【研究者紹介】
本物の美しさ見極め、豊かな人生を

芸術学部 福島 唯史 教授

研究
2021年01月05日

絵画から学ぶ感性は多方面に生きる、
油彩画のマティエールを探究

9月29日、東京・銀座の画廊、ギャルリ・サロンドエス。開催中の「福島唯史ドローイング展」には、街の蒸し暑さをよそに、すずやかな心地よさが満ちる。パリや南仏を舞台にしたドローイング(素描)17点の放つ清澄な空気感が来廊客から雑多な日常を忘れさせているかのようだ。

訪れていた元名古屋芸術大教授の傍島幹司氏は言う。
「彼のドローイングは細かい描写をそぎ、感覚的、直感的。絵の中が今にも動き出しそうです。天性の資質ですね。彼の個展を見ると自分もすぐに何か描きたい衝動に駆られます」

若くして画壇に

芸術学部 福島 唯史 教授

芸術学部 福島 唯史 教授

研究のメインテーマは油彩画(油絵)。在学中から油彩による風景画を描き、若くして画壇にデビュー。1994年に絵画の直木賞とも称される昭和会展で日動美術財団賞を受賞し、脚光を浴びた。

学部、大学院で絵画を学ぶ学生約150人にはセザンヌ(1839~1906)以降の近代洋画の構図や絵画空間の捉え方について説き、個別に実技指導する。作品のマティ
エール(絵肌)を左右する油彩画の地塗り塗料と溶き油の関係も主要研究テーマの一つだ。

大胆な構図

画壇や批評家からは「構図の大胆さ」「形をぎりぎりのところまで縮する」作風が注目される。

「ただ単に安定感のある構図より、一見危うい構図であっても、自分自身で納得のいく色と形のバランスが得られるまで試行錯誤を繰り返します。これによって画面の調和が得られたとき。これは( 絵描きとして)こたえられない瞬間です」

作品との出会い

父方の伯父が手塚治虫とも親交があった挿絵画家という環境からか、「大学で漠然と絵描きになりたいと思ったとき、家族は誰も反対しなかった」

美術学科卒業後、23歳で初の欧州への取材旅行に。この時、画集だけで知っていたロシア系フランス人の画家ニコラ・ド・スタール(1914~55)の作品に出会い、「画集の数百倍感動」。その色彩・形体・マティエールの全てに圧倒された。絵画空間の考え方が一変し、目指す方向が定まった。

「帰国して絵を描いていると、これまでと違う感覚で手が動き、カンバスに油絵の具を付けている自分がいました。とても不思議な感覚でした」

感動と絶望

学生にも本物を見ることの重要性を説く。

「スマホで画像を検索し、その画家や作品を分かったようなつもりになるのは危険です。マティエールの美しさは画像では伝わらない。美術館などで本物の美しさに感激し、そして打ちのめされてほしい。『感動』と『絶望』を同時に味わって自らの作家活動に立ち返るのが大事です」

ただ、学生には絵で身を立てることを声高には言わない。

「才能は画家として絵を描く活動だけに発揮されるとは限りません。美術を学んだことによって得た発想や感性を、身を置いた環境でどんどん生かしていってほしい。本当にいいものを見極められると日常がより豊かになります。そんな人生を学生には歩んでほしいと思っています」

風土を肌で感じる

年に1回は主に欧州へスケッチ取材に訪れる。

「その土地の気候風土を肌で感じてくることは作品の色彩に大きく影響します。これからも自分の理想に近づける作品を描き続け、そこから何か少しでも学生たちに伝わるものがあればうれしく思います」

芸術学部
福島 唯史(ふくしま・ただし)教授

日大豊山高から本学芸術学部美術学科。1989年卒後、同学科補助員に。助手、専任講師を経て2004年助教授、15年4月教授。昭和会展・日動美術財団賞、日本交通文化協会・瀧冨士美術賞など受賞。
立軌会同人・運営委員、前田寛治大賞展推薦委員、未来展実行委員・審査委員。東京都出身。