャーになってしまい、そこから空回りして怪我をしてしまった。ごまかしごまかし練習を続けて、なんとか箱根には間に合いそうだったけれど、3区を走る予定だったのに上手く走れる自信がない。すると本番2日前くらいから、急に息が入ってこなくなって苦しい。そのまま1月1日になってしまい、「どうしよう」って思いながらも、前日の調整練習をこなしたけれど、「もう無理」ってなってしまった。このまま黙って走ることはできるけど、もしブレーキになったらどうしよう、止まってしまったらどうしよう。襷がつながらなかったら、来年は予選会になる…それだけは絶対だめだって。迷った末に、監督に正直に言うことにしたんです。それでも心の中に淡い期待があって、「和田に走ってもらわないと困る。走ってくれ」と監督に言われたら走ろうと思っていたんですが、「ちょっと呼吸が苦しくて」と言ったら、「よし、代わろう!!」って即答されてね。その場で膝から崩れ落ちて大号泣した。箱根駅伝を走れなくなって悔しかったし、家族が高知から車で東京に向かっている最中だったので申し訳なかった。今でもはっきり覚えているほど本当に悔しかった。

 

ただ、この悔しさを来年に生かさなきゃいけないと思ったし、何よりもこの息ができない原因は何なんだって。すぐに大きな病院に行っていろいろ調べたけれど全く異常はなく、「おそらく心因性の過呼吸です」と言われ、「あ、メンタルですか」ってね。

振り返ってみると、確かに自分の中での環境の変化…28分台を出して、さほど知られていなかった選手が、急に全国区の階段を上り始めて「もっと頑張らなきゃ」と自分で無駄にプレッシャーをかけちゃった。それが原因ならば、どうすればなくなるのかを考えた時に、まず「頑張らんとこ」って思った。「エースとかはもういい。もっと自分を大事にしよう」って思い始めて、練習も無理して頑張らなくなった。そうしたら過呼吸がうまくコントロールできるので、ほどよくサボるっていうことも大事だなっていうことに気づいた。4年生になってほどよくサボれる立場にもなったから、それまでは自分を追い詰めることしかやってこなかったけれど、ほどよく自分がやりたいように、甘やかすことを覚えた。そうするとバランスが取れてメンタルも少しずつ強くなって、過呼吸が一度も起こらなくなりました。

 

それでも、また夏に大怪我をして3ヶ月間走れず、ジョグを始めたのが10月からで箱根駅伝まで3ヶ月しかない。出雲も全日本もあきらめ、チームから離れて個別で練習して、合流し始めたのが11月の半ばぐらいから。なんとかギリギリ調子を合わせて、箱根駅伝に向けてまたプレッシャーかけるかと思いきや、「最後は楽しもう!みんな頑張ってくれ、俺は楽しむわ!」くらいの気持ちで臨みました。さっき2人の話を聞いていて大したもんだなと思ったけれど、まさに同じように全くのノンプレッシャーだった。笑顔で楽しむ、笑顔で襷リレーをする、そんな気持ちで走って、内容は納得していないけど、区間5位になり、ラストランは自分の中ではやり切ったっていう感じで終わりました。

【日本大学】

要するに、メンタルって自分で何とでもなるもの。自分がメンタルを悪いものにするし、自分でメンタルを良くもできる。周りからどうこう言えるものではないので、いかに自分でコントロールするか。己を知る、己の説明書をもう一回よく読み込むというのが大事だし、それがよく分かれば分かるほどコントロールが上手くできる。一流選手にはそれが一番必要だし、一流選手に共通しているのは、やっぱりメンタルの強さ。それが何かと言ったら、練習をサボれるかどうかってところなんですよね。強心臓の人たちはそこが上手いと思う。みんながこの練習をやっているけれど、俺が今これをやったら絶対に調子を崩す、足を壊す。

それが分かっているからここはもうサボろうとか、自分のため競技力向上のために積極的にサボる。そこを上手にできるかどうかです。

だからと言って、「和田さんがサボれって言ってました」とか、そういうことじゃないからね(笑)。自分の考えや体のコンディションを、監督にしっかりと伝えられるようなコミュニケーションを普段から取っておくというのがすごく大事かもしれない。

