日鶴アメフト部、パトロール隊発足
近隣エリアを犯罪からディフェンス!

日本大学鶴ヶ丘高等学校 アメリカンフットボール部

付属校
2022年06月15日

杉並区和泉にある付属校の日大鶴ヶ丘高アメリカンフットボール部は、2度の日本一にも輝く名門校だ。そんな「日鶴SILVER CRANES」が、ひょんなことから、地元管轄の高井戸警察署の要請を受けて、地域の“パトロール隊”としての顔も持つことになった。アメフトとパトロール。さて、どんなつながりがあるのか。吉江祐治監督とキャプテンの白井快選手に話を伺った。

近隣の方々に恩返しがしたい

「最初は私が担当している生活指導部の講演会に、昨今増えつつある若者の薬物使用についての講演を高井戸警察署にお願いしたのがきっかけでした」

そう話すのは、日大鶴ヶ丘高アメリカンフットボール部を2度の日本一に導いた、吉江監督だ。

式典用に作成された“パトロール隊公式ボール”

式典用に作成された“パトロール隊公式ボール”

自身もかつて同じ付属校の日大櫻丘高でフットボールを始め、本学アメリカンフットボール部フェニックスでレシーバーとして活躍し、1年生から3年生まで日本一を経験したトップ選手だった吉江監督。本学文理学部体育学科を卒業後、非常勤講師として日大鶴ヶ丘高に赴任し、それから現在に至る38年間、指導者としてチームを見守り続けてきた。

「確かに、アメフトで勝ってまた日本一になりたい気持ちは強くありますが、一方でアメフトができる時間は人生で限られていますし、終わってから先の人生の方が長い」

だからこそ、選手たちには常日頃から社会に出て通用する人間にならなきゃいけない、と諭してきたという。アメフトはあくまで題材、そのアメフトを通していろんなことを学んでほしい、というのが監督である吉江監督の思いだ。

放送部の取材にマイクを持って応える白井キャプテン

放送部の取材にマイクを持って応える白井キャプテン

キャプテンの白井選手(3年)は、そんな吉江監督の思いを最も感じてきた一人。

「普段から練習中にはグラウンドで大きな声を出したり、周辺住民の方にもご迷惑をお掛けしている自覚はありました。感謝を忘れず、何かで恩返しできないか、と監督とはよくお話ししていました」

そんな折、吉江監督が高井戸警察署に講演依頼をすると、快い返事とともに、逆に相談を持ち掛けられた。学校近隣の防犯協力の依頼だった。

屈強なフットボーラーだからこそ

詳しくはこうだ。

日大鶴ヶ丘高の校舎から練習するグラウンドに来るまでの間には、今までさまざまな交流を持ってきた杉並和泉学園小中一貫校や、他にも幼稚園や児童館がある。閑静な住宅街でもあるため、時に変質者なども出没するという。子供たちが非常に多い区域ではあるが、このところのコロナ禍でかえって防犯意識が薄くなってきているそうだ。

部員たちは防犯プロモーション用のビデオにも出演

部員たちは防犯プロモーション用のビデオにも出演

そこで依頼されたのが、アメリカンフットボール部部員たちに、通行人に声を掛けたり、あいさつしてくれないか、というものだった。

聞くと、犯罪者たちはいきなりあいさつされたりすると、それだけで驚いて犯罪抑制につながるという。だから、通行する大人にはあいさつ、子供たちにも声掛けをしてもらえるだけでありがたい、というのだ。

「キャプテンと相談して、そういうことなら、と引き受けることにしたんです」(吉江監督)

SILVER CRANESの練習を見守る吉江監督

SILVER CRANESの練習を見守る吉江監督

奇遇にも、東京の警視庁には約130人の日大鶴ヶ丘高の卒業生が在籍していて、警視庁のアメフトチームがある第九機動隊には、吉江監督の教え子に当たる、日鶴SILVER CRANESのOBが過去も含め4人も所属していた。

縁に縁が重なり、どうせならと高井戸警察署から警視庁、第九機動隊や地域の父母会、杉並学園の学園長などにも出席してもらう「パトロール隊発足式」の骨子が出来上がった。

「そこまでいくと私だけでは手に負えないですから(笑)、学校にも校長から広報まで協力を仰ぎました」(吉江監督)

生徒にボランティア活動をさせたい、生徒たちもそういうことに貢献したい。チームの思いと、その力を必要とした管轄警察署とが呼応して生まれた“パトロール隊”は、こうして発足の日を迎えた。

地域貢献の一つのモデルケースに

発足式では、先輩に当たる第九機動隊アメフト部のクオーターバックからの記念ボールのパスを、日鶴SILVER CRANESのレシーバーが受け取る、といったアメフトならではのパフォーマンスも披露された。

式を終えて、白井選手は「僕だけでなく、チームメートも地域へ恩返しする意識が高まってきているのを感じます。結果的にチームにとっても良い循環ができてきていると思います。OBの方の恥にならないよう、しっかりと任務をこなしたいと思います」と話してくれた。

そんな生徒たちの変化を、吉江監督も間近で感じたようだ。

「以前から、雪が降ったら雪かきをしたり、少しでも周囲の方のためにできることを、と思っていましたが、今回、正式な形でチームとしての役割を担っていくことになったのはキャプテンの白井の存在が大きかったです」

監督とキャプテンのコミュニケーションから生まれた、“日鶴アメフト部パトロール隊”。アメフト名門校であり、創設71年を数える日大鶴ヶ丘高ならではの、地域貢献の一つの形だろう。