【研究者紹介】
アートとしての銀塩写真が持つ魅力に引きつけられて

芸術学部 服部 一人 准教授

研究
2021年11月12日

デジタル全盛の世の中で表現方法の一つとしてアナログ技法を探求。突き詰めた先に見える芸術家としてのスタイル。

芸術学部 服部 一人 准教授

芸術学部 服部 一人 准教授

本学卒業後、社員カメラマンとして日本デザインセンターに約10年間勤め、その後のケニア国立博物館、チェンマイ山岳民族博物館、アユタヤ歴史研究センターでは動画撮影のカメラマンとしても活躍した。帰国後はフリーカメラマンとして活動し、現在に至る。

「社員カメラマンとして広告写真、ケニアとタイでは研究者や学者と共にフィールドワークに出て、発掘調査などのドキュメンタリーを撮影していました。デジタルカメラ、動画撮影を経て、現在は銀塩写真*を専門に研究するなど、私の経歴には一貫性がありません。それでも全ての仕事が楽しかったし、多くの撮影分野を学んだことは学生を指導する上でも役立っています」

*銀塩写真
乾板、写真フィルム、印画紙に銀塩 (ハロゲン化銀)を感光材料として使用する写真術のこと。ハロゲン化銀を含む感光乳剤に光を当て、暗室で化学的な処理をして完成する。 端的にフィルム時代のアナログ写真を指す。

自分自身と向き合う時間

デジタル全盛の現代において、時間も手間もかかる銀塩写真は業務に不向きだ。実際に服部准教授も仕事ではデジタルカメラを使用していた。それでもシャッターを切ってから、すぐに画像を見られないことが、芸術作品を作る上での魅力になるという。

「銀塩写真は撮影してから暗室で現像されるまでにいやでも長時間、自分の写真と向き合わなくてはなりません。その間に思索を巡らすことができますし、画を見てから気付くことも多いのです。この一連のプロセスを無駄で非効率と考える人もいるかもしれませんが、写真をアート作品と捉えるならば、自分自身と向き合うことのできる、かけがえのない時間だと思うのです」

服部准教授は銀塩写真がデジタルカメラよりも芸術作品として優れていると主張しているのではない。ただ銀塩写真に魅了され、表現の一つとして生きる道を探っているのだ。

一生の技術

服部准教授は年に一度、自身の研究成果をギャラリー展示という形で発表している。その主軸となるのが海外でのスナップショットだ。新型コロナウイルスの影響もあり、今年は20歳の時に初めて行った海外旅行の写真を展示した。

「撮影は40年前ですが、プリントは今年行いました。暗室での作業は私の学生時代と大きく変わりませんし、今でも当時の教えが生きています」

デジタルでのプリント技術は、PC作業も含めて目まぐるしく進歩するため、覚えたことを10年後も使える保証はない。一方、銀塩写真は覚えた技術を一生使うことが可能だ。この点も研究テーマとして魅了される理由の一つなのだ。

芸術学部
服部 一人(はっとり・かずひと)准教授

1984年本学芸術学部写真学科卒。日本デザインセンター、ケニア国立博物館、チェンマイ山岳民族博物館、アユタヤ歴史研究センター、フリーカメラマンを経て、2015年から本学芸術学部写真学科非常勤講師。19年准教授。愛知県出身。