【研究者紹介】
債権者間の平等・衡平を追究し、倒産手続のIT化を目指す

法学部 杉本 純子 教授

研究
2022年11月18日

事業再生を実現するために必要な債権者間の平等や衡平を模索。民事訴訟手続のIT化を検討する国の委員会にも参画し、次は倒産手続のIT化を。

法学部 杉本 純子 教授

法学部 杉本 純子 教授

倒産法*の中で杉本純子教授が主に研究しているのは、会社更生や民事再生など事業再生に関する手続だ。

「債務が多くなって、今ある資産で返せなくなったという状況を倒産といいます。倒産に直面したときは、ごく限られた財産・資金の中で、誰にどういう順番でお金を返すことが、事業再生のためにベストなのか、その場合の平等、衡平(個別の事情を踏まえた妥当性)とは何なのかが大きな課題です。事業継続に必要不可欠な債務を優先的に支払い、他の債権者には支払いを待ってもらうことで事業を建て直し、最終的に債権者全体により多くお金を返すことができるケース
があるからです」

事業再生の可能性をより広げるため、中小企業でも使いやすい「私的整理」の仕組みについても研究している。

*倒産法
経済的な破綻状況に陥った企業や個人について、清算または再生の手続を定めた法律の総称。倒産法という法律はなく、清算型手続は破産法や会社法、再生型手続は民事再生法、会社更生法などにのっとって処理される。

手続のIT化

2014年から約2年間、在外研究で米国に滞在。裁判手続のIT化が非常に進んでいることを知る。以後、民事裁判や倒産手続のIT化が研究テーマに加わった。日本ではいまだに分厚い紙の束を手に裁判に臨んでいる。米国の状況を研究会などで報告すると、17年に内閣官房が立ち上げた「裁判手続等のIT化検討会」の委員に選出。検討会の報告を受け、民事訴訟手続などのIT化は実現に近づいている。

杉本教授はそれにとどまらず、倒産手続のIT化を目指す研究会を立ち上げた。この分野こそ必要だからだ。例えば10年に大手消費者金融の武富士に会社更生法が適用された時、過払い金返還を求める債権者は90万人を超えた。その全員との届出書、通知書などのやりとりは、現在もそうだが全て紙による郵送だった。郵送費だけで6億円ほどかかっており、手続をオンライン化すれば、その分を債権者に返す資金に回せる可能性がある。

倒産法の面白さ

杉本教授は高校生の頃から法廷を扱ったドラマや小説が好きで、弁護士を志して法学部に進んだ。司法試験の勉強もしたが、指導教授の勧めで大学院に進み研究者になった。大学4年の時に学んだ倒産法に特に興味を持ったのは……。

「倒産という局面に入った時には、対処すべき法的問題がたくさんあります。あらゆる契約関係があり、担保の問題もある。税金を滞納したりして税法も関連するし、従業員との関係では労働法も関連します。さまざまな法律が関連してくるところが興味深かったですね」

法学部
杉本 純子(すぎもと・じゅんこ)教授

2004年同志社大法学部卒。09年同大学院博士後期課程単位取得退学。同年本学法学部助教、12年准教授、19年から教授。18年から事業再生研究機構「倒産手続のIT化研究会」座長、21年から規制改革推進会議委員(内閣府)を務める。兵庫県出身。