今後、日大の組織力が高まってきて、チームとしてうまく回り始めて土台ができ、そこに同じものを積み上げていく、より精度の高い人たちを積み上げていくとなると、そこを支えるのは本当に少数の人間になる。つまり“個の力”が強くないと、これ以上の大学トップチームと争うことが難しくなる。組織力の上で、他校のエースたちと堂々と戦っていけるような“個の力”を数多く作っていくことが、絶対に上位に行く必須条件だと思う。だから、メンタリティとかそういったものを含めて、己を理解し、己を磨いていくってことも同時進行でやっていくことも必要だなってことです。

 

彰太 緊張することとかはないんですか?

 

和田 それはあるよ。たとえばドラマとか映画とかで、今日一緒に仕事するのが木村拓哉さんだったりすると、緊張するというのもある。でも何で緊張するんだろう?何で有名人と一緒に仕事をすると緊張するんだ?他の人と何が違う?そうか、この人に嫌われたくないって思っているからだな。ならば、嫌われてもいいやって思う。嫌われたくないと思うと演技も無難なものになってしまうけど、嫌われてもいいやと思ったら結構何でもできちゃう。そこの仕組みだけ分かっておけば、どうすれば緊張しないかというのも分かってくるよね。

 

彰太 そうですね。

 

和田 駅伝でも、その都度その都度で状況が違う。出雲で緊張する、全日本で緊張する、箱根で緊張する。試合も区間も違えば、状況やシチュエーションも違うけれど、それぞれの時に「今なんで自分は緊張しているんだろう」と考えてみる。いい結果を見せたいとか、良い走りをしたい、失敗しちゃいけないとか、自分をどんどん縛り付けちゃうと緊張しちゃう。じゃあ、どう考える?一番簡単なのは、「楽しめばいい」って最後に全部味付けしちゃえば、なんとなく緊張感がほぐれてくる。「遅れちゃいけない」とか考えちゃうと、自分を緊張させちゃうから、「遅れたらごめんね」ぐらいな感じでいいんじゃない?

三大駅伝の経験を、次につなげていってほしい

今年、2人は初めて出雲駅伝に挑みますが、出雲路を2回走っている和田さんから何かアドバイスはありますか?

【日本大学】

和田 チームとしての仕上がり、ピークをどこに持っていくかということで、出雲をどう走るかが問われるんですよね。例えば三大駅伝制覇を目指しているチームは、出雲はめちゃくちゃ頑張る。その後の全日本も然り。そうではなく、あくまでも箱根で勝つことが大事だという考えを持っている大学は、ある意味そこまで出雲は重要視しない。選手たちがちゃんとそこに理解が及んでいるかどうかが必要だと思うので、出雲をどう捉えているかというところはまず一つポイントかなと思っています。

夏合宿が終わった後、大体は、出雲や全日本に向けて少し短い距離のスピード練習が増えてくるし、スピードを上げながら少し長い練習も含めながらと、スピードと持久力を共に磨いていく時期になっていたと思うけれど、そうか、今年は初めての流れなのか。それまではその時期も箱根の予選会に向けて20kmの練習をしていたんだものね。

 

どのチームが出雲に向けているのか向けてないのかは分からないけれど、僕は出雲に合わせようとしなくてもいいのかなと考える。全日本でシードを獲りに行くぞっていうのであれば、出雲はその流れの一環として、今シーズン初めての駅伝だなぁくらいの感じで、ワクワクの気持ちを持って臨むくらいがちょうどいい。その雰囲気を味わって楽しかったら、また出たいなって思うし、箱根でシードを獲ったら出雲に出られるわけだから、次も絶対にシードを獲るぞというモチベーションにつながる。箱根でシードを獲って出雲に出るという循環をまず作って、全日本もシードもしくは予選会から必ず出る。この3大駅伝の経験を、確実に後輩たちにつないでいって1年間のローテーションを作ることをしっかりやってほしい。箱根の失敗はね、いろいろな支障があって大変だけれど、出雲だけはシードもないし、出雲の結果はどこにも反映されないんだから失敗してもいいぐらいの気持ちで臨んで、思い切って楽しんでほしいですね。

 

−和田さんには昨年一昨年と箱根駅伝壮行会にも来ていただきましたが、チームの変化や進化を感じることはありましたか?

