日本大学での4年間の学びを経て、多くの学生が社会に、世界に羽ばたいていく。アスリートも、その学生の一人である。急性リンパ性白血病から復帰を果たし、アスリートとして結果を残すだけではなく、学生としての本分である学業も全力で取り組んだ。そこで得たものとは、何なのか。池江璃花子(日本大学スポーツ科学部・4年)が大学で歩んだ4年間を振り返る。第2回は、日本大学スポーツ科学部で学んだこと、得たことを振り返ります。

状況が変化していく中でも知ることができた学ぶ楽しさ

2019年4月。本来であれば、池江璃花子も、入学式に出席しているはずだったが、その姿はなかった。同年2月に『急性リンパ性白血病』であることを公表し、闘病のため入院していたからだ。闘病生活は同年12月まで続いた。
池江が取り組む水泳への復帰も2020年から本格的にスタート。久しぶりに水に入ったときは、本当に楽しそうな笑顔を見せてくれていた。
 
いよいよ池江自身も楽しみにしていたキャンパスライフがスタートすると思っていた矢先、社会が一変。新型コロナウイルス感染症である。学校での授業はほとんどがオンラインでの開講となり、友人たちと顔を合わせることも激減してしまった。
 
寂しさもあったが、1年時はほとんどの時間を闘病に費やしていたこともあり、大学で『学ぶ』ことはとても楽しかった。
「授業はとても面白いし、楽しかったです。特に3年生で履修した「アダプテッド・スポーツ」という科目が面白いと思いました。障がい者の方たちのスポーツを実際に体験してみよう、というものでしたが、すごくいろいろなやり方があるんだな、って勉強になりました。たぶん健常者の方たちよりももっと難しいことをしなければいけないんだな、と考えると尊敬する気持ちがわいてきました。こういうことは座学だけで学ぶよりも、身体を動かしている方が楽しいですし、分かりやすいと思いました」

コーチング学を通して様々な問題に対する適切な“解決能力”が身についた

そして、池江はコーチング学を中心に学びを進めていく。スポーツ科学部の中核領域でもある学問だ。スポーツの現場では、専門分野だけでは解決できない問題も多い。それを複合的に考え、取り組み、判断し、解決していく力が指導者のみならず、選手自身にも必要な要素となる。アスリートやそのスポーツが抱える問題の解決方法の提示、その実践や適応させていくための方策など、いわゆる問題の“解決能力”が求められるのだ。その全てを網羅し、学び取れるのが、スポーツ科学部の特徴でもある。池江もほかの学生と同様に、アスリートとして“解決能力”を身につけていくため、日々学習を続けていた。
「水泳をテーマにした、コーチング演習の授業も楽しかったですね。人に教える、ということ自体は経験として持っていましたが、ちゃんと速く泳げるようにしたい、という気持ちで教えたことはありませんでしたので、とても面白かったです。泳ぐ側が成長していく姿を、教える側の立場で見られると、自分も教えていて良かったな、と思えますし、さらに『どうしたらもっと速くなるんだろうか』ということを考えるようになります。その時間はすごく面白くて有意義でした」(池江)
 
トップアスリートの多くは、自分で自分をコーチングできる選手だ。まず自分が目指す目標を定め、目標達成までの道筋を立てる。一つひとつ段階を踏んでトレーニングを積み重ねて行くが、練習の度に自分のパフォーマンスを深く分析し、問題があれば解決法を探り、試し、習得していく。それを日々繰り返して行くことで、最終的な目標に辿り着くのである。世界で活躍するトップアスリートは、この課程を決して他人任せにしない。自ら学び、自ら考え、自ら行動していく。決して指導者に寄りかかるのではなく、自立して指導者と“共に歩む”ことができるのである。
その基礎とも言うべき考え方や取り組み方について、池江はスポーツ科学部で学び取っていく。

「3年生からスタートしたゼミの講義では、水泳の面白いところを知ることができてすごく興味深かったです。例えば、パワー測定。病気前の記憶があるからこそ、測定結果を数字で見ることで明確に分かるようになります。こういう研究を続けていくことによって、さらに上を目指せるような気がします」

自分のプラスになると感じたから日本大学で学びたいと思った

池江の卒業論文。自身のプラスになるだけではなく、後輩たちの糧にもなる内容に仕上がっている

池江の卒業論文。自身のプラスになるだけではなく、後輩たちの糧にもなる内容に仕上がっている

トレーニングの成果が見える、というのは、アスリートにとって大きなモチベーションになる。試合やレースの結果だけではなく、ハッキリと数値として目に見えると、今の自分に何が足りないのか、これから何に取り組めば良いのかもハッキリと分かる。スポーツ科学を研究することは、学習という意味での成長のみならず、パフォーマンスの向上にも大きく貢献することになるのだ。 池江が4年時の卒業論文のテーマに選んだのは『競泳日本代表選手のバタフライ泳のパワーとタイムの変化について』。自身を被験者とし、過去と現在の牽引パワーを比較。それとタイム、泳速度など様々な目線から分析し、泳速度とパワーの関係性、そこから見える課題について考察したものである。自身の感覚だけではなく、その感覚を裏付ける科学的なエビデンスがあることを学べたことは、池江が今後、自身を向上させるために何が必要かを考える大きな力になることだろう。 「そういう研究をする環境が、このスポーツ科学部には整っています。定期的に継続して測定していくことはやって損はありません。自分が強くなるために必要なことならば、これからもどんどんやっていきたいと思っています」(池江)

また、一つひとつの学びのみならず、日本のトップアスリートが多く在籍している、ということも、池江というアスリートにとっても、ひとりの人間にとってもプラスになっている。

「ここには、いろんな競技で活躍している選手と関わる機会が増えるだろうし、選手だけではなく、トレーナーの方やスポーツの世界で活躍することを目指す人たちにも会えるし、関わっていける。そう思ったときに、自分のプラスになることがすごく多い学部だと思って選びました。自分の将来の目標を本気で叶えにくる人がたくさん集まってくるわけです。そういう志の高い人たちが集まっている場にいると、たとえば自分が行き詰まったときには助けてくれますし、反対に助けられることもある。人の意見を聞くことによって自分の視野も広げられたりできる。本当に、いろんなことが学べた4年間でした」(池江)

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