「2027年度日本大学進学ガイド」
インタビュー
コンピュータシミュレーションで山火事の被害を最小限に。
風を多角的に分析し,生活のストレスを軽減する技術の実装を目指して
理工学部 土木工学科 准教授
長谷部 寛
PROFILE
2003年日本大学大学院理工学研究科土木工学専攻修了。テキサス大学オースティン校計算理工学研究所客員研究員などを経て2017年に現職。2024年より一般社団法人日本風工学会理事を務める。日本大学災害研究ソサイエティに立ち上げから参加し,現在も他領域と連携しながら風の知見を防災に活かす取り組みに励んでいる。
風という身近な自然現象から,人の暮らしを考える

風は常に私たちの生活の身近にある存在です。台風や強風災害のように私たちの生活に被害をもたらす側面がある一方で,風力発電など,暮らしを豊かにする役割も担っています。私の研究は,風を切り口に多角的なアプローチを行うもので,土木,建築,災害,エネルギー,スポーツなど研究分野は多岐にわたります。多面的な顔を持つ風を研究することで,人の暮らしに深く関わるテーマに取り組める点に大きな意義を感じています。
駿河台キャンパス(タワー・スコラ)の地下にある風を発生させる装置。風の動きを可視化することができる。私が風の研究に出会ったきっかけは,学生時代に所属した研究室でした。土木工学においては,道路や橋の建設,河川整備など,いわゆる「ものづくり」を中心とした研究が主流でしたが,風を理解することが安全対策や設計の面で重要であることに気づきました。例えば明石海峡大橋のような長大橋は,風の影響を強く受けます。そのため,風に対して安全な形をどうつくるかが設計の出発点になります。橋は常に風を受けて揺れ続ける構造物であり,風の影響を正確に見積もらなければ,強風時に危険な挙動を示し崩落する危険性があります。実際,海外では風による振動が原因で橋が落下した事例もあります。こうした背景から,橋の断面形状を工夫し,風に強い構造をつくる研究が長年にわたり積み重ねられてきました。私自身,当初は風を気象的な現象として捉えていましたが,研究を進める中で風が土木構造物の安全性を支える極めて重要な要素であることを実感するようになりました。
火災と風の関係を読み解き,人々の命を守る。日本大学が生んだつながりから,実践的な知見を獲得
現在,私の研究室の柱の一つとなっているのが,火災と風の関係,とりわけ山火事に関する研究です。山火事が発生した際に強い風が吹くと,火は想像以上の速さで燃え広がります。さらに,風向きが急に変わることで,消火活動のオペレーションが一瞬で崩れてしまうこともあります。過去には,風向の急変で消火活動にあたっていた消防士が命を落とす事例も報告されています。山間部の風は地形の影響を強く受けるため,非常に複雑な動きをします。そこで,風の専門家である私たちが風の動きを予測し,火がどのように燃え広がるかという知見を組み合わせることで,より精度の高い延焼予測が可能になると考えています。
このような火災と風の研究を進める上で,最初苦慮したのは実験施設です。私の研究室の実験室では風の実験は実施できますが,火災の実験はできません。そのような折,理工学部には消防などの救助活動の訓練施設に関する研究を行っている教員がおり,その教員に相談したことをきっかけに消防学校の訓練施設を実験に使用させていただけることになりました。日本国内では,火災風洞という火災時の風の動きを系統的に研究できる専門の大型実験施設は1か所しかなく,使用には大きなハードルがあります。そのため,自身の研究課題を実践できる環境が身近に整っていることは大きな強みであり,これも多様な研究活動を行う教員が在籍する日本大学ならではのつながりだと感じています。

消防学校の訓練施設では,実際に火を発生させ燃え広がる際の速度や変化を計測しています。また,コンピュータシミュレーションによる延焼予測も活用しています。こうした研究成果は,消火活動に役立てるだけでなく,避難指示の判断材料やハザードマップの作成などにも活用することができます。現在取り組んでいる火災と風の関係性に関するテーマは,災害から人命を守り,被害を最小限に抑えるための基盤となる研究だと考えています。
風の視点から暮らしやすさにアプローチ。災害時のストレスを軽減し,安心をつくる技術を社会へ

私は,人々がストレスなく安心して暮らせる社会こそが,ウェルビーイングな社会だと考えています。風に関連する災害によって構造物が壊れ,生活インフラが使えなくなることは,大きなストレスにつながります。自然を完全に制御することはできませんが,被害を極力減らし,日常を取り戻すまでの負担を小さくすることは可能です。そのための技術を開発することが,私たち研究者の使命だと感じています。
研究を進める上で大切にしているのが,成果を社会に実装する視点です。論文として発表するだけでなく,防災の現場で実際に使われ,仕組みづくりに活かされてこそ,研究の価値は生まれると考えています。風の研究は決して目立つ分野ではありませんが,誰かが取り組み続けなければ,風が及ぼす被害から社会を守ることはできません。だからこそ,風という幅広い視点から社会を支える研究を続け,ストレスの少ない暮らしにつながる技術を,今後も社会に還元していきたいと考えています。
日本大学には,多様な分野を専門とする教員が集まっています。その環境の中で,火災や防災だけでなく,スポーツ分野や宇宙分野など,さまざまな領域と連携した研究にも取り組んできました。時には学生の興味関心から他分野との重なりや応用の可能性に気づき,新たな研究につながることもあります。このように分野を横断して研究が広がっていく点も,風の研究の醍醐味です。そしてそれは,文理を問わず多様な知が集結する日本大学だからこそ実現できる,枠にとらわれない幅広い研究の形なのだと感じています。
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