 

和田 その前に、新監督1年目にスポーツ報知の取材で練習を見に行った時は、当時の主将の下尾(悠真、2025年・文理学部卒)君だけが唯一、僕のところに来てくれていろいろと会話しました。一昨年の壮行会に来た時は、外で寒かったからか、みんな表情が固くて距離感をすごく感じていたんですけど、昨年末の壮行会に来た時に、おやって思ったんです。一通りのイベント終わった後に選手たちが寄ってきてくれて、誰だったか覚えてないけれど「和田さんって当時の自己ベストいくつですか?」って聞かれてね。僕も「10000m28分50いくつくらいかなぁ」って答えたら、「え?あのペラペラのシューズでですか?」みたいなこと言ってくるわけですよ。「ハーフだったら1時間2分ちょっとだから、まだ箱根出られんぜ」って言ったら、「すごいっすね」みたいな。そんな感じの空気感で話をさせてもらって、なんか変わったなって思ったんです。受け身だった選手たちが、少しアクションを起こして自ら何か動こうとしているっていう感じ。しかも12月の本番前のちょっとピリッとした雰囲気の中で、この余裕は何だろう。今年なんかあるんじゃないかって思った瞬間でしたね。

 

 

−最後に、最終学年として、駅伝に対する思いや目標などをお願いします

 

彰太 出雲や全日本もありますが、やっぱり1番は箱根で前回より上を目指すってことですね。タイムも速くなって自信がついてきたので、任された区間を上位で走れるように、そしてもっと上の大学と勝負できるように、そうしたところでチームを助けられるような走りがしたいですね。

 

和田 何区を走りたいとかある?

 

彰太 10区がいいですね。

 

和田 10区?前回の借りを返すためにもう一回1区と言うのかなと思ったけれど、なぜ?

 

彰太 去年のゴールシーンを見て、もっと上の順位でゴールテープを切ったら、さらにすごいだろうなって。

 

和田 いいね。なるほど、面白い。聡太君は?

 

聡太 やはり箱根駅伝を1番の目標としてきて、大学に入ってからずっと、個人で区間賞を獲りたいっていう思いがあるので、

そのラストチャンスに向けて頑張っていきたいです。去年の4年生たちのかっこいい姿を見て、4年生はああじゃないといけないと思うので、主将としても「この主将について来て良かった」と、後輩たちに思ってもらえるような走りをしたいですし、それはやっぱり区間賞を獲ることだと思っています。

 

和田 去年の4年生たちにお世話になって、「とても素晴らしくて」っていうようなことが言える今の4年生、これがすごく変わったなと思いますね。本当にいいチーム。「去年の4年生たちを超えるように」とか、全員がそこをちゃんと言えるようなチームになっているというのはすごいなって思うし、期待しかないです。

 

聡太・彰太 ありがとうございます。

 

和田 でも、あんまり「期待している」とか言うとプレッシャーかかるし…(笑)。とにかく僕が言えることは、4年生はもちろん責任もすごくあると思うけれど、個人としては楽しんでほしい。一生で一度の“最後”だから、最後は本当に楽しんで終わりっていうところで、一番能力を引き出してくれたらいいなと、楽しみにしています。

 

−ありがとうございました。

Profile

和田正人(わだ・まさと)

1979年生まれ。高知県出身。2002年、文理学部卒。箱根駅伝は第76回大会(9区・区間7位)と第78回大会(9区・区間5位)の2回出走。出雲駅伝と全日本大学駅伝も各2回出場。卒業後NEC陸上部に加わるも翌年に廃部となり、それを機に俳優を志す。’05年にデビューして以降、数々の映画・ドラマ・舞台等で活躍。’18年から箱根駅伝のNHKラジオ放送でゲスト解説を務める。

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