「学生ファースト」の視点を掲げる日本大学では、学生からの「相談が気軽にできる環境がほしい」という要望に応えるため、さまざまな取り組みを検討・実施してきた。今回紹介する経済学部では、昨年度から1年生を対象に直接ヒアリングする機会をつくり、授業や大学生活の充実向上をはかっている。今年度も学生代表6人と教職員が集まり、意見交換会を開催した。
意見交換会の様子
学生約6500人が在籍する経済学部。全国から集まった学生たちが、自由闊達に交流しながら切磋琢磨するキャンパスライフは、コロナ禍で一変した。「大学に行きたい」「友達と話したい」、そんな学生の思いに教職員たちが耳を傾け、さまざまな工夫・改善を重ねている。
実際に取り組みを進めてきたのが、教職員でつくる「学生生活委員会」。これまでの成果について、副委員長をつとめる武廣亮平教授(専門・日本史)に話を聞いた。
待望の開講式、交流イベント
学生生活委員会で副委員長をつとめる武廣亮平教授(専門・日本史)
長引くコロナ禍の中で、まず、学生たちから多く寄せられたのは「入学式をしてほしい」という強い要望でした。そこで今年度は、感染防止対策を徹底しながら、経済学部独自の開講式を1・2年生対象におこないました。開催後には「やっと入学の実感がわいた」という声が多く聞かれましたね。
また昨年度はやむなく中止した新入生対象の「サークル紹介イベント」も、今年度は対面でできる方法を検討。3日間に分けて参加人数を制限し、新入生自身が学部校舎内を回りながら、各教室で待つ各サークルの先輩たちから直接話を聞く形にしました。おかげで、「密」にならず無事に実施できたほか、サークル加入率もぐんと上がりました。
授業については、昨年度がほぼオンラインだったため「友達ができない」という不安の声が学生たちから上がっていました。経済学部では、1年生対象の必修科目「自主創造」の授業でZoom機能を活用し、1クラス40人で学生同士のフリートーク時間を積極的につくりました。学生の間では「初めて同じクラスの人と話せた」などと好評でした。
パソコン無料貸与や奨学金拡充
大学では、オンライン授業をスムーズに進めるため、パソコンを持っていない学生のためにノートパソコンの無料貸与をおこなっています。キャンパス内には、オンライン授業を受けられる自習スペースも用意。登校できない学生のためには、貸出図書の郵送サービスも提供しています。授業の進め方が大きく変わる中で、教員たちも、学生一人ひとりの事情に合わせた対応やサポートに尽力してくれました。
また経済学部では今年度、後援会・校友会の寄付により、緊急支援金・奨学金として総額5千万円を給付。前期の対象人数は、例年の2人から41人へと大幅に増えました。多くの学生から申請があり、学生課が迅速に対応してくれたのも良かったと思います。
自習スペース
自習スペース
自習スペース
図書館
きめ細やかな心のケアも
日本大学ではメンタル面を中心にした学生支援にも力を入れています。今年度も4月に「適応チェック」(メンタル面の個別アンケート)を学生全員に実施し、サポートが必要と思われた学生112人全員に、保健室から電話をかけました。例年の約40人に比べ非常に多かったことから、コロナ禍の影響を痛感しています。支援が必要なケースは、学生課や学生支援室が中心になってカウンセリングなどにつなげました。保健室には「学生相談窓口」を設け、対面や電話での個別相談を受け付けながら、学業や学生生活、コロナ禍の心のケアに対応しています。
コロナ禍によって、思い描いていたものとは全く違ったキャンパスライフ。戸惑いの日々を過ごす1年生を対象に開催された意見交換会では、オンライン授業に関する不安や、交流が少ないといった悩みなど、さまざまな意見が出された。
今回参加した学生6人に、大学の取り組みも含めて振り返ってもらった。
座談会が自分自身のことを考えるきっかけにも
経済学部経済学科 1年
意見交換会で私は、オンライン授業についての不安を伝えました。特に授業動画を配信するオンデマンド型は、Zoomを使った双方向型のライブ授業よりも理解度が上がりにくいと感じていました。このことを座談会で話すと、みなさんも共感してくれて、大学側も改善につなげたいと言ってくれました。また、大学生活や授業について意見交換しながら、自分自身が「この先どんなふうに生活していくべきか」について改めて考える、とても良いきっかけになったと思っています。
最近は対面授業も増えてきましたが、校舎に入るときは一人ずつ学生証を提示し、体温を測定し、アルコール消毒をする手順になっています。徹底した感染対策は、学生としても安心できました。
「密じゃない」サークル紹介イベントに参加
経済学部経済学科 1年
僕が良かったなと感じた大学の取り組みの一つは「サークル紹介イベント」です。健康診断の日にあわせ、友達と一緒に経済学部の校舎の中を回りながら、密にならず、いろんなサークルの人たちに直接会って情報を得ることができました。
もう一つは、他学部の学生たちと交流する「ワールド・カフェ」です。もともと日本大学は学部が分散し、他学部と触れ合う機会がほとんどないのですが、このイベントで理系学生と同じグループになり、私とは全然違う考え方を知ることができて刺激になりました。
