コンピューターゲームを「スポーツ」に育てる【後編】

学生の主体性、高大連携でeスポーツを盛り上げる(生産工学部)

学び・教育
2022年05月13日

4月12日にお披露目となった生産工学部のeスポーツ拠点「eSports Studio」。昨年4月に誕生した「生産⼯学部eスポーツ研究会」のメンバーが、設備の調整の様子や体験会のお知らせをSNSで日々発信し、お披露目から1週間で会員数は倍以上の80人に増えたという。

後編ではお披露目会の第2部で行われたデモンストレーションの様子と、学生の活動から見えるeスポーツの今後について迫る。

eスポーツ気運の高まりが授業・研究にも生きる

「モノづくり」をメインに、工学の専門知識に加えて、経営やマネジメント、デザインと多面的な学びを進めている9学科を設置する生産工学部。

数理情報⼯学科では「魅⼒的な表現で、役に⽴つ情報を、必要とする人に提供する」ための情報の分析・処理・表現の全般に関するメディアデザイン技術が習得できる。

昨年、授業で大学院生が企画したeスポーツのオンライン大会ではアンケートを実施。学生約200人が回答し、eスポーツに対する興味・関心の項目で「興味がある」という回答が8割に達した。卒業研究の中には、ゲームプログラミングソフトを使いバーチャル空間を構築することで、コロナ禍で開催できないイベントをバーチャル空間で再現し、多くの人たちと臨場感を共有することを目的としたものもある。

eSports Studioが完成したことで興味・関心の枠を超え、授業や研究へのフィードバックが期待されている。

スタジオ立ち上げには学生たちも参画

デモンストレーションの様子

デモンストレーションの様子

お披露目会の第2部で行われたデモンストレーション。生産⼯学部eスポーツ研究会のメンバー10人がFPSゲーム「VALORANT」をプレーした。5人一組で2チームによる対戦。ヘッドセットを通してチーム間でコミュニケーションを取り作戦を練りながら戦う。FPSゲームとはファーストパーソン・シューティングゲームの略称。シューティングゲームの一種で、操作するキャラクター視点(First-person)でプレーする。

実況ブースの様子(写真手前が藤井さん)

実況ブースの様子(写真手前が藤井さん)

「生産⼯学部eスポーツ研究会」で会長を務める藤井雄太さん(土木工学科3年)は、観戦エリアに設けられたブースからデモンストレーションの実況を務めた。実況とは、対戦の様子を俯瞰できる画面を見ながら、視聴者に戦略の分析や盛り上がるポイントを解説する役目だ。

藤井さんはサークル立ち上げ後の昨夏に途中加入。高校時代からFPSゲームに触れていたこともあり、日々の活動を見ていた髙橋亜佑美専任講師が今年からサークルをまとめる立場を藤井さんに任命した。

「彼はパソコンの知識だけでなくeスポーツに関する知識を持っていて、私や後輩にも分け隔てなく分かりやすく教えてくれます。オンラインでは、彼からメンバーに声を掛けてみんなでプレイしているところをよく目にしていたので、彼ならこのサークルを引っ張れると感じました」(髙橋専任講師)

そんな藤井さんは今回、プレーヤー側ではなく実況の役回りを選んだのは、髙橋専任講師の言葉にもある、分け隔てなく接する優しさと仲間への思いやりだった。

「サークルの会員の中には自宅にパソコンを持っていない人もいます。そういう人にもプレーしてほしい。そして次の世代にもつなげていきたい。そのためになら私が一肌脱ぎます。私は小学生の頃にゲームをさせてもらえなかった。その反動もあってか、今ではスペックの高いパソコンを自作しています」

サークル会長・藤井雄太さん(土木工学科3年/右)と副会長・谷澤俊祐さん(環境安全工学科3年/左)

サークル会長・藤井雄太さん(土木工学科3年/右)と副会長・谷澤俊祐さん(環境安全工学科3年/左)

eSports Studioの開設で、これからは同じ環境下で仲間と活動できることを喜ぶ。そのための労を惜しまず、eSports Studioに機材が設置されると、自身のスキルを生かして配線作業を手伝うために、副会長の谷澤俊祐さん(環境安全工学科3年)と約1週間毎日通い準備を進めた。

「機材をいじるのが好きなので、僕と副会長の谷澤でほとんど配線しました」

設計した齋藤由和氏もあいさつの中で「この計画は多くの学生の協力で達成しました。ほこりまみれになりながら作業していただき、ありがとうございました」と感謝していた。

今後の活動について藤井さんは「今目標にしているのが、オール日大でeスポーツの大会を開催することです。大学全体を巻き込んでいきたい。あとは大会に出場して良い成績を上げたいです」と抱負を語った。

高大連携や文化祭イベントの構想も

髙橋専任講師はこれからの展開について「文化祭で他学部はもちろん、付属の中高を巻き込んだオール日大でのイベントを開催したい」と構想を明らかにした。

そのきっかけとなったのは、ICT教育に力を入れ、5G通信環境を整備した日本大学第三高等学校・第三中学校。5Gを活用した取り組みの相談が生産工学部にあり、高大連携プロジェクトを計画している。その一環として、文化祭で5G環境下におけるeスポーツイベントの開催を検討。

今後、生産工学部を拠点に大学、付属校も巻き込みeスポーツの発展を考えている。

eスポーツの拠点ができたことで、学生の興味・関心だけではなく、教育としての有効性が求められる。eSports Studioがeスポーツの「ゲーム」のイメージを打破し、「スポーツ」の競技性を手にすることで、新たなシナジーが生産工学部から生まれようとしている。