心不全治療について
循環器病センター長の松本直也です。平素、循環器内科と心臓血管外科に患者さんを多数ご紹介いただきありがとうございます。R7年度の当センターの活動について改めてご紹介させていただきます。
循環器疾患は死因の第2位を占める疾患であり、いろいろな病態の終末像である心不全を発症します。本邦において人口は減りつつありますが心不全の患者さんは増加傾向にあります。心不全の文字通り心駆出率の低下した状態(HFrEF)を表しますが、最近注目を浴びているのは心駆出率の保たれた心不全(HFpEF)です。HFpEFは高血圧症などの生活習慣病を基礎として発症することが多く高齢者や女性に多いという特徴があります。また疫学調査からはHFrEFと同じく予後が不良であることが分かっています。HFrEFの患者さんに対してはFantastic4と呼ばれ作用機序の異なるβ遮断薬、SGLT2阻害薬、ミネラルコルチコイド受容体遮断薬(MRA)、ARNI(サクビトリル・バルサルタン)を早期に導入することが有効とされていますが、HFpEFの患者さんに対するSGLT2阻害薬による予後改善効果はEMPEROR-Preserved試験*にて2021年に証明されました。心駆出率40%以上の患者さんにおいてプラセボ群と比較して心血管死または心不全による入院の複合エンドポイントが有意に減少していました。SGLT2阻害薬は糖尿病の治療薬としてリンゴの木の樹皮から開発されましたが、糖尿病の有無にかかわらずHFpEF患者において心血管死または心不全による入院の複合リスクを減少させました。心血管死亡や全死亡というエンドポイント単独では有意差が出ませんでした。性器感染症および尿路感染症という懸念がありましたがHFpEFに対する標準治療薬として使用されています。
ステロイド系MRAであるスピロノラクトンは、心駆出率45%以上のHFpEF患者がエントリーしたTOPCAT試験**で心血管死、心停止からの蘇生、心不全入院の複合エンドポイントにおいてプラセボ群に対して有意差を示せませんでした。一方非ステロイド系MRA であるフィネレノンはFINEARTS-HF試験***(心駆出率40%以上の症候性心不全がエントリー)で心血管死、心不全の複合エンドポイントにおいてプラセボ群と比較して有意差を出しました(主に心不全関連のイベントを減らしました)。その理由としてフィネレノンによる抗線維化・抗炎症効果が発揮されたのかも知れません。
心不全患者さんは入院を繰り返す度に予後が悪化するため心不全入院の回数を減らすことが何よりも重要です。当センターではガイドラインに沿った標準的治療を推進していますのでまた機会がありましたら心不全患者さんをご紹介いただけると幸いです。
【文献】
*:N Engl J Med 2021;385:1451-1461
**:N Engl J Med 2014;370:1383–92
***:N Engl J Med 2024;391:1475-1485