学生の理解向上を目指して
-教員の教え方公開-

薬学部・医療薬学研究室 岸川 幸生教授
「EBMと薬物治療」

学び・教育
2022年01月26日

近年、授業の在り方が問われている。現場では、各教員が自身の科目に合った教育方法を創意工夫し、学生の理解向上を目指して日々努めている。それぞれの科目ではどのように学生と向き合い授業を進めているのか。その手法と実践にフォーカスする「教員の教えるテクニック公開」。
第2回は、薬学部・医療薬学研究室の岸川幸生教授の授業を紹介する。

エビデンスに基づいた選択、臨床現場を意識した答えが一つではない授業

医療の現場でどの薬物を選択、提案するかという訓練を目的とした「EBMと薬物治療」。4年生の必修科目で、5年次に実際の調剤薬局と病院で計5カ月間にわたり行われる実習に向けた授業だ。最新の論文や疾患ガイドラインにのっとり授業を行い、臨床経験のある教員が毎週変わり、計七つの症例について学習することになる。

ゲーム性の工夫

週2コマ続けて行われる。授業前に事前課題で、患者の症例を授業の1週間前に提示。病名は出さず、検査値と患者の症状だけが与えられ、授業までに推測。これまで学んできた基礎知識を整理して授業に臨む。

グループ討議で用いるスクラッチカード

グループ討議で用いるスクラッチカード

1コマ目の最初は課題に対する選択式の個人テストを10分間実施。次に学籍番号順に6、7人のグループをつくり、グループ内で答え合わせをしていく。教員は関与せず、学生だけで進める。グループでまとめた答えを、スクラッチカードを用いて、答え合わせをしていく。一つ目で当たりが出れば10点、外れると点数が下がっていくゲーム性も持たせている=左写真。ここまで終えると、教員による解説が入る。学生の質問を受け付け1限目が終了。ここまでを事前段階と捉えている。基本的な知識を整理させるのが狙いだ。

根拠を持って論理的に

薬学部・医療薬学研究室の岸川幸生教授

薬学部・医療薬学研究室の岸川幸生教授

2コマ目は、グループ討議でより臨床に近い問題が4問出される。この問題の答えは一つではない。実際の現場では、A薬も良ければB薬も良いという状況に直面する。
「自分の言葉でいかに論理的に薬を選んだ理由を伝えられるかが大事」と岸川教授。在宅医療も増えている昨今、訪問先で医師に処方提案を行うことがあり、今後の薬剤師に求められるスキルになるという。

制限時間内は図書館へ行っても、PCやスマートフォンによる検索も認められており、とにかくグループで一つの答えを導き出す。その後、異なった答えを出したグループ同士で結論に至ったプロセスを議論。「根拠を明示することは、薬剤師が現場で医師に説明する際に使っている手法」だ。医師に薬を薦める際に根拠に基づいた説明をしないと、採用されない。「論理的な考え方と根拠をもって薬の処方と、その先にいる患者に向き合ってほしい」。岸川教授は授業を通して、単に学ぶだけではなく、知識の先にあるリアルを求め、実習に送り出す。

一般的に薬剤師は、病院では患者のカルテを見て薬の副作用が出ていないかチェック。医師と看護師とカンファレンスがあり、処方の見解を述べ最終的に医師が決定する。決まった後は患者に薬の指導を実施。検査結果をモニターし、ひとりで50人ほどの患者を担当する。調剤薬局の薬剤師は、処方箋や患者から得られた情報を基に疾患や状態を推測して、問題があれば処方した医師に問い合わせや処方提案を行う。

4年生の後期から始まるゼミでは、この授業で学んだ論理的な考え方を深めたいと岸川教授のもとに学生が集まる。

<プロフィール>
薬学部
岸川 幸生(きしかわ・ゆきなが)教授

本学理工学部薬学科(現・薬学部薬学科)卒。東北大病院薬剤部、東北医科薬科大臨床薬剤学教室准教授を経て、平成28年に本学薬学部教授。研究分野は薬物療法。