準硬式野球
全日本大学準硬式野球連盟は2022年9月、「全日本大学準硬式野球 甲子園大会」の実施を発表。"ジュンコー"が史上初めて阪神甲子園球場で行われる予定だったが、開催予定の同11月13日は無情の雨。それでも、憧れの聖地に足を踏み入れた東西25名ずつの選手、そして開催を支えたスタッフらは、研修なども含めた貴重な3日間を共有し、交流を深めた。
阪神甲子園球場——。いわずと知れた、阪神タイガースの本拠地。そして1年のうち春夏ほぼ1カ月間、日本人の魂を揺さぶる高校野球の祝祭空間となる。その、聖地。2022年11月13日には、史上初めて準硬式の球音が銀傘に響くはず、だった。
話は2018年にさかのぼる。本学準硬式野球部の杉山智広コーチは、「大学の準硬式野球を、もっと認知してもらいたい」と、甲子園で試合ができないかと考えていた。全日本大学準硬式野球連盟理事なども兼ねる杉山コーチ自身、2001年夏には、日大三高の主将として全国優勝を体験。"その場所"の素晴らしさは、体に染みこんでいる。18年4月には、「東西対抗日本一決定戦」構想実現のためのプロジェクトがスタートし、加盟各大学のスタッフが、関係各所への折衝に奔走する日々が始まる。
だが、初めての試みだけに、おいそれとはいかない。連盟内での協議、球場借用、スポンサー協力、20年以降のコロナ禍により、開催時期は二転三転した。そして、プロジェクトのスタートから丸4年。23年度に設立75周年の節目を迎える連盟のスペシャルマッチとして、歴史的な「東西対抗日本一決定戦」が実現したわけである。大会ディレクターは杉山コーチ。プロジェクトチームの一員で本学準硬式野球部の今井瑠奈(経済・2年)も、実現に向けて骨を折った一人である。
全日本大学準硬式野球連盟には、全国272大学が加盟し、約1万人の選手がいる。杉山コーチによると、「数年前のアンケートでは、高校で野球をやめるつもりだったという大学進学者のうち、"もし甲子園でプレーできるチャンスがあるのなら、大学でも野球を続けたい"という答えが7割強を占めました」。その、甲子園での試合である。東西選抜チームの選手選考は、自薦ながら、オーバースローの投手なら珠速140キロ以上、野手の場合はスイングスピード130キロ以上……など、一定の基準が設けられた。
そこから"ジュンコー"史上初の甲子園メンバーに選考されたのは、東西各25人ずつ。中には、17年夏に準優勝した広陵高出身の永井克樹さん(明治大4年)のような経験者もいれば、コロナ禍で春夏の甲子園大会が中止になった20年当時の高校3年生(現在は大学2年)も。7年ぶりに全日本大学準硬式野球選手権を制した本学からは、その大会の中京大戦でホームランを放つなど、勝負強さを見せた中島健輔さん(経済3年)が主将、ほかにはスタッフとして米﨑寛監督、スコアラー・田口琳珠さん(法4年)、さらに内田幸佑さん(文理2年)が審判に選ばれた。
淡路佐野運動公園の室内練習場では、東西50人の選手と地元の小学生がボールを通じて交流を深めた
甲子園での試合だけではない。所属連盟もリーグも違えば、当然普段顔を合わせることもない選手たちにとって、またとない機会である。試合2日前の11日に集結した兵庫県淡路市は、交流を深めながらの貴重な情報共有の場となった。12日午前には、市内の淡路佐野運動公園で練習し、午後からは地元の小学生約40人と交流。淡路市を含む淡路島は、かつては1953年の選抜高校野球で洲本高が優勝したり、近年なら阪神タイガースの近本光司選手を生んだりと、野球の盛んな地である。選手たちは、小学生の技術の確かさに目を丸くしながらキャッチホールをし、ノックを受け、ゲームを通じて絆を深めた。
JOC上田大介氏によるインテグリティ研修が開催された
夕刻からは、JOCの上田大介氏を招き、ホテルでインテグリティ研修。「なぜ準硬式野球をプレーするのか」をあらためて突き詰め、意見交換する濃密な時間となった。
翌13日午前、バスで甲子園へ。ただ、9時から行われた大学女子硬式野球選抜対阪神タイガースWomenをスタンドで観戦するうち、雲行きが怪しくなる。10時過ぎには雨が降り出し、強さを増し、試合開始予定の12時には、水が浮く状態に。選手たちは前日から予報をチェックしつつ、てるてる坊主をつくるなどして好天を祈ったが、水はけのよさで知られる甲子園も、時間とともに増す雨量にはさすがにかなわない。ついに、大会ディレクターの杉山コーチが中止をアナウンス。4年を費やして実現した試合だけに、空の気まぐれをどれだけ恨んだことか。
午前中に行われた大学女子硬式野球選抜対阪神タイガースWomen戦では、本学国際関係学部女子硬式野球部監督の柳理菜さんが選抜チームを率いて勝利
本学国際関係学部の相田千陽さんが選抜チームの一員としてマウンドを踏み、「初めての場所。幸せでした」
土の部分には入れないため、人工芝エリアで行われた始球式。ウクライナからの留学生が投げ、中島健輔さんが打席に立った
ウクライナからの留学生が投手役を務めた始球式で打席に立った中島さんは、スタンドの観客、そして駆けつけた本学準硬式野球部のメンバーらにこう挨拶した。
「(中止は)率直に残念ですが、東と西の代表で交流できた。いい出会い。感謝しかありません。甲子園には、パワーを感じました。大学で準硬式を続けてよかった。準硬式でもこういう舞台がある、と高校生に伝えたい」
「大学で野球を続けるかどうか迷っている高校生には、こう言うんです。"たとえ高校時代に甲子園に出られなくても、レギュラーになれなくても、そこで終わりじゃない。準硬式で続ける道もあるよ"と」。そう、まだ終わりじゃない。ジュンコー史上初の甲子園ストーリーは、これからも続くのだ。
天気予報が思わしくなく、参加者はてるてる坊主をつくり、好天を祈ったが…
スタンドの観客に挨拶する東日本選抜主将・中島健輔さん
右は、三塁塁審を務める予定だった内田幸佑さん
左から西日本選抜・大手未来主将(大阪経済大4年)、プロジェクトチーム学生委員の近藤みのりさん(愛知大4年)、東日本選抜・中島健輔主将