日本大学豊山中学校
11階建ての校舎の内部。エスカレーターが設置してある
日本大学豊山中学校は本学付属校で唯一、男子のみが通う中学校。男女共学化の流れが続く中であえて「男子校ならでは」の教育を貫いている。
「異性を気にせず個性を生かせる」「友情や交友関係を築きやすい」などの点で男子校に魅力を見出す保護者や生徒は多く、性の画一的な価値観にとらわれずにダイバーシティ(多様性)やジェンダーフリーに関する教育を実践している。
アリーナに大きく掲げられている校訓
校訓は「強く 正しく 大らかに」。特に「大らかに」の校風で知られ、「何でも受け入れる」のが豊山生の特徴だ。
ダイバーシティやジェンダーフリーがごく普通に語られるようになった昨今。「男らしさ」は既に時代遅れで、豊山中が進めてきたのは、男らしくといった性を限定した教育ではない。
自らの高校時代を語る松井校長
自身も豊山出身である松井靖校長は「いろんな人間性、いろんな発想を受け入れることこそがダイバーシティです」と語る。
「アマチュア無線が好きな元祖オタクだった私とスポーツが得意な生徒が自然とまざり合う。そんな文化が昔からありました」
例えば企業における女性役員の比率を上げるといった狭義ではなく、広義の多様性が根付いている。
豊山で身に付けてほしい「力」を説明する田中教諭
広報担当の田中正勝教諭は「男女が対等に協力し合う社会で、それぞれの個性を生かして『人』として活躍するための力」を身に付けてもらいたいと強調する。
豊山のスポーツ部には当然、女子のマネージャーがいないため、合宿では洗濯や給仕を自分たちでやる。スポーツ部に限らず「身近な異性に甘えない」は校内に広く浸透しているそうだ。
「人として活躍する力」とは性差にとらわれない力であり、男子校において、ダイバーシティとジェンダーフリーの教育がきちんと実践されている。
原田教頭が豊山生の特徴を語る
原田学教頭は「本校ではこうした力を男子力と言ってきましたが、誤解を受ける恐れもあり、松井校長と共に時代に即したネーミングを考えているところです」と明かす。
「卒業生がよく来てくれることも特徴の一つです」と原田教頭。中学校時代に築いた交友関係が長く続き、学校に愛着を持ってくれる生徒が多いようだ。学校の近くの弁当屋にはファンが大勢いて、味を懐かしんで近くに来ると寄るという話も聞く。
小テストの答え合わせ後に盛り上がる3年B組の英語の授業を見学した。歓声が上がり、教員は名前で生徒を呼ぶ。教員と生徒の距離が近い。
3年生の英語の授業。教員と生徒の距離が近い
共学だと男性の教員が女生徒に接する時点で遠慮が生じがち。セクシャルハラスメントに厳しい今の風潮ではなおさらだろう。
原田教頭は「あくまでコンプライアンスありきですが、言葉かけ一つ取っても男子校と共学では違います」と話す。
高校生の英語の授業は静かで対照的
高校2年生の英語のクラスものぞいたが、こちらは一変して静かな雰囲気。大学受験への意識が強まり、問題に取り組む姿勢は真剣だった。
海外研修の様子が掲示してある
国際交流の行事は共学では女子の方が積極的という傾向があるそうだが、豊山中ではチャレンジしやすい環境が用意されている。
語学研修ホームステイや校内英語スピーチコンテスト、放課後にネイティブの先生と会話するプログラムなどに気軽に参加できる。
購買に用意された茶色いおかず。あっという間に売り切れる
昼前に男子校らしい光景を見た。
購買に次々に駆け付ける生徒たち。弁当持参が原則というが、すでにたいらげた子もいるようだ。積まれた「茶色いおかず」があっという間に姿を消した。
アリーナで性教育の講演を聞く生徒たち
取材当日、地下2階のアリーナで専門家による性教育の講演会が開かれていた。女子がいないこともあって表現がよりストレートになるという。
豊山中高の専任男性教員の育児休暇取得率は100%。専門家ではなく、取得した教員に体験談を語ってもらった方がいいという意見もあり、性教育の在り方についての議論は真剣だ。
IH調理器の施設が整った家庭科室もある。ここで校長自ら料理を作って紹介する動画が好評を博しているという。
「東京私立男子中学校フェスタ」は今年、第21回目を迎えた。学校紹介など各種イベントが用意され、会場は参加校の持ち回りで開かれる。
2019年は豊山中で開催したが、保護者も含めた参加者は約8000人に上り、男子中学校への関心の高さをうかがわせた。
「男子校であることを一つの武器にできるという信念で教育を展開しています」
松井校長のこの言葉は確かに、自由に自分をさらけ出せる環境に価値を見出す生徒や保護者の心に響きそうだ。