薬学部主催・オンライン薬草教室
「奄美の植物と蝶」をテーマに

薬学部

研究
2021年08月06日

薬学部は例年薬草教室を開催している。今年も5月8日にオンラインで開催した。本学の安川憲名誉教授が奄美大島と喜界島の植物について講演し、最後に生薬学研究室の松﨑桂一教授が同学部の敷地内にある薬用植物園を紹介した。今回、同教室の内容を本ページ用に再編集して紹介する。

本学に「薬用植物園」という施設があるのをご存じだろうか? 千葉県船橋市の薬学部構内にある、東京ドーム1/4ほどの広さの植物園だ。学生たちの教育・研究目的で、国内外の薬用植物約1,000種を栽植。移転前を含むと65年以上の歴史を誇る、同学部になくてはならない研究拠点だ。

「薬用植物園」の園内マップ

「薬用植物園」の園内マップ。教材に必要な植物や研究に寄与するための試験栽培も行われている

その「薬用植物園」で、安川名誉教授はある蝶との出会い、1600キロ先の鹿児島県南部・奄美大島にまで足を運び続けることとなる。

定年して2年目の2017年に、同学部の松﨑桂一教授の生薬学研究室に研究員として加わった。「せっかくですから薬用植物園で薬用植物の花の写真を撮ろうと、週に1回は薬用植物園に行くようにしていたのです。5月の中旬のある日に、薬用植物園で見慣れない白い蝶を見ました」

小学生の頃から蝶が好きで、夏休みの課題でも標本を作ったりしていた。保育社という専門出版社から出ていた『原色日本蝶類図鑑』は、安川少年のバイブルだった。

「しかし、この蝶が図鑑に載っていたという記憶が全くありませんでした」。早速、図書館に行って調べたが、全く見当たらなかった。悶々としていた夏休みのある日、地元・千葉県佐倉市で、アカボシゴマダラ夏型を見つけた。

アカボシゴマダラ夏型

アカボシゴマダラ夏型

「カメラを取りに家に帰って戻ってみると残念ながら既に飛び立っていました」。諦めずに調べると、ついに正体が判明した。

「アカボシゴマダラという蝶は、奄美群島に生息している蝶でした。薬用植物園で見た白い蝶は、1998年に神奈川県藤沢市で記録されている中国種のアカボシゴマダラ(特定外来生物に指定)でした。この蝶は、春型の白化が著しく薬用植物園で見た白い蝶の正体でした」

圧倒された奄美の自然

奄美大島固有種のフジノカンアオイ(ウマノスズクサ科)

奄美大島固有種のフジノカンアオイ(ウマノスズクサ科)

近年では、関東一円に定着して、分布を拡大していることが分かったが「やはり、本邦種を奄美で見てみたい」。飛行機に乗り、2017年11月25日から4日間、奄美大島に入った。

「初めての奄美はなかなか天気には恵まれなかったのですが、最終日の28日に夏日になって、奄美大島の最北端で(アカボシゴマダラをはじめ)多くの蝶をみることができました」

この時の衝撃的な印象が、頻繁に奄美へと足を向ける原体験となった。それからの3年半(2021年5月現在)で、都合11回。

「私が主に行った奄美大島は日本で3番目に大きな島。沖縄本島と比べれば、だいたい6割くらいの大きさで、標高の高い湯湾岳という山は700m近くあります」。クロウサギやルリカケスで有名な奄美群島は、気候は亜熱帯海洋性気候と呼ばれる、温帯と熱帯のちょうど中間くらいで、年間通じて過ごし易い気候だという。

「有名なサトウキビ、多くの果物がなっています。それから、奄美のマングローブは見事なものでした」

蝶だけでなく、せっかくであれば植物も、と参考にする書物を探していると、『奄美の絶滅危惧植物』という本を見つけた。この本の著者であり写真家の山下弘さんは、奇遇にも本学出身で、安川名誉教授と同い年。意気投合し、山下さんのガイドで、奄美の珍しい植物たちも調査することにした。

飽きることなき奄美の魅力

ヤッコソウ

ヤッコソウ

それからというもの、奄美を訪れる度に、蝶と絶滅危惧植物の探索を続けた。

「これはヤッコソウというラフレシア科の植物。ほかの植物の根や茎に寄生しているのが特徴です」

鱗片状の葉を広げたその姿が江戸時代の奴さんに似ていたことから付けられというヤッコソウも準絶滅危惧植物だ。

ワダツミノキ

ワダツミノキ

「ワダツミノキという名前を聞いたことあるでしょう。奄美出身の歌手・元ちとせさんの 曲名に由来するこの植物も、奄美大島だけに生息する固有植物です」

リュウキュウアサギマダラ

リュウキュウアサギマダラ

奄美大島の東にある、喜界島という“日本で最も美しい村”と呼ばれる島にも行った。

「リュウキュウアサギマダラという、タテハチョウ科に属する蝶を見に行ったんです。それも越冬風景を見に」

奄美群島では、気温のせいかヘビも冬眠しないそうだ。リュウキュウアサギマダラも、動きはにぶくはなるものの、群れで集まって冬を越える。その景色は幻想的で神々しくもあった。

「ちなみに、『タテハチョウ』というのは、縦に羽を揃えて留まるからそう呼ぶそうだ。対して羽を横にして留まる種を『タテハモドキ』というんです」と安川名誉教授。

「今は、このタテハモドキの天敵、ミナミトゲヘリカメムシの仲間にハマっており、越冬の生態が分かっていないヒメジュウジナガカメムシの定点観察をしています」

まだまだ飽きることのなさそうな、安川氏の奄美群島調査。次はどんな出会いが待っているのだろう。