日本大学櫻丘高等学校
屋内プールも備える校舎。文理学部の隣に位置する
学校が変わり、生徒も変わる━。櫻丘高は「櫻イノベーション」と名付けた独自の教育実践により、社会に出ても変化に対応できるグローバルな人材を育成している。
都内で唯一、学部と隣接する恵まれた地の利を生かしつつICT教育やサイエンスリテラシー、クリティカルシンキングなどを通して学校が自ら変わり、生徒に行動変容を促してきた。
種々の取り組みはまた「本学の教育理念である『自主創造』達成のために何をするか」の問いに櫻丘高が出した具体的な「答え」でもある。
グローバルに活躍できる人材には、英語をツールとして活用できる力が求められる。基礎固めのために夏休みの英国語学研修や、英語を母国語とする教師による少人数の英会話授業を実施している。
クイズ形式を取り入れた英語の授業風景
ネイティブの教師は5人で米国、英、ニュージーランドなど国籍も多彩。授業はクイズを取り入れ、英語のみで楽しそうに進められていた。
2年生の中安彩乃さん
2年生の中安彩乃さんは「フィリピン出身の先生に習っています。耳が慣れ、ジェスチャーを交えながらしっかりとコミュニケーションが取れるようになりました」と話した。
米の私立中高一貫校の卒業資格を得られるデュアル・ディプロマ・プログラムも用意してある。櫻丘で学びながらオンラインで2年間履修すると、推薦で現地の大学に入学できる。
グローバル教育の充実は受験生や保護者にも次第に知られ、如実に変化が表れてきた。
広報担当の井部和正教諭
広報担当の井部和正教諭は「グローバル教育の充実につれて英語力の高い生徒が入学したり、入学後も英検2級などさらに上を目指す生徒が増えたりしました」と話す。
学校選択においても、以前は「複数の中の一校」と見られていたのが、最近では「一択」で検討されるケースが目立つという。前述の中安さんも「英語の少人数プログラムがあることが櫻丘高入学の一つの理由でした」と明かした。
「赤本」が並んだ図書室
図書室や自習室では放課後、生徒たちが自主的に勉強していた。
身近な「なぜ」を追求するサイエンスリテラシーの授業は化学、物理、生物を選択する3年生が対象。自由にテーマを決め、1年をかけて実験を繰り返して考察し、成果を発表する。
サイエンスリテラシーを担当する石原裕介教諭
石原裕介教諭は「生徒の自主性に任せ、正解に誘導するような指導はしません。大学の実験に近い内容です」という。
授業では中間発表が行われていた。テーマはさまざまで、例を挙げると
◆卵の殻の代わりにラップとコップを用いてウズラを孵化させる実験
◆加熱により糖とアミノ酸が褐色物質を生成する「メイラード反応」をパンケーキで実証する研究
◆筋トレと超回復の関係を探る握力の変移の分析
サイエンスリテラシーの中間発表。メイラード反応を説明する
◆「交替制転向反応」をダンゴムシだけでなくクモやクワガタで検証
など興味をひくものがズラリ。
これまでの成果を踏まえ、質疑応答の中で最終発表に向けての課題を確認していた。
情報の授業で動画コンテンツを作成中
新学習指導要領に対応し、探究や情報にも力を入れている。1年生の探究の授業では世田谷区内の身近な地域の問題点と解決策を探り、英字新聞にまとめを発表する。
「2年では沖縄の問題に取り組みます。10月の修学旅行で現地を訪れて探究を振り返る予定です」(市橋さやか教諭)。
情報の授業では実際に動画コンテンツを自分たちで制作する。テーマを決めてタブレットで撮影し、課題として提出。「普段は情報の受け手である生徒が送り手になることで、メディアリテラシーを学ぶことができます」(田中忠司教諭)。
3年生の原琉聖さん
3年生の原琉聖さんは「古典の実写版の動画に取り組みました。伊勢物語の『初冠(ういこうぶり)』で美しい姉妹に恋をする主人公の役を演じました。動画作成のリテラシーを楽しく知ることができました」。
サイエンスリテラシーも探究も情報も、すべてグループごとにテーマを決め、研究や分析、作品の成果を発表させる形式だ。プレゼンテーションの機会を多く設け、論理的思考を身に付けさせている。
高大連携の一環ではチューター制度が成果を上げている。文理学部の教員志望の学生が放課後にラーニング・コモンズで学習指導に当たっている。
文理学部のラーニング・コモンズ。ここで大学生の指導が受けられる
櫻イノベーションは今、第2ステージを迎えている。生徒の成長の「道しるべ」となるルーブリック評価を導入した。
価値観(意志、情熱、創造、多様性、尊重)とスキル(思考力、判断力、表現力、人間関係力)について具体的な21のテーマを、教員が考案して設定した。
例えばテーマ7は「世界の情勢や社会問題について自分なりの考えを持とうとする」。これに対し答えが「深く知りたいと思うテーマがなく、新聞やネットニュースを読むことはほとんどない」だと5段階中で最低の評価「1」となる。
櫻イノベーションを指揮する大木治久校長
「個人的に気になっているニュースについて自分の考えをまとめ、周囲の人に伝えようとすることが多い」になると評価は「3」に上がる。さらに「日ごろから専門書や専門サイトの情報を利用したり、周囲の人と議論したりすることで、自分の考えを深めようとしている」は「4」に、これらを踏まえ「自分の考えを発信する場を求めて行動することが多い。また、自分の考えを実践する機会があれば積極的に参加している」になると評価は最上位の「5」になるといった具合だ。
生徒が質問に答えていけば自分の今の立ち位置が分かり、先の目標も見えてくる。
大木治久校長は「ルーブリックで計画、実行、評価、改善のPDCAサイクルが実現できます。これにより自主創造も体現できると考えます」と期待している。