我、プロとして

Vol.23 齊藤ももこ 氏【中編】一般社団法人daidai 代表
(2013年生物資源科学部獣医学科卒)

卒業生
2021年12月23日

行動の先に訪れたタイミング、学びと思い

動物を守りたい、助けたいという側面からだけではなく、減って困る動物もいれば増えすぎて困る動物もいる現実を知った齊藤氏。大学生活も最終年を迎え、周囲が進路を決める中での焦りや悩み。自分が進みたい方向とマッチする道が見つからず、悩んだ末に対馬行きを決めたのは行動の結果だった。対馬でのインターンシップをきっかけに全国を飛び回り、経験を重ねていくうちに、募る対馬への思い。その道のりをたどる。

自然保護の功罪。その狭間で得た学び

齊藤氏の後ろに見えるのはカラフルに染色した鹿、猪の皮革

齊藤氏の後ろに見えるのはカラフルに染色した鹿、猪の皮革

インターンシップで全国を動き回った。
その経験が対馬への思いを加速させた。

舞台は北の地、知床に移る。

知床半島が国立公園に指定され、町がつくった財団法人が半島の自然生態系を守り、人々への普及啓発をしている。そこにインターンシップで訪れた。

「観光客が何気なくあげたエサが原因でヒグマに襲われる、キツネに噛まれて病気になるという可能性があるので、動物にも人にもちゃんと教育をしようと活動されている人たちがいます」

到着した当日、実習先へ車で向かう最中に「中から見ていて」と受け入れ担当の人が車から降りた。

「草むらの中に黒い塊が動いていて、それはヒグマでした。エッと思ったら爆竹で追い払うところでした。国立公園に指定したことで、誰も何も手を加えられない。積み重ねてきた生活の中でヒグマの駆除を行っていたハンターが、許可がないとできなくなってしまい、ヒグマが増えて世界で一番のヒグマの過密地帯になってしまいました」

功と罪、その狭間が現場では起こっていた。

その日見たヒグマは1週間後、人里に慣れてしまったために観光客もいる駐車場に入ってきた。そして、人間に危害を加える一線を越えたと判断され、駆除された。

「実習で牛の解剖もネズミの解剖もしていましたが、獣の臭いをしたさっきまで生きていただろう生き物に触れたことはありませんでした。運ばれてきたヒグマを見てショックでした」

そんな齊藤氏をよそに、スタッフの方は慣れた手つきでDNAを採取したり肝臓からサンプリングし、どういう遺伝的系統があるのか採材していた。

「『獣医なら腕を切り落として』と指示され、ナイフを渡されました。思いのほかスパンときれいに切れ、褒めてもらえた。その、自分の手首よりも大きいヒグマの手首はどうなるのかと聞きました。『爪がすごく伸びていて、ヒグマの対策をしている人は分かるけれど、市民や観光客は分からないからちゃんと見せて、触ってもらうことで危険性を伝える』のだと言われました」

そこから、捕らえた動物をいかにうまく使えるかに興味が湧き、利用の仕方を学ぶようになった。

循環という人間のエゴを次の世代の学びに

もう一つ経験がある。
「東京のあきる野市のボランティアで、子どもを山の中で遊ばせる企画があって、駆除された鹿の雄雌を持ってくるから、解体体験で子どもたちの勉強になることを教えてと言われました。『鹿は牛の仲間だから胃が四つあるよ。一つ目が一番大きくて微生物を飼ってタンパク源にしている。草を食べると胃袋がパンパンになる。もしそんな鹿が山にたくさんいて、みんなが草を食べるとどうなるかな』と問い掛けました」

解体した肉を使い、鹿肉バーガーを作った。
最初は解体の様子に目を背けていた子どもたちだったが、説明を聞くうちに引き込まれるように一生懸命さばき始める。自然の理を聞き、だからこそ食べていくことが大事であると実感したことで、動きが変わった。

「循環という人間のエゴを、使うという選択をすることで次の世代の学びにする。ただ駆除して埋めるよりはいいなと思い、対馬でも何かしたいと思った頃でした」

最後の日に届いた運命の一通

「すごいタイミングでした。ラッキーな」。その一報は大学6年生に届いた。

進路が定まらず、獣医師の国家試験もあり、周りが動物病院に就職を決めていた。環境省や研究に進んだ方がいいのか、いろいろなアイデアがある中で、研究者になって知識を地域にフィードバックできる人になりたいと思った。

しかし、「対馬」「鹿と猪」の研究をしている研究室が全国になく、唯一近い研究をしていた関東のある先生に相談したところ、「対馬で10年、20年は時間をかけないと論文は書けない」と言われた。願書締切の当日、書類も全て揃えた状態で悩んでいた。

そこに丁度、メーリングリストで「猪と鹿の担当を募集します」と流れてきた。

送り主は大学2年生で行った環境省のインターンの職員の方。任期後に対馬市役所に就職し、地域おこし協力隊の担当をしていた。
悩みながらも、揃えた願書を放り出し、踵を返して地域おこし協力隊に応募した。

資源活用もして被害対策もする地域おこし協力隊。任期3年の就職を決めた。

好きなことだから動く

情緒豊かな景色が楽しめる浅芽湾の夕陽

情緒豊かな景色が楽しめる浅芽湾の夕陽

「大学に入って周りや先輩にいろんな行動をしている人がいたので、動かなきゃダメだなと思いました。好きなことだからですが、勝手に動いていました。興味がないことはやってなかったです」

齊藤氏のいまを見ると頷ける。好きこそものの上手なれを体現している。

就職は、動物病院に勤めながら休日に野生動物に関する活動をするのが現実的だなと思っていた時期もあった。野生動物関係で出会った岐阜大学の同級生とSkypeで進路相談をしていた時のこと、ほかの同級生は動物病院の傾向を分析にインターンに行っている中、「ももこは行った?」と聞かれた。

自分は1、2カ所しか行っていないと返すと「それ、好きじゃないんじゃない。それならしない方がいいよ」と言われた。確かにと納得した。

「自分が繰り返し行っていたのは、鳥か猪、鹿、対馬だと思い、私は対馬に行くのが一番幸せなんだ、と自分の行動の起源である対馬を就職なり進路に選ぶことにしました」

もやもやとした葛藤の先に気付いた思い。その思いが引き寄せたかのようなタイミング。行動が呼んだ対馬行きの知らせだったのかもしれない。

<プロフィール>
齊藤ももこ(さいとう・ももこ)

福岡県北九州市出身、転勤族の家庭で高校時代は広島で過ごす。2013年生物資源科学部獣医学科卒。大学時代は、獣医臨床繁殖サークルと野生動物医学会日大支部に所属し、授業でインターンシップをきっかけに全国で野生動物の現状に触れる。2013年3月に卒業後、対馬の地域おこし協力隊で3年間勤務。2016年に一般社団法人daidaiを立ち上げ、対馬の獣害に取り組む。