【研究者紹介】
医療経済学で医療の質向上と効率化を模索する

スポーツ科学部 今野 広紀 准教授

研究
2021年08月27日

患者のデータ分析から急性期にふさわしい入院期間を考察。それを新型コロナウイルス感染症の病床確保への検証へつなげる。

医療経済学*を専攻し、近年は医療の質の評価に関する実証研究も行う今野広紀准教授。最近まとめた研究に『甲状腺がんの摘出手術を受けた患者の分析結果』がある。急性期病院で、術後にカルシウム代謝障害や甲状腺機能低下症を発症した患者は、相対的に入院期間が長いことが分かった。医学的には驚くことではないが、制度設計の見直しの発見につながった。

「甲状腺を摘出すると、その後甲状腺機能低下症が高い確率で発生します。この病気は外来でもケアができますが、入院でケアを行っていることが多いのです」

手術などに対応する急性期病床を確保するためには、外来で対応できる患者の早期退院を促した方が、病院経営の面でもメリットは大きい。また患者にとっても、今までと同じ日常をできるだけ早く取り戻すためにも、入院期間は短い方が体力の低下を防ぐことができる。「急性期や回復期といった病期にふさわしいケア、患者に合ったケアを、それにふさわしい場所で行うことこそが、大切なことなのです」

*医療経済学
医療従事者や医療施設、医療費といった限られた資源を社会で効率的に運用する方法を模索する学問。今野准教授は診療情報の分析を通じて、医療の質と安全性を高める制度設計の構築にも貢献している。

医療機能分化の重要性

スポーツ科学部 今野 広紀 准教授

スポーツ科学部 今野 広紀 准教授

今野准教授がこの医療経済学に出会ったのは、本学経済学部4年時の卒業研究を進めていた時だった。

「社会保障制度の給付水準を主題に取り組む中で、経済学を医療に取り入れる学問はないかと考え始め、神保町の本屋でいろいろな本を探していたときに医療経済学と出会いました」

地域医療の充実を図る上でも医療経済学はひと役買っている。「同じ病期の患者を数多く診察することが、医療の質と安全性の向上につながります。地域では病院機能のすみ分けがされた方が、結果的に医療の質向上につながり、地域医療が充実しますよね。こういった医療の質を客観的に評価することも大切です」

病床確保対策への応用

今なお猛威を振るう新型コロナウイルス感染症の流行についても、研究を進めている。「大切なことは、全国的な流行を想定し、医療機能分化を進めること。特に重症化を脱した患者の病床確保が困難だったのは、地域医療の後方支援機能の不足が理由の一つ。病期にふさわしい場所でふさわしいケアを提供するためには、まだまだデータ検証が必要です」

新たな感染症という社会問題が自身の研究とつながり、社会を立て直す一翼を担えることへの情熱が、今野准教授の目に宿っていた。

スポーツ科学部
今野 広紀 (こんの・ひろき)准教授

1997年本学経済学部卒。2002年一橋大大学院経済学研究科修士課程修了。08年同博士後期課程単位取得満期退学。
医療経済研究機構、国際医療福祉大を経て、16年から本学准教授。日本医療マネジメント学会所属。第1回医療経済研究奨励賞受賞。東京都出身。