【研究者紹介】
“痛み”研究に専念した22年、口腔顔面痛の克服を目指して

歯学部 篠田 雅路 教授

研究
2021年12月17日

症状や原因が千差万別な口腔顔面痛のメカニズムを解き明かす。開業医や若手歯科医への啓発活動も熱心に。

歯学部 篠田 雅路 教授

歯学部 篠田 雅路 教授

「みんな歯が痛くて歯科に通うのに、歯医者が〝痛み〟を知らないでどうする? 頑張って研究しなさい!」

東北大歯学部を卒業し、研修医を修了して名古屋大大学院医学系研究科の門を叩いた時、疼痛研究が専門の指導教授から叱咤激励された言葉だ。結局、それが生涯の指針になった。

その教授に導かれて大学院修了後は同大学院の助手を3年間勤め、その後は疼痛研究で名高い米ピッツバーグ大学で3年間〝痛み〟の研究に没頭した。

そして口腔顔面痛*の研究で有名だった本学歯学部生理学講座へ入局し、2020年4月より、その講座を引き継いだのである。

*口腔顔面痛
口の中や顎、顔などに発生する痛みのこと。歯痛をはじめ顎関節症、三又神経痛、舌痛症、非歯原性歯痛、帯状疱疹後神経痛、がん性疼痛などがある。症状や原因が多岐にわたり、治療法も千差万別であるため、集学的治療が求められる。

一流科学誌に論文発表

篠田雅路教授は今年、基礎歯科医学分野で国際レベルの卓越した研究成果を挙げたとして、歯科基礎医学会からライオン学術賞を受賞した。

コロナ禍での学会とあって、ご多聞に漏れずネット上での開催だが、基礎歯科医学の領域では国内最大の学会である。

口腔顔面痛研究のトップランナー

評価されたのは、その精力的な研究発表にある。大学院時代からPainやJournal of Neuroscienceといった一流科学誌に論文発表してきた。「口腔顔面領域の痛みの研究発表では、たぶん本学歯学部生理学講座が日本一」だそうだ。

口腔顔面痛は、症状や原因が多岐にわたるため、そのメカニズムも千差万別。そのやっかいな〝痛み〟の仕組みを一つ一つ解明してきた。

例えば、口の中にできる口腔がんは、初期はほとんど痛みを感じないのはなぜか? がん細胞から出ている物質が痛みを伝える神経を興奮させないように働き掛けていることが分かったそうだ。また、歯周病を引き起こす細菌の毒素も、痛みを伝える神経に作用しているらしい。上の歯が虫歯になったのに、全く関係ない下の歯が痛むことがある。これは、三又神経節という場所で神経細胞同士の連絡が変化することが原因であるようだ。

最近では、口腔顔面痛の外来を設置している大学病院も増えてきた。とはいえ、一般歯科医では口腔顔面痛の認知度はまだまだ高いとは言えない。篠田教授は、理事を務める日本口腔顔面痛学会などを通じて、開業医や若手歯科医向けに口腔顔面痛の啓発活動も熱心に進めている。

歯学部
篠田 雅路(しのだ・まさみち)教授

1998年東北大歯学部卒。2003年名古屋大大学院医学系研究科修了。博士(医学)。米ピッツバーグ大博士研究員を経て、09年本学歯学部助教。11年准教授、20年教授。日本疼痛学会、日本口腔顔面痛学会で理事を務める。愛知県出身。