意見交換会では、それまで「意外とみんなは気にしないのかな」と感じていたようなことを話してみたら、実はみんなも同じように考えていたことが分かり良かったです。
「アウトブレイクタイム」でクラスになじめた
経済学部経済学科 1年
コロナ禍に入学した私たちは、学生同士でも気軽に話せる環境ではありませんでした。そんななかで意見交換会に参加し、授業や学生生活について日ごろから思っていたことを、大学側に直接伝えることができたのは、本当に良かったと思っています。
私が大学側の取り組みで嬉しかったのは、必修科目授業でのアウトブレイクタイムです。Zoomを使った双方向授業でしたが、このなかでクラスのみんなと自由に会話ができる時間をつくってもらえました。私自身、この時間をきっかけに学園祭の実行委員会活動への参加を決めました。今は対面授業も始まりましたが、アウトブレイクタイムのワンクッションがあったからこそ、スムーズになじみ、充実した大学生活を過ごせているのだと実感しています。
大学側に意見を伝える機会、これからも
経済学部金融公共経済学科 1年
意見交換会では、授業形態が大きく変わったことで課題量が増えてしまい、学生の負担になっていると伝えました。その後は、Zoomを使いながら授業外の学習時間があまり増えないよう配慮してくれる先生が増えてきて、良かったと感じています。
コロナ禍の影響で、遠くから上京して一人暮らしの学生が、話し相手は電話越しの母親しかおらず落ち込んでいると聞きました。大学のガイダンスでも、気軽に学生相談窓口や保健室を利用してほしいと紹介してくれていたので、ぜひ活用してほしいですね。
今回のように、学生が大学側に「こういうことをしてほしい」「こういう取組みは良かった」などの意見を伝える機会である意見交換会を、これからもぜひ続けてほしいと思います。
ワクチン職域接種、早い対応に助けられた
経済学部金融公共経済学科 1年
僕は入学を機に上京してきましたが、大学のありがたみを感じたのは、ワクチン職域接種の対応です。住民票を実家に残しており、地元で接種を受けるとなると非常に大変だったので、とても助かりました。高校時代の同級生たちのなかでも一番早かったのは驚きました。
また、私は付属校出身ではなく、コロナ禍で対面授業がないなか、どうやって大学で友達をつくろうかと悩んでいました。そんななか、「自主創造」という必修科目授業でZoomを使ったレクリエーションのような時間があり、それを機に、連鎖的に友達ができました。
今回の意見交換会では、こうした取り組みへの感謝を伝えました。一方で、オンライン授業の進め方について要望を出し、先生方にも伝えてもらえたようです。
「ワールド・カフェ」で他学部学生から刺激
経済学部経済学科 1年
大学側が学生の声に耳を傾けてくれる意見交換会を開催してくれたことを嬉しく思います。日ごろの思いを正直に話すことができ、とても有意義な会でした。
私が特に、大学側の取り組みで良かったと感じているのは、他学部の学生との交流イベント「ワールド・カフェ」です。グループごとに「AIと社会」をテーマに議論しました。AIを新しい目線でとらえることができたほか、他学部の授業や大学生活などについて情報交換しながら交流できたのは、大きな収穫でした。
待望の対面授業もようやく始まりました。参加するときは、教室内の机の上に貼ってあるQRコードを読み込み、どの席に座ったかを記録します。こうしたきめ細やかな感染対策は安心できますね。
学生の声に応えながら、学業を支える工夫・改善に取り組んできた経済学部。「学生ファースト」の視点に立った今後の方針について、武廣教授に語ってもらった。
学生同士の交流の大切さ再確認/学生の要望に応えるべく模索も
武廣教授
コロナ禍が続くなか、私たち教職員は、学生たちの声に応えるべく何とかしてイベントや授業の充実を図ろうと模索してきた1年あまりでしたが、良い反響を得られたと感じています。同時に、学生同士で直接話したり、学生がキャンパスに来て先輩たちと交流する機会というのは、やはりとても大切なことだと再確認しました。
今後は、本来の授業形態である対面授業を増やしていかなければいけませんし、要望の声が強いことも分かっています。逆に、まだ対面授業に不安を持つ学生もいるので、どうすれば可能なのか、強制にならないよう配慮もしつつ、対面授業と同じような一体感・達成感を得られる工夫を考えていきたいと思います。
学生のニーズ、いかに実行していくか
私たち大学側が、学生から直接ヒアリングする機会をもうけることは、非常に意味があるのだと改めて感じています。大学においては学生が主役ですから、引き続き「学生ファースト」の視点で、いろいろな意見を聴くことを大切にしていきます。そしてもっと大切なことは、そうした学生のニーズに沿った取り組みを、いかに実行していくかです。今後も、ヒアリングを含めさまざまな形で意見を吸い上げ、効果的に教育活動に反映していけるよう、学生生活委員会として尽力していくつもりです。