我、プロとして

Vol.10 伊神幸泰 氏【前編】
株式会社セサミライフ代表取締役(1988年農獣医学部畜産学科〔現・生物資源科学部動物資源科学科〕卒)

卒業生
2021年03月17日

ごまとの出合いは、一つの導きであると考えています

独自の技術でごまのおいしさを追求している株式会社セサミライフ。創業者・伊神幸泰氏のこだわりが詰まった同社の製品は、老若男女から高い支持を得ている。コロナ禍で苦しい状況にあっても、あきらめることなく、不断の努力でこの状況を打開しようと奮闘中だ。前編では伊神氏のルーツ、彼がごまと出合うまでの人生にフォーカスしよう。

時代に合った食品を提供する家系

ごま加工品販売を開始するために伊神氏が「オフィスアイ」を立ち上げたのは2001年のことだ。それから2年後に出身地である岐阜県各務原市に株式会社セサミライフを設立し、自社生産をスタート。

「“体”によくて“味”にこだわる」をモットーに独自の技術で加工したごま製品が人気を集め、現在では唯一無二の胡麻専門店「ごまの蔵」を岐阜県に2店舗(高山店、お千代保稲荷店)、滋賀県に1店舗(長浜店)を構えるまでに成長した。

伊神氏の家系は各務原市で代々、食品ビジネスに従事してきた。

曽祖父は大正時代にこの地を開墾し、麦や芋を作り、祖父は戦後にそれらを加工し、水飴を販売。父は高度成長期に芋で育てた豚を世の中に供給していた。

「ひい爺さんのときは食べるのが困難な時代で、爺さんのときには世の中から甘いものを求められていました。父のときには良質なたんぱく質、そして私は健康的なごまというように、うちの家系はその時代に合った食品を世の中に提供しているのです。ですから私とごまとの出合いは、一つの導きなのだと考えています」

長嶋茂雄に憧れて

大学時代について語る伊神氏

大学時代について語る伊神氏

幼少時代の伊神氏は一人のプロ野球選手に憧れた。後に読売巨人軍の終身名誉監督となる長嶋茂雄氏だ。

「常に明るく前向きな長嶋さんの周りには人が集まっていて、当時おとなしい性格だった私は、長嶋さんのような人になりたいと思っていました」

伊神氏の長嶋氏への憧れは筋金入りだ。ごま加工品販売を最初に始めた会社名は「オフィスアイ」で、これは長嶋氏の「オフィスエヌ」にちなんでいる。また、現在所有する長嶋茂雄グッズは長嶋氏通算ホームラン数の444点に上るなど、常に伊神氏の心の中で長嶋氏が輝きを放っているのだ。

「大学時代は軟式野球部に所属したのですが、1年生で入ったばかりなのに、背番号3以外は着けないと先輩に伝えましたし、ゴルフの授業では3番アイアンばかり使っていました。銭湯に行くときにも3番のロッカーを使うなど、徹底しています(笑)」

大学は本学の農獣医学部畜産学科(現・生物資源科学部動物資源科学科)へ進み、肉質の良い豚を育てる研究を行っていた。大好きなお酒を覚えたのも大学時代で、研究室に泊まり込んで仲間と酌み交わした酒の味は格別だったそうだ。

「研究室でお酒を呑むのは褒められたことではないですし、今の大学生にはありえないことかもしれませんが、本当に充実した楽しい大学生活でした。4年間補欠でしたが、大好きな野球もできて、当時の仲間とは今でもいい関係を築けています」

伊神氏の日大愛の深さを何度も感じることができたのは、この取材で印象に残った一つだ。そんな彼の日大への願いは、大好きな箱根駅伝で母校が優勝する瞬間を見ることだ。

体に良く、人に喜ばれるもの

詰め合わせのギフトセット「胡麻ごころ 鶴」

詰め合わせのギフトセット「胡麻ごころ 鶴」

大学を卒業した伊神氏は名古屋にある食肉会社へ就職した。

「入社するまでは研究開発を希望していたのですが、入社日に営業をしたいと思って、会社にもそのように伝えました。外に出ていろいろな人に会ってみたいと急に考えるようになったのです」

営業部に配属された伊神氏の生活は多忙を極めた。各務原市の実家から名古屋の会社へ2時間かけて通い、接待なども含め、酒の席は多く、睡眠時間はかなり短かったそうだ。また仕事上、自然と食生活は肉が中心になっていった。

「食肉会社時代に食べた肉の量は一生分、いや二生分になると思います。また当時の食肉会社というのはイケイケな方が多く、上司がパンチパーマでした。そのような意味でも鍛えられ、根性がつきましたし、アメリカやオーストラリアなどの海外出張で、見聞を広めることができました」

そんな充実した日々を過ごす伊神氏だったが、忙しい生活は彼を蝕んでいき、ついに体が悲鳴をあげた。十二指腸潰瘍を患ってしまったのだ。

伊神氏は食肉会社に在籍した11年間で三度、十二指腸潰瘍で倒れた。

「不摂生が祟ったのでしょう。ちょうど同じころ、父が養豚を廃業することになり、食肉会社にいる意味もなくなってしまいました。このような経験から『体に良く、人に喜ばれるもので身を立てたい』と次第に考えるようになったのです」

そして遂にごまと出合う。伊神氏が35歳のときだった。

<プロフィール>
伊神幸泰(いがみ・ゆきやす)

1965年12月9日生まれ。1988年農獣医学部畜産学科(現・生物資源科学部動物資源科学科)卒。岐阜県出身。代々各務原市で食品ビジネスに従事する家系に生まれる。父の跡を継ぐための進路として本学へ進み、養豚の研究を行う。
卒業後は食肉会社に11年間勤務。その間に体調を崩し、「体に良く、人に喜ばれるもので身を立てたい」と考え、2003年に株式会社セサミライフを設立。「“体”によくて“味”にこだわる」をモットーに独自の技術で加工したごま製品が人気を博し、ごま専門店「ごまの藏」を岐阜県に2店舗、滋賀県に1店舗展開し、高い評価を受けている。