「次世代育成」をキーワードに、持続可能な観光地づくり

丸山俊郎氏「信州白馬八方温泉 しろうま荘」支配人(1997年商学部経営学科卒)

卒業生
2022年04月01日

日本を代表する山岳リゾート、長野県白馬村。雄大な北アルプスの麓に建つ温泉旅館「しろうま荘」の支配人を務める丸山俊郎氏は、イギリスの著名な旅行雑誌が主催するトラベル・アワードで世界一の支配人に輝いたホスピタリティの達人。

旅館業の傍ら、地元・白馬高校の非常勤講師やスキージャンプW杯のMCを務めるなど、地域の豊かな未来を切りひらくための活動にも力を入れている。

1998年長野五輪、その後

本学卒業後、丸山氏は地元の観光開発会社に就職、昼間は会社員として働きながら、夜は家業である「しろうま荘」を手伝った。社会人1年目は、ちょうど長野五輪が開催された年。
仕事だけでなくボランティアとしても積極的に関わり、世界的な祭典の熱量を存分に感じたという。
一方で、過剰な設備投資で疲弊していく周囲の様子を目の当たりにし、地元のために何かしなくてはという思いに駆られた。

「このままでは観光地として廃れてしまうかもしれない」。長野五輪後、急激に観光客が減っていく地元の状況に、丸山氏は危機感を覚えた。
「白馬にある圧倒的なスケールの自然を最大限に生かし、多くの方に訪れていただくためには、ソフト面の強化が必要だと考えました」

ホスピタリティを学ぶため豪州へ

地元を離れホスピタリティを学ぶことを決意した丸山氏は、千葉県のテーマパークでクルーズ船アトラクションの船長を5年間務めた後、ワーキングホリデーを利用してオーストラリア・ゴールドコーストでリゾート観光を学んだ。

さらに帰国後は、東京にある外資系金融機関のフィットネスジムで専属トレーナーをしながら、英語力に磨きをかけた。グローバルに働く各国のビジネスマンの姿にも刺激を受け「多様性を学んだ」と振り返る。
こうして国際人としての広い視野を身に付けつつ、故郷の白馬村に戻ったのは2009年のことだった。

民宿発祥の背伸びをしないおもてなし

農家時代の梁と柱が残されたロビー

農家時代の梁と柱が残されたロビー

実家である「しろうま荘」は、約80年前に祖父母が始めた民宿がルーツ。家族経営の小さな温泉宿だが、一方で、外国人が多く訪れる宿としても知られる。
丸山氏が、早くからSNSを活用し白馬の魅力を発信すると同時に、海外で友人の輪を広げた結果だ。

「外国のお客さまは本物志向が強く、その土地に根付くものを大切にします。ですから、私たちもあえて背伸びをせず、民宿時代の家族的なおもてなしを大事にしています」
丸山さんが拠点を白馬に移した2009年頃は、冬の宿泊客の1割弱が外国からのリゾート客だったが、2016年には8割に達したという。

権威ある国際賞で支配人世界一に

2016年「ラグジュアリー・トラベル・ガイド・アワード」の支配人部門で最高賞に輝いた

2016年「ラグジュアリー・トラベル・ガイド・アワード」の支配人部門で最高賞に輝いた

外国リゾート客の口コミを中心に「しろうま荘」の良さが広まると、2012年にはホテル業界のアカデミー賞と呼ばれる「ワールド・ラグジュアリー・ホテルアワード」のラグジュアリー・スキーリゾート部門で最高賞を受賞。
さらに2015年には、イギリスの旅行雑誌が主催する「ラグジュアリー・トラベル・ガイド・アワード」のマウンテンリゾート宿泊施設部門で最高賞を受賞、翌2016年には、同アワードの支配人部門で最高賞に輝いた。

「世界の有名ホテルに並んで、しろうま荘がノミネートされたと聞いた時は、何かの間違いじゃないかと思いました(笑)。けれど、主催者側から『その土地ならではの独創的なホスピタリティこそが真のラグジュアリーだ』という説明を受けて、背伸びをしないスタイルの真価が認められたことをうれしく思いました」

