「2026年度日本大学進学ガイド」
インタビュー
作物の状態をデータ化して解析。
食料の安定生産・供給を支える
栽培管理技術を次世代につなぐために
生物資源科学部 アグリサイエンス学科 准教授
梅田 大樹
PROFILE
2007年東京農工大学大学院連合農学研究科修了。2017年日本大学生物資源科学部に着任。スマート農業技術を活用した生産支援をテーマに,現場で役立つ研究に取り組む。作物の生育状況や農家で長年培われてきた栽培管理の手法を客観的な数値データとして“見える化”し,栽培環境の最適化と栽培技術の継承を目指している。
先端技術を駆使して植物の状態を見える化

私は,AIやIoT,ロボットなどを活用したスマート農業技術による農業生産支援を大きな研究テーマとして掲げています。特に力を注いでいるのは,生産者が長年の経験に基づいて栽培してきた作物の綿密なデータを蓄積し,“見える化”することです。近年は,農業人口や農地面積の減少によって食料の安定生産・安定供給が危機にさらされています。そのような状況において,生産性向上や省力化のための仕組みをつくり生産者を手助けするとともに,これまで日本の農業を支えてきた栽培管理の大切なノウハウが失われないよう,後世に残していくのが研究の重要な目的です。

私がこうしたテーマに取り組むようになったきっかけは,大学院博士課程で,農作物を育てるほ場の土壌に含まれる肥料成分のばらつきをリアルタイムに把握できるセンシングシステムの開発に関わったことです。土壌の肥料成分のばらつきを目に見える形で捉えられれば,前作の肥料の残り具合が多い場所には肥料を控えめに,そうでないところには多めにまけばほ場全体の生育を均一化できます。肥料の無駄を抑え,環境負荷の低減やコスト削減,収益増加を目指せると気付きました。こうした経験から,いかにほ場の状態を精密に捉えるかが生産性を左右すると実感したのです。
生産現場で役立つ技術を開発したいと思うようになった理由の一つが,当時の指導教員がたびたび口にしていた「農学の研究テーマは農家のニーズに基づいて設定すべき」という教えです。また,大学院修了後に就いた仕事で関わった生産者から,「自分たちが頭で描いた通りに作物が育っているかが分かるような技術はないか」と言われたことも,植物の状態を見える化する研究テーマの設定につながりました。
農業の現場の声を大切に,必要とされる研究を
植物の状態をデータとして残そうという取り組みは,情報通信技術の著しい進歩に支えられています。従来は生産者が毎日ほ場へ足を運ばなければできなかった生育状況の確認を,リモートでも可能にする作物生育診断技術の開発が私たちの目標です。
最近の研究では,ドローンに搭載されたカメラやセンサーを使ってデータを収集しています。例えば,ナシやリンゴなど果樹の栽培では生産者が全ての樹木の状態を一度に把握するには大変な労力がかかりますが,ドローンを使えば省力化が可能です。温室では,植物の近傍に,スマートフォンにも搭載されているような距離センサーを設置し,植物の背丈や葉の広がりを把握することで,成長の様子を見きわめることに取り組んでいます。

2024年4月にキャンパス内に新たに誕生したスマートアグリ温室では,イチゴ栽培において,AIを用いて花や果実の数をカウントするシステムの実証試験を行っています。時期ごとの収穫量を予測できるだけでなく,結果的に予測よりも収穫量が少なければその原因を探るきっかけになり,栽培環境の改善に役立つでしょう。ただし,イチゴは品種によって花の形や色合いが異なり,現状では複数の品種で対応できないケースがあります。そのため更に品種ごとに検証を重ね,より使いやすいシステムをつくろうと励んでいるところです。
この他に,葉がどの波長の光をどのぐらい吸収しているかを分析し,成長に必要な成分の含有量を割り出して栄養状態のチェックを可能にする技術開発に取り組んでいます。リアルタイムに植物生育のばらつきを捉えられれば品質の均一化に寄与できると考えています。こうして日々データを蓄積していけば,より好ましい生育環境をつくるために生産者が次に起こすべきアクションを判断するための支援ツールとなるでしょう。

私たちは生産現場で役立つ技術を開発するため,農家の方に研究をスタートさせる段階から意見やアドバイスをいただいています。厳しい声も研究に生かし,作物の栽培や農業経営に有用な成果を見出すことに大きなやりがいを感じています。農学分野においては,生産者は研究者にとってよき先生でもあるのです。
私たちの研究には研究室の学生も深く関わっており,作物の栽培を数人のグループで担当してもらっています。学生には,スマート農業関連の技術開発だけに携わるのではなく,作物を栽培しながら「農業の現場で何が求められているのか」という視点をもって研究に取り組んでほしいです。学生たちが生産者とコミュニケーションを深め,農業に関わる研究が楽しいと言ってくれると私もうれしくなります。柔軟な発想でこれからの農業を考えてもらえればと願っています。
生産者から消費者まで,思いを共有するコミュニティの形成も重要に

基幹的農業従事者(農業を主な生業としている人)の数は,2005年以降減傾向にあり(※1),平均年齢は70歳に迫っています(※2)。国内の食料生産を継続していくには,今後ますますスマート農業技術が重要となるに違いありません。しかしながら,農業従事者が減少の一途をたどるなか,こうした技術だけで生産を上向きにさせるのは難しそうです。
国は今後目指すべき超スマート社会について「サイバー空間とフィジカル空間を高度に融合させたシステムにより,経済発展と社会的課題の解決を両立する人間中心の社会」と位置づけています(※3)。このような社会においては,ネットワークで結ばれた仮想空間を活用して生産者から消費者までが緊密に連携し,作物栽培から消費までのプロセス上のさまざまなデータや情報を共有し,集積する仕組みづくりが求められているように思います。生産者がどのような作物をどう栽培管理しているのか,消費者側にどんな食料需要があるのか,両者を最適につなぐためどのような流通システムが必要なのかなど,生産から流通,消費の全ての段階で人々が連携し,互いの意識や思いを共有できるコミュニティの形成が重視されるようになるでしょう。例えば,北海道の生産者が首都圏で暮らす人にとって身近に感じられるようなコミュニティがあれば,日本の食料生産は新たな一歩を踏み出し,農業は持続可能な産業になれると考えています。今は技術の進歩によってそのようなコミュニティづくりを実現できる環境が整ってきていますので,農学を学ぶ学生たちにもその一員として農業の未来に貢献してくれればと期待しています。
※1(参照)”基幹的農業従事者”, 令和3年度 食料・農業・農村の動向|農林水産省(2025-3)
https://www.maff.go.jp/j/wpaper/w_maff/r3/r3_h/trend/part1/chap1/c1_1_01.html※2(参照)”農業労働力に関する統計”, 農林水産基本データ集|農林水産省(2025-3)
https://www.maff.go.jp/j/tokei/sihyo/data/08.html※3(参照)“Society 5.0”, 科学技術政策|内閣府(2025-3)
https://www8.cao.go.jp/cstp/society5_0/index.htmlOther Interviews
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