コンピューターゲームを「スポーツ」に育てる【前編】

生産工学部にeスポーツの拠点施設「eSports Studio」が誕生

学び・教育
2022年05月11日

研究室が並ぶ生産工学部・津田沼キャンパス23号の一室に、研究室とは一線を画す部屋が現れる。その全貌が4月12日にお披露目された。「eSports Studio」。ゲームではなくスポーツ競技である「eスポーツ」の活動拠点として、構想2年で誕生した。大学ではどのように「スポーツ」として扱うのか。施設の概要から、生産工学部が思い描く「eスポーツ」の青写真とは。前後編でお届けする。

進む大学の支援と取り組み

「eスポーツ」とは、コンピューターゲームやビデオゲームを複数のプレーヤーで対戦し、スポーツと同様に勝ち負けが決まる競技を指す。

直近ではこの4月に近畿大学が新学部設立とともにeスポーツ施設を造り、埼玉工業大学、筑波大学、神奈川工科大学などが企業と連携してeスポーツに注力するなど、大学のeスポーツ参入が始まった。

澤野学部長(左)と髙橋亜佑美専任講師(右)

澤野学部長(左)と髙橋亜佑美専任講師(右)

生産工学部は2021年4月に「生産⼯学部eスポーツ研究会」を公認化。eSports Studio開設前時点で37人の会員で活動し、学生eスポーツ連盟主催の「2021年度Apex Lgends大学対抗戦」において参加70チーム中総合3位となり、発足間もない中でも活躍している。

開会に際したあいさつで澤野利章学部長は、完成に尽力された方々へ感謝を述べた。

加えて「eスポーツといいますと、われわれの年代はゲームや遊びの感覚ですが、プレーヤー人口3~5億人、市場規模数百億円とあり、単なる遊びではありません。そこでeスポーツをビジネスとしてマネジメントし、技術的にエンジニアを育成。メンタルヘルスを考えインストラクター、トレーナーが今後育成される、すなわちスポーツと世に示す必要があります」と、使命を明確にした。

卒業生が設計、木を基調に明るいデザインに

「eSports Studio」にはゲーミングPC11台とゲーミングチェア、音響設備・配信機材を取りそろえ、学生自らイベントを開催できる環境を整えた。

数理情報工学科主任の中村喜宏教授は、「eスポーツを通じて人を惹きつける表現とは何かを研究することで、生活を豊かにするモノづくり・コトづくりにつながる自主創造の精神を育む」ことが狙いだと言う。

この施設を設計したのは、生産工学部建築工学科の卒業生で、本学の非常勤講師も務めている設計事務所アデザインの齋藤由和氏。木材を基調とした明るいデザインになっており、eスポーツはパソコンが並んだ暗い部屋、というイメージを払拭するスタジオ造りを目指した。施設内には木材テーブル、観戦エリアとして使える木材のアリーナ席にはリラックスするため芝を模したカーペットを配置。アリーナ席の下には五つの個室が完備されており、ゲーム実況などの使い方ができる。

ゲームではなくスポーツとして楽しむ

齋藤氏は設計する上で、eスポーツの競技性をどう表現するかを工夫。バーチャルな空間で完結するeスポーツを「スポーツ」と定義するために、フィジカルな場がどのように意味を持てるか、またソーシャルゲームとの違いを考えた。

ポイントは二つある。

最新の機材、ヘッドセット

最新の機材を導入。ヘッドセットも欠かせない

①プレーヤー同士のチームワークを育む
大会では、日々の積み重ねでレベルを上げてきたものや武器を持ち越せない毎回ゼロから競技が始まる。公平公正なスポーツの考え方に準じているが、プレーヤーの努力をどう反映し、スポーツとして楽しむかが肝となる。

「チームワークを求められる団体戦が多い。チームワークの醸成や戦略の立て方、ゲームの外にあるものが大切になります。コミュニケーションでチームワークを高めて戦っていくのがeスポーツの競技力。そのためにスタジオが必要」と齋藤氏は考える。

スタジオの入り口には教職員、生産工学部校友会からの祝花

スタジオの入り口には教職員、生産工学部校友会からの祝花

②観戦という文化を根付かせる
各自の自宅でもプレーできてしまうeスポーツ。しかし、大会となれば大きな会場やスタジアムに観客が入って行われ、応援で選手のモチベーションが上がる。だからこそ、スポーツの欠かせない要素にもなっている観戦のためのフィジカルな場所が必要だ。

「子どもから大人まで楽しめる『観戦』という構造をつくる上で、ゲーミングPC、キーボードとマウスだけではできないコミュニケーションがeスポーツを楽しむ意義になる。eスポーツはサイバーな空間とフィジカルな体験を行き来しながらスポーツとして楽しんでいくもの」(齋藤氏)

スポーツ競技にふさわしい環境の設計を心掛け、プレーヤーと観客が相互作用できるよう、eSports Studioではアリーナ型のエリアをつくった。

施設概要

名称 eSports Studio(イースポーツスタジオ)
場所

日本大学生産工学部津田沼キャンパス23号館(数理情報工学科棟)105室

面積

59.12m2

座席数

選手席10席(5対5チーム戦が可能)、配信席1席

設備

ゲーミングPC11台配信設備、通信設備

導入機器の詳細

ゲーミングPC11台

GALLERIAXA7C-R36T
(Win10Pro,Corei7-11700,RTX3060Ti,メモリ16GB,SSD1TB)

モニター11台

ViewsonicVX2405-P-MHD-7

ビデオスイッチャー1台

ATEMmini

音響ミキサー1台

YAMAHA AG03