【付属校の教育実践】
全校で取り組む「探究」

札幌日本大学高等学校

付属校
2024年02月22日

「世界に貢献する人」の育成を目標に掲げる札幌日本大学高校は、探究的な学びのプログラムを全校体制で実践している。グローバルな問題を見据えて自分たちが今できることを考え、実行に移すプロジェクト型の学習を中心に置いている。

推進役を担うのが校内組織の分掌である「未来教育創造部」だ。SSH(スーパーサイエンスハイスクール)、SGH(スーパーグローバルハイスクール)、総合探究、SDGs中心の中学課題研究、国際バカロレアを統括する。

年に2回、コースや学年、クラスをシャッフルさせた上で、総合的な探究の時間に進めた研究についての「成果発表会」が開かれる。

夏は中学生も高校生も参加する全校合同の大掛かりなイベントになる。第1回はプログラムごとに代表者が発表するという形で2022年8月に開いたが、交流が限定的で質疑の時間も十分に取れなかったため、以後は交流を主眼に置いたやり方に変更された。

高いレベルに注目

1月26日の後期発表会を見学した。大雪で1日順延されたこの日、高校1・2年の生徒が23の教室に分かれ、5人程度のグループを組んだ。

午前9時45分に開会、自己紹介の後、昼までにグループを変えながら3回発表。数人で行っている研究でもメンバーはバラバラになる。午後は各自の教室に戻り、発表と交流を振り返った。

プレゼンテーションアプリで編集した研究成果をタブレット端末で説明し、質問に答える。テーマは教育、健康と栄養、免疫、地域経済と振興策、終末医療、リサイクルなどさまざま。

グラフや写真を使って分かりやすく工夫し、自らの提言で結ぶ。相手を変えて発表を繰り返すためプレゼンスキルが磨かれ、コミュニケーション能力が鍛えられる。質問に答えることで理解が深まり、新たな課題発見につながる。

未来教育創造部長の村山教諭が教室を回り発表の様子を見ていた

未来教育創造部長の村山教諭が教室を回り発表の様子を見ていた

発表の合間に教員が自らの発表を行う場面も。ある教室では中出準人教諭が「アナログレコード」の実物を持参して見せながら、楽しくレコードの魅力を紹介していた。生徒にとっていいリフレッシュの時間となったようだ。

未来教育創造部長の村山一将教諭が教室を巡回し、発表の様子をつぶさに見ていた。反省点は改善し、次回に生かす。

探究の取り組みについて話す鈴木教頭

探究の取り組みについて話す鈴木教頭

鈴木直教頭は「ネットでさっと調べて済む研究は通用しません。総じてレベルが高いのが特徴です」と胸を張る。探究は独自色が出しやすく、力を入れる学校は多いが、北海道内で注目される存在だという。

ジレンマを克服

探究の取り組みは、SSH等を通した試行錯誤が土台になっている。SSH指定は3期目(1期5年)だが、当初は研究の質を上げようと教員主導になると生徒のモチベーションが下がり、生徒に任せると質が落ちるというジレンマに悩んだ。

浅利校長。学園の理事長も兼ねる

浅利校長。学園の理事長も兼ねる

浅利剛之校長は「これが一つの壁になりましたが、教員が問題解決の進行役、ファシリテーターになることで、生徒のやる気をそぐことなく質の高さを維持できるようになりました」と話す。

さらに「生徒の意欲を刺激する『リサーチクエスチョン=問い』の重要性にも気づきました」といい、壁を乗り越え気付きを得て、探究的な学びの有益性を再認識した。

浅利校長が「世界に貢献する人」の育成を目指すのは、日本の人口減少を見据え、外国人労働者との共生社会が避けられないと考えているからだ。国際化を先取りする実践には、探究型活動や探究型授業がうまく親和する。

ファシリテーター―役の教員のスキルアップも重要で、年に複数の研修や研究会を通じて指導力向上を図っている。他校の教員や教育関係者らが研修の視察に訪れることも珍しくないという。

IBコース設置

札幌日大高には「探究心や主体的な学習姿勢を育む」ため、進学コースに「国際バカロレア(IB)コース」が設けてある。

浅利校長がIBコースの授業で使う化学の教科書

浅利校長がIBコースの授業で使う化学の教科書

2年前に道内の私立校としては初のワールドスクール認定を受けた。世界共通のカリキュラムが組まれ、大学で学ぶ範囲も一部含まれた英語の教科書が使用される。

浅利校長も980ページある教科書で化学の授業を受け持つ。英語圏のネイティブ教員が6人在籍し、英語のほか数学や美術を教えている。

探究の取り組みを4月以降、さらに広げる計画だ。探究の時間以外の他教科の授業でも、全員が前を向く机の配置を変え、少人数で議論や研究がしやすい環境をつくる。探究の全校体制が一層加速する。