学生の理解向上を目指して
-教員の教え方公開-

生物資源科学部・動物資源科学科 岩佐 真宏 教授
「動物生態学」

学び・教育
2022年12月09日

近年、授業の在り方が問われている。現場では、各教員が自身の科目に合った教育方法を創意工夫し、学生の理解向上を目指して日々努めている。それぞれの科目ではどのように学生と向き合い授業を進めているのか。その手法と実践にフォーカスする「教員の教えるテクニック公開」。
今回は、生物資源科学部動物資源科学科の岩佐真宏教授の授業を紹介する。

教科書には書かれていない自らの研究成果や研究の「現場」を伝える

動物生態学は2年生の選択科目で、多かった年で200人ほど、今年度はコロナによる人数制限で140人弱が受講する。

岩佐真宏教授は理論と実践をつなぐのが授業の役目だと考えている。
「動物生態学は全国どの大学でも同じようなことを教えています。私も8~9割は教科書通りのことを教えますが、残り1~2割は教科書に書かれていないこと、つまり私が取り組んでいる研究成果を盛り込むようにしています。その方が理解が深まりますし、私の授業を受ける意味はそこしかないと考えるからです」

岩佐教授の主な研究対象はネズミやモグラである。野山に出てわなをかけてネズミを捕まえ、分布を調べることもある。そういう研究の「現場」も写真で伝える。あるいは動物の死体に手を加えて骨や毛皮の標本を作ったり、博物館などで標本を調べるといった「現場」も伝えている。「誰も気に留めないような動物に気を留めさせる」のが岩佐教授のスタンス。その研究に興味を持った学生が、3年生になり研究室に入ってくる。
 

ビジュアルに伝える

この授業を始めた17~18年前は板書が主だったが、近年はパワーポイントを駆使し、授業の前日には内容をPDFで配信している。学生はスマートフォンで画面を撮影してもいい。板書のストレスから解放され、図表や写真でビジュアルに伝えられるようになり、授業の進度は1.5倍ほどになったという。

また、コロナ禍では対面の授業も定期テストもできなかったので、Googleフォームというツールを使って、毎回課題を出して提出させ、それを総合して成績を付けた。
「採点結果についてのクレームもあったので、その根拠も明確に示して双方向のやりとりができましたし、学生一人ひとりのさまざまな面が見えてきて、案外面白いです。今年度は全て対面授業になりましたが、このやり方は続けるつもりです」
 

社会でどう役立つか

コウモリ(左下)、イノシシ(右上)などの頭骨

コウモリ(左下)、イノシシ(右上)などの頭骨

畜産系や伴侶動物を扱う他の研究室は、例えば餌をどう与えれば肉がより安く大量に生産できるかといった応用研究をしている。すでにある社会のニーズを解決するための専門性や技術を育てるのが主だ。
「一方われわれは基礎研究であり、成果は一般社会には見えませんが、応用を支えているという自負はあります。時代のトレンドとも関係がなく、知的好奇心だけに依存して自由にやれます」

だからこそ常にアンテナを張って、問題を発見する必要がある。物事を追究して問題を解決する能力を育てるのは他の研究室と同じだが、それに加えて問題を発見する能力を育てることで、社会に出てどんな分野でも活躍できる資質が育くまれると岩佐教授は考えている。研究室に所属した学生は、食品関係、IT関係、商社、教員、カメラマン……これといった傾向が挙げられないほど多様な職業に就いている。
「単に動物が好きだ、ではなく、『何でだろう』と疑問を持ち動物の『謎解き』に興味を持つ人に来てほしいと思いますし、そう思わせるような授業をしていきたいです」
 

<プロフィール>
生物資源科学部
岩佐 真宏(いわさ・まさひろ)教授

弘前大理学部生物学科卒。同大学院理学研究科生物学専攻修士課程修了、北海道大大学院地球環境科学研究科博士課程修了。北海道大大学院客員研究員などを経て2004年に生物資源科学部専任講師。18年から教授。