外国人客に選ばれた真のラグジュアリーは、ここ10年ほどで日本人客にも浸透し、コロナ禍にあっても、しろうま荘には多くの宿泊客が訪れている。

「白馬国際トレイルラン」を立ち上げ

北アルプスの雄大な景色と魅力的なトレイルで絶大な人気を誇る白馬国際トレイルラン

北アルプスの雄大な景色と魅力的なトレイルで絶大な人気を誇る白馬国際トレイルラン

旅館業の傍ら、白馬村の観光イベントやスキージャンプW杯などのMCを任されていた丸山氏は、次第に地域振興に関わる企画・運営にも携わるようになった。

「ウインターシーズンだけでなく、グリーンシーズンも盛り上げていきたいと考え、2011年にはトレイルランのイベントを立ち上げました。当時、同様の大会があまりなく、地元の実行委員だけで作り上げた大会でしたが、長野五輪やW杯など、数々の国際大会に携わってきたマンパワーがあるため、運営は成功を収めることができました」

丸山さんが発起人の一人となって始まった「白馬国際トレイルラン」は、幅広い層が楽しめる大会として毎年高い人気を集め続け、今年9月には更に進化した形で第11回目の開催を予定している。

白馬高校の非常勤講師としても活躍

次世代育成の取り組みなどが高く評価され、東京オリンピック聖火ランナーを務めた丸山さん。

次世代育成の取り組みなどが高く評価され、東京オリンピック聖火ランナーを務めた丸山さん。

さらに丸山氏は、2014年、生徒数の減少から存続の危機にあった県立白馬高校(白馬村)で、「観光英語」の非常勤講師に就任。松本城観光のデイツアーや、スキー場インフォメーションでのガイド、自身がMCを務める国際大会でのインタビュアーを高校生に任せるなど、実践で役立つ外国人とのコミュニケーション術をレクチャーした。

現在、丸山氏ら地域の人々の熱意で閉校の危機を脱した白馬高校には、国際観光科が設置され、地元はもちろん全国から生徒が集まっている。
「地域として、次世代育成は大きな問題です。国際観光科の日々のカリキュラムでは、実践的な観光経営や接客を学んでもらいたいと『高校生ホテル』も企画しました」

「高校生ホテル」とは、白馬高校国際観光科の生徒が、1泊2日の日程で宿泊施設の業務に携わる体験学習。2018年に始まり、「しろうま荘」は初回から旅館を研修施設として提供している。

持続可能な観光地を目指して

丸山氏は現在、八方尾根観光協会の副会長も務めている。
「この2年間、コロナ禍で地域は大きなダメージを受けました。観光地は、自分の事業だけうまくいけば良いという考え方では立ち行かなくなります。こういう時こそ地域全体を盛り上げるために力を出し合っていかなければいけないと思っています」

中小規模の宿泊施設が多い白馬村では、経営者の高齢化が原因で廃業を余儀なくされるケースもあるという。

「『この人がいなければできない』というように、特定の人に帰属する部分が多いと、宿の経営は難しくなります。これからは、ある程度『誰でもできる』という仕組み作りが必要だと考えています」
目指すのは持続可能な宿泊施設、そして、持続可能な観光地であり、それを実現するためのキーワードが「次世代育成」なのだ。

長野オリンピックから24年、故郷の盛衰を肌で感じてきた丸山氏は、白馬村の明るい未来を熱く思い、その実現にまい進している。

<プロフィール>
丸山俊郎(まるやま・としろう)
1974年生まれ。長野県出身。1997年商学部経営学科卒業。

卒業後、地元の観光開発会社に勤務。その後、テーマパーク勤務、豪・ゴールドコーストでのワーキングホリデー、ゴールドマン・サックス専属ジムトレーナーを経て、2009年しろうま荘支配人に就任。旅館業の傍ら、地元開催の国際スポーツ大会等でのMCや、県立白馬高校で特別非常勤講師を務めるなど多方面で活躍。

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