西洋法制史コレクションの調査と保存展

法学部図書館

取り組み・活動
2022年04月07日

「西洋法制史コレクションの調査と保存展」(千代田区後援)が令和4年1月13日から3月9日まで、東京・神田三崎町の法学部図書館で開催され、学外97人を含む多くの観覧者が訪れた。法学部では平成26年に「法学部創設125周年記念特別展示会」を開催。図録作成を機に古典籍のデータ整備・修復作業の事業計画を進めることとなり、130周年にコレクションの紹介・作業の中間報告を兼ねて展示会を企画。今回の保存展開催に至った。

修復の様子を動画で紹介

修復の様子を動画で紹介

法学部図書館は全面ガラス張りの近代的な建物で、最新の専門書をはじめとする約50万冊の蔵書を誇る。まさに知の宝庫だ。

蔵書の中には、何百年もの時を越え、今もなお研究者たちの知的欲求を満たそうと鎮座するコレクションが多数ある。中でもヨーロッパ各国の主要なローマ法、カノン法学者の著作を含む約2,000冊を中心とした、15世紀から19世紀までの「西洋法制史コレクション」は国内では他に例を見ないものとして、日本を代表する文化財に位置付けられている。これらの貴重な書籍を後世に残し、今後の閲覧、研究などへの利用を確保するために調査と保存作業が必要となる。

本展示会では、修復作業の様子を動画で紹介するとともに、普段目にすることが難しい貴重な書籍を展示。コロナ禍のため入館を法学部生のみに制限している中、本展示会の観覧に限り、千代田区民のほか、学外者の入館を認めた。

貴重な書籍を展示

貴重な書籍を展示

平成28年度から令和4年2月末までの間に、インキュナブラ(金属活字を用いて印刷された、印刷年が西暦1500年末までのもの)10点、貴重書約3,340点、特別書約2,500冊の調査を終え、学術的価値の高い資料770冊のうち390冊の保存作業を完了した。

保存作業を手掛けるのは製本家・書籍修復家の岡本幸治氏をはじめとする数人の専門スタッフ。フランス・パリで「ルリユール」を学び、多くの貴重な資料の修復保存に携わってきた岡本氏に伺った。

修復作業中の岡本氏

修復作業中の岡本氏

――「ルリユール」について教えてください

「『ルリユール』はフランス語で『製本』のこと。フランスでは機械生産の製本とは別に、専門のデザイナーと高度に訓練された職人によって工芸的な製本作品が制作され、コレクションの対象になっています。中世から積み重ねられた手作りの製本技術が継承され、歴史的な製本構造変遷への知識が共有されて書籍の修復にも役立てられています。日本では、栃折久美子『モロッコ革の本』(1976年)で知られるようになり、主として工芸的なコンセプトと完成度で作られた製本のことを『ルリユール』と言います」

――保存作業をする上での「こだわり」は?

「治しすぎないことです。過去に修理された本に出合うと、たいていの場合は丈夫過ぎる材料と接着剤を使って治しています。それで釣り合いのとれていた全体のバランスが崩れて、別の場所に負荷がかかって傷みが発生します。強すぎる接着剤は、次の修理の時に元の材料を傷めずに剥がすことが出来ません。保存作業の目的は本を『安全に利用できる』状態に回復することなので、修理跡が目立っても必要以上に外観にこだわらないようにしています」

刷毛を使ってホコリを除去

刷毛を使ってホコリを除去

――法学部図書館での修復作業で、大変だったことや興味深かったことなど、エピソードについて

「図書館内の保存作業室では、かならずしも必要な材料や道具をすべてそろえられるわけではありません。一定の制約の中で最大限に出来ることを探すようにしています。法学部図書館蔵書の特徴は、実用的な製本が多いということです。耐用性のある『羊皮紙』という材料で製本された本がとても多いのです。鞣し革を使った歴史的製本とは異なって、羊皮紙の製本では背の上下端に『はなぎれ』を編みつけ、その芯になる特別な革ひもを表紙ボードに開けた穴に通して中身と表紙とを接続するのですが、その革ひもが作業室には無くて治せる羊皮紙の本が限られていました。ある時保存作業室で普段から使っている糊を作るデンプンの粉の袋を縛っていた紙のひもが目に入りました。薄い紙を縒って作ってある普通の梱包用のひもなのですが、縒ってある丈夫さとひもの端の縒りをほぐすことのできる便利さに気が付きました。質感も羊皮紙とよく馴染んで、使ってみたらとても良い代替材料だと判りました。身近にある材料を応用することで、治せる本の範囲を広げることができました。

実物を見ながら調査をすすめる

実物を見ながら調査をすすめる

古い本にはさまざまなものが挟まれています。大切な手紙や書類、食べ物のかけら、草の葉、鳥の羽根、虫の死骸など、本が置かれていた環境や時間の流れが伝わってきます。印刷されたページをバラバラにして一枚ごとに白紙を挿入して読みながらメモを自由に書けるように製本し直した本が何冊かありました。研究者の意気込みが伝わってくると共に、このような改装が簡単に出来るヨーロッパの書物文化の違いを感じます」

<来場者のコメント>
・本の修復を学んでいて、岡本先生の講座(ルリユール工房)も受講している。大切なモノを遺すための力になりたい。

・もとの表紙や素材を生かして修理する苦労を感じた。

・調査の詳細な紹介があるとよかった。

・展示の続篇をみたい。