【研究者紹介】
薬剤・化粧品の安全確保で社会貢献

薬学部 藤井 まき子 教授

研究
2020年09月16日

経皮吸収の研究で最前線に。
コロナ禍でWEB講演も

中国人による有名百貨店での化粧品爆買いや京都の喧騒は新型コロナウイルス禍で歴史の一こまに化してしまうのだろうかーー。爆買いさなかの2013年5月、岡山の皮膚科医がある異変に気付いた。カネボウを代表するヒット美白化粧品の利用者にやけに皮膚が白く抜ける患者が多いのだ。問題はカネボウ白斑被害事件に発展、白斑様症状を確認した患者は1万9605人に上り、対象製品の回収数は70万個以上に膨れ上がった。化粧品業界は大きなショックに見舞われる。信頼性を世界に誇る日本の化粧品に黄信号がともったのだ。

白羽の矢

薬学部 藤井 まき子 教授

薬学部 藤井 まき子 教授

この時、信頼回復のため、業界の“お助けウーマン”として白羽の矢が立った。

「薬剤の皮膚への吸収を専門にしている学者が少ないせいか、何かあるとお声が掛かるんですよ。専門家による委員会を立ち上げまして、厚生労働省の意見を聴きながら、業界としての厳しい試験を盛り込んだガイドラインを策定しました」

「薬は効果と副作用をてんびんにかけて副作用に納得して使用しますが、化粧品は生活を豊かにするものですから、万が一にも有害なことがあってはいけないんです。化粧品会社というのはものすごく慎重なんですよ」

体に入る、入らない?

業界の助っ人はこれが初めてではない。

ある種の加水分解コムギタンパクを含むせっけんは、きめ細かな泡としっとり感が女性に受けていた。

ところが、2010年、利用者がうどんなどを摂取した後、スポーツクラブで食物アレルギーのアナフィラキシーショックを起こし、救急車で搬送される事態が立て続けに起こった。

対策研究班がいくつも立ち上がり、そのメンバーの一人として現在も活躍中だ。

「小麦アレルギーは子どもに多いのですが、女性に集中していたことから、せっけんに行き着きました。これまでの安全対策は、体に入ってほしくないものが入ったらこうなる、ということを考えていましたが、世界の流れは、危ないものがどれくらい、体に入るのかということも併せて評価しましょうということになってきています。このため毒性ではなく、経皮吸収を研究している私に声が掛かるのでしょう」

専門は製剤学

学生とのゼミ旅行の様子(2019年2月、南房総にて撮影)

学生とのゼミ旅行で(2019年2月、南房総)

日焼け止めに入っている酸化チタンのナノ粒子が体に入って、がんを誘発するのではとの調査・研究は一段落ついた。

「皮膚を用いた実証実験では皮膚からは入らないという結果になりました。日焼け止めからナノ粒子のまま飛ぶことはないので問題ありません。ただ肺からの吸入は好ましくないので製造現場や環境問題として残っています」

本来の専門は経皮吸収型製剤などの製剤学。患者に使いやすく、効き目の良い外用剤の開発がメインテーマだ。ここには化粧品から得たヒントも。

「本当は皮膚疾患薬や経皮吸収促進を研究している方が楽しいのですけど、頼まれたら断れなくて。いろんなものが安全に使用されるのは重要なので、社会貢献ですね。といっても好きなことを好きなようにやっていますけど」(笑)

薬ってすごい!

「私、体弱かったんです。小児ぜんそく持ちで。ロクな薬がなくてヒスタミン飲んで寝てばかりいたんですよ」

小学校に上がる頃、気管支拡張の吸入薬ができた。学校も普通に行けるようになった。
「薬ってすごいなあと思って」

将来の夢として花屋さんのほかに、薬を扱う職業も漠然と加わった。

趣味は推理小説と旅行。「関西出身なものですから、体が空くと京都、奈良で仏像を見て回ったりしていました」

最近はWEB講演も多くなっているが、コロナ禍転じて、かつての静けさを取り戻した古都巡りへも思いをはせる。バッグにはシャーロック・ホームズを忍ばせて。

薬学部
藤井 まき子(ふじい・まきこ)教授

大阪大薬学部薬学科卒。1980年昭和薬科大副手。98~99年米カンザス大留学。助手、講師、准教授を経て2015年4月から現職。
日本香粧品学会理事、日本薬剤学会代議員。日本毒性学会ファイザー賞など受賞。
共著に『化粧品の未来』『皮膚科医のための香粧品入門』など。奈良県出身。