「2026年度日本大学進学ガイド」
インタビュー
マンガを読みたい思いから始まる,
音声マンガ制作への挑戦
芸術学研究科文芸学専攻 1年
鈴木 海人(右)
筑波大学附属視覚特別支援学校高等部出身
芸術学研究科文芸学専攻 1年
齋藤 爽(左)
私立日々輝学園高等学校
(学年は取材時)

鈴木:私は生まれつき視覚に障がいがあり,マンガを読むことができませんでした。アニメなら音で理解できますが,原作の途中までしかアニメ化されていない時や,友人から「この作品のアニメはつまらないけれど,原作のマンガは面白い」という話を聞いた時には,マンガを読みたい気持ちが高まりました。このように視覚に障がいがある人でも楽しめるようにするため,大学の研究ではマンガのバリアフリー化に挑戦。その中で生まれたのが「マンガを音声化する」というアイディアです。しかし絵を文字に起こすには,目の見える人の力が必要です。そんな時,ゼミの教授から自主創造プロジェクトの存在を聞き,メンバーを募ることを決めました。
齋藤:メンバー集めは主にチャットツールで行われました。私は鈴木くんと同じゼミで,以前からマンガのバリアフリー化という研究の内容に興味を持っていました。学部時代に学んだ文章表現や演劇の力を生かして人の役に立ちたいという思いから,プロジェクトに参加することを決意。そのほかのメンバーは鈴木くんの盲学校時代の友人や,もともと所属していたサークルのメンバーなど多様なつながりで集まっています。それぞれがマンガのバリアフリー化に関心を持ち,主体的にプロジェクトに関わってきました。

ブラックジャックによろしく 佐藤秀峰
鈴木:マンガの音声化というアイディアは,映画や美術館を参考にしています。映画の内容をかみ砕いて解説するのとは異なり,あくまでも視覚情報をナレーションして,見えない・見えづらい人たちに画面の補足説明をするものです。マンガの音声化でも同様に,見たままの絵をそのまま文字に起こしたいと考えました。例えば,決闘のシーンで拳を握っているコマがあるとすると,その絵を読み取って「殴りかかろうとしている」とナレーションしたくなります。しかし私は,「目を尖らせて拳を握っている」という具体的な絵の説明が欲しいと感じます。説明を聞いて,「ああ,殴りかかろうとしているのね」と自分で理解したいからです。このように,絵を客観的に説明するということを,プロジェクトの最初のステップで行いました。目が見える人にしかできない作業のため,メンバーに頼る部分が大きかったです。
齋藤:音声化の題材には,無償で二次利用を許可している「ブラックジャックによろしく」というマンガを使用しています。絵を実際に文字に起こしてみて改めて認識したのは,コマとコマの切れ目の存在です。コマの間には描かれない時間があり,コマの中にはそれぞれ独立した世界があります。それを言葉でどう表現するかが難しい点でした。また,文字は読むよりも聞くほうが時間を要するため,不要な言葉を削る作業も重要です。最初は多めに文章を作成し,そこから引き算していく方法で進めました。
鈴木:「マンガを音声化する」というと,ノベライズをイメージする人もいるかもしれません。実際,初めは台本を小説のように作ってくれたメンバーもいました。しかし登場人物の感情描写がメインの音声を聞くと,解釈の幅が限定されすぎていることに気づきます。その点,マンガを実際に読むときには,登場人物が何を感じているのか,人それぞれ自分なりに解釈できるのが魅力の一つです。読者の自由性を守るために,読み取る余地のある原稿にする必要があり,その意味で,マンガの音声化はノベライズとは異なるものでした。

齋藤:音声化はアニメ化と異なっているとも感じます。マンガは静止画の連続です。例えばアクションマンガの必殺技のシーンで,刀を振り上げてオーラが出て,次のコマでは振り下ろされた後というように,コマが大きく動いているところがあります。このとき,実際の必殺技を出している最中の動作は必ずしも描かれているわけではなく,読み手の創造力に委ねられているエリアです。一方でマンガがアニメ化されたり,ドラマ化されたり,映画化されたりすると,そのシーンが映像として連続的に流れるので,ある意味では創造の余地がなくなります。そのためマンガの音声化にあたっては,メディアとしてマンガである必要があるので,マンガが小説やアニメにならないようにしたいと考えていました。それはつまり,マンガの持つ「考えることができる余白」を残すということです。
鈴木:実は以前から,視覚障がい者向けのマンガ朗読というものは存在しています。しかしそれらは,絵を文字で説明してはいるものの,どこでコマが区切れているかわからなかったり,説明に過不足があったりと,マンガの持つ特性が失われているように感じていました。さらにマンガ朗読は,視覚障がい者のみがアクセスできるサービスで配信されているため,目の見える人は聞くことができません。私たちのプロジェクトで作成する音声マンガは,「障がいに関係なく楽しめる」という点で差別化したいと考えています。
齋藤:今回のプロジェクトでは,音声化の手法をマニュアルに書き起こしました。「見えない当事者がどんなことを知りたいのか」や,「音声化にあたって台本に何が必要か」を示しています。ボランティアの方々がマンガを音声化する際に,参考にしてもらえる資料にできたらいいなと思っています。
鈴木:すでに台本が完成しているパートの音声化作業を行い,ナレーションはプロジェクトのメンバーが担当。録音も自分たちで行いました。さらなる展望として,修士論文としてマンガのバリアフリー化の研究を続けていきたいです。今回のプロジェクトで実際に制作した音声を用いることで,音声のどこが理解しやすく,どこが理解しづらいか,さらなる調査や研究につなげられると考えています。世の中にあるたくさんのマンガを一人でも多くの人が楽しめるように。音声マンガの研究を通じて,マンガもバリアフリー化する対象であることを広めていけたらうれしいです。
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