ワクチンを打つ前に知っておくべきこと

医学部 産婦人科学系産婦人科学分野 川名 敬 教授

研究
2021年08月13日

新型コロナウイルスのワクチン接種が進んでいます。そもそもワクチンとはどういうもので、どういう効果があるのでしょうか。 副反応の心配はないでしょうか。

Q ワクチンを打てば感染しませんか?

医学部 産婦人科学系産婦人科学分野 川名 敬 教授

医学部 産婦人科学系産婦人科学分野 川名 敬 教授

感染症のワクチンには2種類があります。一つは「生ワクチン」で、麻疹や風疹のワクチンなど、もとになっている病原体を投与するものです。もう一つは、病原体の毒性をなくしタンパク質で作られた「不活化ワクチン」で、インフルエンザなどに用いられています。ワクチンの働きには、抗体を作って免疫を獲得し感染自体を防ぐ働きと、感染後の重症化を抑える働きが あります。ファイザー社やモデルナ社の新型コロナワクチンは、遺伝子を用いたmRNA(メッセンジャー RNA)ワクチンと呼ばれるものです。タンパク質のもとになるRNAの状態で接種し、体内でタンパク質を生成します。このワクチンには、感染を抑える働き・発症を抑える働きのどちらもあると言われ、臨床試験では発症を抑える効果が95%前後と報告されています。

Q 世界でワクチンが早くできた理由は? 日本が遅かった理由は?

従来ワクチンの開発には5年以上かかると言われていました。多くのステップを要し、大量生産にも時間がかかります。しかしmRNAワクチンは簡単に大量生産できるという特色があります。新型コロナウイルスへの対応にスピードが求められたため、緊急的に欧米で認可され、日本でも認められました。mRNAワクチンが人類に投与されるのは今回が初めて。日本で開発が遅れたのは、日本の感染者数が欧米に比べて少なかったため臨床試験が進まなかったことが第一の理由です。 また、多大な研究費用を捻出できる製薬企業が少ないという理由もありました。

Q 早く接種したいけれど副反応の心配は?

今回は差し迫った危険を感じ、皆さんワクチンに興味があると思います。日本では以前からワクチンの副反応が大きく取り上げられ、その都度接種を中止してきた歴史があります。子宮頸がんなどを引き起こすヒトパピローマウイルス(HPV)に感 染させないワクチンが日本で承認されたのは2009年。その後5年間ほどで当時12~16歳の8割が接種しました。しかし、2013年までに多くの深刻な副反応の可能性が報道され、世界130カ国以上で接種しているにもかかわらず、日本では現在に 至るまでほとんど接種が行われていません。報道されたHPVワクチン接種後の症状はワクチンが直接的な原因ではなく、他の病気が隠れていたことも多く報告されて います。そのリスクとベネフィットをどうとらえるか、日本人は将来の病気に対する予防意識が低いと感じています。ようやく2016年に小・中・高でがん教育、予防教育を行うことが決まり、今年3月にはHPVワクチンの効果が教材に取り入れられました。学校教育と今回の新型コロナの経験で、今後日本人のワクチンに対する認識が変化することを期待しています。

新型コロナウイルス
2019年11月に中国武漢で初めて発生が確認され、2020年以降感染症の世界的流行を引き起こしている。世界保健機関(WHO)が定めた感染症の国際正式名称はCOVID-19。ファイザー社やモデルナ社で開発されたワクチンはその発症を95%前後抑えるというデータが出ており、収束のための切り札として期待される。

医学部 産婦人科学系産婦人科学分野
川名 敬(かわな けい)教授

東北大医学部卒。東京大医学部産科婦人科学医員・助手を務め同大で医学博士取得。同准教授を経て2016年から本学医学部産婦人科学系産婦人科学分野教授、本学医学部付属板橋病院産婦人科部長を務めている。