温暖化を防ぐには「脱炭素」が必要?

生産工学部環境安全工学科 今村 宰 准教授

研究
2021年04月01日

地球温暖化を食い止めるために必要とされる「脱炭素*」。どうして必要なのか、2050年までに排出をゼロにするためにはどんな課題があり、そのために私たちは何ができるでしょうか。

Q 脱炭素を実現しないと地球はどうなりますか?

生産工学部環境安全工学科 今村 宰 准教授

生産工学部環境安全工学科 今村 宰 准教授

地球温暖化がさらに進むことになります。地球温暖化をもたらす温室効果ガスの中で、影響が最も大きいのが二酸化炭素(CO2)です。2018年の時点で、世界中で使用されているエネルギー源(一次エネルギー)の約85%は化石燃料。つまり石炭、石油、天然ガスですが、これらは全て炭素を含む物質で、燃料として、あるいは電気や熱にして使うことでCO2を排出します。

地球が温暖化することで、異常気象、生態系の変化、極地の氷の減少、海面上昇といった現象が既に起きています。さらに進むと利用可能な水が減り、農作物の生産量が減って食糧危機が起こる、あるいは多くの生物が絶滅するといったことが予測されています。 

そのため、CO2をゼロにする「脱炭素」が必要なのです。

Q 「半分に減らす」ではいけないのですか?

半分でもCO2を出し続ける限り、温暖化は止まりません。2015年に採択されたパリ協定で、「産業革命前からの平均気温上昇を2℃より十分低く保ち、1.5℃未満に抑える努力をする」という目標が示されました。既に1880年から2012年までに0.85℃上昇したというデータがありますが、IPCC( 気候変動に関する政府間パネル)という専門家による国際的な機構は、「どれだけ温度が上がるかは、産業革命以後に出したCO2の累積排出量に比例する」という見解を示しています。

従って1.5℃未満に抑えるためには、世界中であとどのくらいCO2を出せるかという上限が決まっているのです。半分でも出し続ける限りは、いつかは上限に達してしまいます。だからゼロにしなければならないのです。

Q 菅首相が言うように、2050年までに達成できますか?

日本では、菅首相が所信表明演説で2050年までにゼロにすると言う前は、2030年までに(2013年と比べて)26%減、2050年までに80%減が目標でした。実際に2018年までに12%近く減っており、「2030年の目標は達成可能ではないか。

しかし2050年の80%減はかなりの技術革新がないと難しい」と、多くの専門家や関係者は捉えていました。それがゼロということですから、まだ実現できる道筋は見えていないのが正直なところだと思います。例えば火力発電でCO2を全て吸収して出さない技術の研究も始まっていますが、あらゆる場面でそういった技術革新を実現しなければなりません。

われわれ一般市民が脱炭素のためにできることといえば、まずは省エネです。窓ガラスを新しくして断熱効果を上げるとか、古い家電を買い換えるとかですね。しかしゴミを処分するときにもCO2が出るので、そういったこともトータルで考えなければならないのです。

*脱炭素とは?
脱炭素とは、地球温暖化の原因となる二酸化炭素などの温室効果ガスの排出をなくすため、石炭、石油、天然ガスなどの化石燃料から脱却すること。菅義偉首相は2050 年までに温室効果ガス排出をゼロにすると表明したが、そのためには再生可能エネルギーの利用や、新技術の開発が欠かせない。

今村 宰(いまむら・おさむ)准教授

東京大工学部卒。同大学院新領域創成科学研究科博士課程修了。同工学系研究科助教などを経て、2011年に本学生産工学部環境安全工学科助教、12年から准教授。
熱工学、航空宇宙工学を研究分野とし、主に「燃焼」を追究している。