薬学部 福岡 憲泰 教授
「飲んだら危ない薬のリスト」など、薬害を前面に出した週刊誌記事が最近とみに増えているが、多くの人が大量に投与される薬に漠然とした不安を抱えている。
薬学部病院薬学研究室では、体の中での薬の動きである「薬物動態*」に基づく適切な薬の投与方法や薬による副作用の発生を評価する研究を行い、医療現場での有効な薬の使用を日々サポートしている。
*薬物動態
薬は注射されたり消化管から吸収されたりした後、血液を通じて組織全体に回り、肝臓で代謝され、腎臓から尿として排出される。こうした過程の薬物濃度の変化を追い、薬の効能や毒性発現との関連性などを調べる。
薬学部・福岡憲泰 教授
「薬はお酒に例えると分かりやすい。同じコップ一杯のビールでも酔う人と酔わない人がいる。お酒に強い人に対して『体が大きいから』と言うこともあります」
お酒は肝臓で代謝されるが、個々の肝臓の機能や同じ人でも体調や食べ物によって代謝・吸収の度合いが異なる。概して体の大きな人は肝臓も大きいので代謝されやすく薬が効きにくいという。
現在の研究の中心は生後数週間の赤ちゃんだ。「早産未熟児への適切な薬の投与量を研究しています。赤ちゃんは1週間単位で体が変化していきますが、体重に比べて肝臓や腎臓の発達が十分でなく、薬をうまく処理できません」
コロナ禍で一時研究がストップしていたが、予備試験の結果、実用化のめどが立ちつつあるという。
これまで、①骨髄移植の際の免疫拒絶反応の抑制に用いる薬、②頭部外傷などに対する低体温療法での催眠鎮静剤、③骨肉腫に対する抗がん剤――などの投与研究を行ってきた。
「医師から相談を持ち込まれ、さあ一緒にやりましょうと。必要としている患者や医者が現場にいて、実際に役に立てばやりがいがあります」
日本の薬剤師の在り方に疑問もある。「新型コロナウイルスのワクチン接種ができなかったのは少しがっかりです。看護師は3年学べば医師の監督下で注射ができますが、薬剤師は6年教育なのにできない。薬に係る医療行為を単独でできるように拡充した方がいいと思うのですが」
「百薬の長ともいわれるお酒は最も身近な薬です」
適量の薬はもちろん、お酒の適量も日々自身の体をもとに“研究”にいそしむ。
薬学部
福岡 憲泰(ふくおか・のりやす)教授
1981年徳島大薬学部卒。同大医学部附属病院を経て83年香川医科大(現・香川大)医学部附属病院勤務。2004年同病院副薬剤部長。13年から現職。
博士(05年臨床薬学、13年医学)。日本医療薬学会認定・指導薬剤師。石川県出身。