「2027年度日本大学進学ガイド」
インタビュー

ユニバーサル・デザインが生む「選択肢」という優しさ。
生きづらさに耳を傾け,誰一人取り残さない社会を実現する

文理学部 社会福祉学科 教授

吉田 仁美

PROFILE

2020年日本大学文理学部社会福祉学科に着任。2025年に現職。障害者福祉とジェンダーをテーマに,「障害者ジェンダー統計」をはじめとし,障害統計の中にジェンダー視点を取り入れる手法で研究に取り組む。現在はユニバーサル・デザインを活用した技術の実装に向け研究を行う。

生きづらさを社会の側から捉え直す。障害×ジェンダーの視点から声なき声を聴く

私の研究テーマは,障害者福祉とジェンダーです。一見すると別々の領域に見えますが,どちらも共通しているのは「社会の側がつくっている生きづらさ」に光を当てるという点。制度や慣習,偏見,差別によって生まれる支援へのアクセスの不平等さは,障害や性別そのものではなく,社会の構造に原因があると考えています。社会構造を可視化し,変えていくことが私の研究の大きな目的です。

障害のある人が置かれている状況は実に多様です。にもかかわらず,「障害者」という属性でひとくくりにされ,一人ひとりの気持ちや暮らしの背景は重視されてきませんでした。私は,そうした「無いものとされてきたもの」に焦点を当てたいと考えています。

その一つが,「障害者ジェンダー統計」です。障害の有無と性別の両方の観点から賃金や年収を分析すると,一般の男性,一般の女性,障害のある男性,障害のある女性の順に年収が低下する傾向が明らかになります。このように,障害の有無にかかわらず,ジェンダーによって労働環境に格差が生じている実態は,ジェンダーの視点を導入することで初めて可視化されます。さらに,当事者へのインタビューを通じてどういった支援や制度を整備すれば本人の尊厳を保障できるのかを考えています。障害のある人も多様な価値観や背景を持っているということをもっと多くの人に知ってほしいと思います。







ユニバーサル・デザインで,あらゆる人に「選択肢」を

こうした研究と実践をつなぐ考え方の1つに,ユニバーサル・デザインがあります。これは,「特別な配慮が必要な人のため」ではなく,「最初からできるだけ多様な人が使いやすいようにデザインする」という考え方。例えば,階段しかない場所で移動に不便を感じる車椅子の方は,不便さを訴えなければ状況は変化しません。しかし,はじめから階段,スロープ,エレベーターといった複数の選択肢があれば,誰もが自分に合った方法を選べます。これがユニバーサル・デザインの本質だと思っています。

これまで実装に向け研究を進めてきたのは,放送字幕におけるユニバーサル・デザインです。もとは聴覚障害のある方のために始まったものですが,子育て中で音を出せない家庭,外国の方,作業しながらテレビを見る人など,さまざまな人にとって役立つツールになっています。一方で,高齢者には操作が難しかったり,文字のスピードが速かったりと,課題も残っています。文字量や表示速度などにはさらなる選択肢が必要だと考え,学生や一般の視聴者の意見も取り入れながら実証研究を進めてきました。

最終的なゴールは,障害のある方がわざわざ声を上げなくてもよい社会になること。障害のある方が過去に「毎日が戦場だ」と話してくれました。毎日誰かに文句を言い,戦わなければ社会が変わらない。しかし,その声が必ずしも前向きに受け止められるとは限りません。こうした衝突やストレスの蓄積は,はじめから選択肢を用意することで減少するはずです。多様な人が恩恵を受けられる仕組みを社会全体で整えていくことが,結果として多くの人の生きやすさにつながると考えています。

誰もがSOSを発信できる社会へ。自分なりのウェルビーイングを考える

私が考えるウェルビーイングな社会とは,「自分のことを自分で決められること(自己決定)」や「大切な人たちとのつながりがあること(関係性)」,「社会に参加し,何かに“貢献している”と感じられること(役割と承認)」が誰にとっても確保されている社会です。平均的な「幸せ」があるのではなく,一人ひとりの多様な幸せのかたちが尊重されている社会とも表現できます。人は1人で生きていけるわけではありません。だからこそ,つながりに頼ることができる環境を整える必要があります。困りごとがあるときに安心して相談できる環境があることやその障害を乗り越えるための支援にアクセスできる権利を持つこと。また,排除の構造やスティグマ(特定の属性に対し個人や社会が抱く差別・偏見のようなもの)が最小化され多様な在り方を認められることは,当たり前とは言えないのが現状です。社会福祉では,一人ひとりが「弱さ」や「助けが必要な時」に相談できる環境をつくっていきます。

この実現に向け,さまざまなテクノロジー技術が発明・導入されていくでしょう。このとき忘れてはいけないのは,誰が参加し誰が取り残されるのかを常に問い続ける視点です。どんなに進んだ技術でも,その利用にハードルがあればウェルビーイングは遠のき,取り残された人が「無いもの」とされてしまう。地域や現場,当事者の声をよく聞き,対話から支援の仕組みづくりを行うことが重要です。

これらはあくまで私が考えるウェルビーイングです。ウェルビーイングは非常に哲学的で,簡単に定義できるものではありません。かつては「病気がない」「経済的に豊か」といった分かりやすい指標がありましたが,「幸せ」の定義は一人ひとり異なっているはず。学生には,大学生活を通し多様な人々と関わることで,自分のウェルビーイングを見つけてほしいと思います。

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