我、プロとして

Vol.11 熊谷公男 氏【前編】
株式会社カネダイ 水産食品部直販事業 事業長(1990年法学部経営学科卒)

卒業生
2021年04月19日

気仙沼発全国へ
復興の狼煙を上げた「かに物語」

東京駅から新幹線とJR大船渡線を乗り継いで丸5時間。マグロの遠洋漁業や水産加工で栄える宮城県気仙沼市南気仙沼。
太平洋に面し、リアス式海岸の特徴たる入り組んだ岬と丘陵が織りなす港町に気仙沼漁港がある。海に向き合い海とともに暮らしてきたこの町が、海を怖れることになった。

2011年3月11日14時46分―。

あの日、震度6弱の地震と観測地点によっては12mまで及んだ津波によって全てが流された気仙沼。
震災後、新たな雇用を創造するものを仕掛けてみないかという話があり、手を挙げて新たなブランド「かに物語」を立ち上げたのが、熊谷公男氏だ。

「復興の成功事例になれば」
その思いで、気仙沼そして東京を経由して全国へ展開される「かに物語」の誕生と、生みの親である熊谷氏にお話しを伺った。

和をもって接し、誠をもって奉仕する

熊谷氏は気仙沼にある株式会社カネダイに勤め26年目になる。
カネダイは昭和17年創業し、船舶石油販売業や、廻船問屋業、漁業、石油・ガス販売業、水産加工業を展開する会社だ。

そのカネダイには「和心誠心」という社是がある。

「社員を大事にするのがまず最初に来ていますので、真面目にやっていることに関して応援してくれる度量のある会社です」

気仙沼は立地から「陸の孤島」と呼ばれることもある。しかし、遠洋船でハワイやグアムまで漁に行くところから、チャレンジ精神の土壌が気仙沼にあると熊谷氏は言う。

後述する「かに物語」を新規事業として立ち上げた熊谷氏。その背景には、カネダイの社風と気仙沼の土地柄があった。

ネット社会と「かに物語」誕生の足音

「国内で扱っているのは、我々カネダイともう1社だけです」

カネダイの独自色が強いのが「まるずわいがに」だった。日本で流通している蟹は、本ズワイガニ、タラバガニが主流。安価で食べられる蟹として売られているのがまるずわいがにだった。

熊谷氏は考えた。競合が少ないのだから、チャンスがあるのではと。

そこで背中を押したのは、2011年の少し前から加速し始めた「ネットショッピング」だった。

その頃、経営企画を担っていた熊谷氏。

「地方にいて、本ズワイガニ、タラバガニを卸で売っている世界=BtoBから、BtoCに変わってくる」

とインターネット社会への移り変わりを読み、販売するにはどうしたらいいかと社内でも話しが上がっていたところに、まるずわいがにが組み合わさった。

共生してきた海に全てが流されたあの日

震災時は、今も本社機能と工場がある川口町にいました。工場で地震に遭い、通常の揺れとは違うものを感じ、会社にいる全員を集めて、只事ではないから逃げようと避難しました。弊社はこれまでも避難訓練を年1回実施しており、伝達網もうまくいき、中国からの研修生も全員集めて一気に逃げました。
足の速い人は遠くまでなど3か所に避難しました。中央公民館に逃げた人たちは3日間くらい取り残されてしまいましたが、全員無事に助かりました。
山の上に逃げた人は自由がききました。
着の身着のままで逃げて、戻ってこられると思っていました。
津波が実際に来た15時半。

42、43歳で被災しましたので、一番働けるときにこの10年間があったと思っています。

「かに物語」誕生と“まるずわいがに”

熊谷氏は、まるずわいがにを地域に愛されている特産品にすべく奔走した

熊谷氏は、まるずわいがにを地域に愛されている特産品にすべく奔走した

まるずわいがには、南大西洋に面し、アフリカ大陸の南西に位置するナミビアの沖合で獲れる。
マグロの遠洋船が中心だった昭和40、50年代頃に、新たな物資をという考えがあり、以前はナミビアより南の南アフリカ共和国でロブスターを獲っていた。しかし、ロブスターの漁獲が減ってきたため、次に見てくれは悪いが美味しいかにがあると言われていたのが「まるずわいがに」だった。

特長は大きく二つある。
(1)弾力性
(2)味=旨味
と熊谷氏は店先で説明する。

「タラバガニの弾力性があります」
「味は毛ガニに似ています」
「つまり、かにの良いとこ取りです」

科学的にも甘味成分であるアミノ酸の含有量が、本ズワイガニ(越前ガニや松葉ガニ)より高いという。
そのまるずわいがにを、カネダイでは獲って1時間以内に船の上でボイルして冷凍。
鮮度が良い状態を保ち一度も解凍しないまま気仙沼の工場まで届け、手作業で身を剥く。
つまり、南大西洋上で冷凍されたものが、購入者の口に運ばれるときに初めて解凍されるのだ。

「味よし、食感よし、鮮度よし。ここまでのカニはない」

加えて、蟹の原料としての単価は高い順から
タラバガニ
本ズワイガニ
まるずわいがに
ベニズワイガニ

まるずわいがには殻の色が黒っぽく、
「別名=Deep Sea Red Club=生まれた時は赤い」
と言うだけあり、大きくなると少し黒くなり見栄えが悪くなるだけで評価が低かった。

そこで、もしかすると、まるずわいがには条件を並べればタラバガニの上に行くのでは、それを打ち出していけばいいと勝機を見出した。

当時でもネットでは値下げ合戦。とくに一般的に流通している蟹は当たり外れがあった。
しかし、カネダイは現地で冷凍し日本に運びむき身にしているため、鮮度が落ちることがない。

普通の蟹は、漁師が獲ってきたものをインポーター(輸入業者)が日本へ運び、それをメーカーが加工して販売する。
つまり六次産業化。カネダイは自社で六次産業化が出来ていた。

「かに物語」はこうして産声を上げた。

後編では、事業を立ち上げる熊谷氏のマインドと、「かに物語」のこれからについて伺う。

<プロフィール>
熊谷公男(くまがい・きみお)

1967年5月9日、宮城県気仙沼市生まれ。1990年法学部経営学科卒。
本学卒業後、アパレル、ベンチャー企業に3年間勤め、その後2年間の築地・荷受け会社での修行を経て95年にカネダイ入社。
営業、経営企画の部署を経て「かに物語」のブランドを立ち上げる。現在は事業長。
気仙沼高校ではゴルフ部を立ち上げ、大学では法学部のゴルフ部に所属した。