「2027年度日本大学進学ガイド」
インタビュー
ケガや疲れを科学で解決する。
痛みのない毎日と,ずっと動ける体を目指して
スポーツ科学部 競技スポーツ学科 教授
布袋屋 浩
PROFILE
1996年3月,日本大学大学院医学研究科博士課程を修了。日本大学病院や本庄総合病院において整形外科医として35年以上の臨床経験を積む。2016年に日本大学スポーツ科学部教授,2023年に同大学大学院スポーツ科学研究科教授に就任し,現在に至る。JSPO公認スポーツドクターとしての知見を活かし,トップアスリートだけでなく青少年から高齢者まで幅広い層の身体の悩みに向き合い続けている。
「ケガ」と「故障」を見極め,最高のコンディションをつくる

スポーツを続けていると,「痛み」や「違和感」に直面することがあります。しかし,その原因はすべて同じではありません。スポーツ医学では「ケガ」と「故障」を区別して対応します。
•ケガ:一度の衝撃で起こる捻挫などは,車に例えると「交通事故」のようなものです。患部が治癒(修理完了)すれば,問題なく復帰できます。
•故障:一方,負荷の蓄積や誤ったフォームの反復で起こる疲労骨折・野球肘は,エンジンの「オーバーヒート」に例えられます。この場合は単に患部の治療(修理)だけでは不十分で,練習方法や動作のクセなど根本的な原因を改善しないと必ず再発します。
このように,同じ痛みや症状でも原因が異なれば,対応や治療のプロセスは大きく変わります。特にアスリートは簡単に休めないため,原因を早急に見極め,適切なケアを行うことが重要です。
私たちは競技ごとに発生しやすいケガや故障の傾向を分析し,安全で効率的なフォームの確立を通して,痛みなく動ける身体づくりを支えています。
感覚ではなく「データ」で考える

スポーツ医学では,トップアスリートの強さの秘訣を感覚や経験だけに頼るのではなく,医科学データによって数値化・可視化し,そのメカニズムを解明します。例えば,剛速球を投げる名投手の動きや体の仕組みを分析すると,握力や腕,肩の筋力はさほど重要ではなく,下半身の強さや正しい身体の使い方(運動連鎖)が重要であることがわかります。このような科学的データという根拠(エビデンス)に基づけば,アスリートがどこを鍛えるべきか,どんなフォームが安全か,なぜ痛みが出たのかなどが明確になります。「科学的根拠に基づいた学問」それがスポーツ医学の大きな特徴です。
治療機器を応用し,コンディショニングをサポートする
低反応レベルレーザー治療器私の研究室では,ケガや故障の評価や治療,スキルアップの支援などに加え,治療機器をコンディショニングに応用する研究も行っています。
その一つが低反応レベルレーザー治療です。これは低出力レーザー光の生物学的活性化作用を利用した物理療法で,疼痛緩和・血流改善・創傷治癒促進などの効果が立証されており,リハビリ領域で広く用いられます。私たちはこの技術を治療だけでなく,柔軟性向上,疲労回復,パフォーマンス維持といったアスリートのリカバリーに応用する研究を進めています。例えば,陸上競技の予選で全力を出し切ったあとにレーザー照射を行うことで,決勝でも高いパフォーマンスを発揮できる可能性があります。レーザー照射は痛みや副作用がなく,アンチ・ドーピング規則にも抵触しないため,アスリートを支える非常に有効なツールとなり得ます。実際に,30秒間の反復横跳びを2回行った後にレーザー照射を行い,再び反復横跳びを実施したところ,初回と同等以上の記録が得られたというデータもあります。現在は,どの部位にどれだけ照射するのが最も効率的かについて,エビデンスの構築を進めています。
このほかにも,長距離走選手のレース中における乳酸値や血糖値の変化を追跡し,コンディションを整える研究や,疲労とパフォーマンスの関連を定量的に評価し,戦略を提案する取り組みも行っています。
競技者も一般の人も,自由に身体を動かせる社会を目指して

スポーツ医学が役立つのはトップアスリートだけではありません。部活動に励む学生,趣味でスポーツを楽しむ人,健康のために運動する大人,すべての人に関係しています。
低反応レベルレーザー治療は,多忙な現代人の疲労回復や健康維持への活用も期待されています。このように,スポーツ医学は人々の「ウェルビーイング(心身が満たされた状態)」を実現する上で,非常に重要な役割を担っています。
私の臨床現場でも,研究で得た知見が大いに活かされています。例えば90歳で仲間と共に毎週テニスを楽しまれている患者さんたちには,いつまでも青空の下でラケットを振り続けられるよう,「身体への負担が少ないフォーム」や「足腰の強化法」をお伝えしています。これらもアスリートの研究から得た知見に基づくものです。
スポーツや医療の現場において,私のサポートの根底にあるのは,「相手の立場に立って考え,共感し,寄り添う」という精神です。アスリートや患者さんが何を求め,何に不安を感じているのか。その声に耳を傾け,科学的根拠に基づいた最善の解決策を共に探るプロセスは,スポーツや医療だけでなく,ビジネスや家庭などあらゆる場面で良好な人間関係を築く要となります。スポーツ医学を学ぶと,体のしくみを科学的に考える力,データから答えを見つける力,相手の立場で考える力,人の健康を支える力などが身に付くので,将来は,アスレティックトレーナー,スポーツ指導者,医療系の仕事,健康関連ビジネス,研究者など,多岐にわたる分野で活躍する道へとつながります。
スポーツ医学の目的は「勝つこと」だけではありません。痛みのない生活,安心して身体を動かせる毎日,何歳になっても運動を楽しめる社会を実現することです。私たちは,スポーツ医学の知見を基に,誰もが活動的で前向きに過ごせる未来の実現を目指しています。
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