日本大学は、あらゆる学問領域をカバーする16学部87学科を擁する総合大学。幅広い学びのフィールドが広がっており、『自分が学びたいことをしっかりと学びたい』、意欲のある受験生の期待に応えられる環境が整っている。
今回の取材先は、2016年4月、日本ではじめてとなる社会科学系の『危機管理学部』として新設された日本大学危機管理学部。座学(講義)と実技(フィールドワーク)を組み合わせ、あらゆる危機(hazard)に対応するための危機管理の在り方「オールハザード・アプローチ」(All Hazard Approach)教育プログラムを展開する同学部で『自分が学びたいことをしっかりと学びたい』を実践する2人を紹介する。
また、学部創設期から教鞭をとっている山下博之准教授(担当:災害対策論,消防救急など)に危機管理学部の教員として、『学びたいことを学びたい』学生に対してどのような取り組みを行っているのか話を聞いた。
危機管理学部 山下博之 准教授(担当:災害対策論、消防救急、事業継続論(BCP・BCM)など)
「本学の危機管理学部は、ひとことで言うと、いろいろな危機に対する備え方や対応の仕方を学術的、実践的な観点から研究していく学部です。しかし、世の中のあらゆる危機となると対象が広がりすぎてしまうため、現代社会が直面している危機に則した4つの領域に特化し展開しています。自然災害や大規模事故の対策や避難、救急、復興などを学ぶ『災害マネジメント』、犯罪や事故など主に人に起因する危機に対処する法制度や政策などを学ぶ『パブリックセキュリティ』、戦争やテロリズム、環境問題など国境を越える脅威に焦点を当てた『グローバルセキュリティ』、そして情報システムを巡るさまざまなリスクを研究の対象とする『情報セキュリティ』です。
4つの領域は、1年次の後半に主専攻と副専攻を選択し、2年次から自分の選んだ領域を専門的に学んでいくことになります。1年次の必修科目である『危機管理学概論』、『リスクマネジメント』などいくつかの授業で4つの領域についてそれぞれ触れていく機会がありますので、『自分の学びたいことをしっかりと学ぶこと』について考えることができるのではないかと思います。」
危機管理学部 3年(2023年3月取材時)
「子供のころからパトカーや消防車等の緊急車両が好きで、地域で行われる防災・防犯のイベントによく参加していました。受験生の時は、自分の学力でいけそうな進学先候補の中から大学を選ぼうと思っていたのですが、ある日父親が『日本大学に危機管理学部というのがあるらしいぞ』とパンフレットを持ってきてくれたんです。父は私が緊急車両が好きだというのを知っていたので、持ってきてくれたと思うのですが、それをみて『自分が学びたいことはまさにコレだ!!』と強く思い、進学するきっかけになりました。
また、漠然とですが警察官になる夢を持っていたので、その夢を叶えるのに最適な学部だとも思いましたし、元警察関係者の教授陣も多く在籍しているので、ここであれば将来の夢のために必要な知識を学び経験を積む事ができると思いました。」
「入学する前は、危機管理=防災・防犯だと思っていたのですが、入学してみると危機管理を学ぶためには、様々なことを学ぶ必要があることがわかりました。特に法律ですね。法律を学ぶには法学部、という風に思っていた節があったので・・・。いい意味でギャップがありました。危機管理学の根底には常に法律があり、それに基づいて成立しているのだということがわかりました。
入学してから印象に残っている授業は1年次の必修科目『リスクコミュニケーション論』です。危機管理の根本的な知識を学ぶ科目で、『危機管理は国民の意見を聞いて行うものであり、民主主義的なアプローチが必要である』ということを知ることができたのは貴重な経験でした。例えば避難でも防犯でも、人権と危機管理のバランスが重要だと分かり、その知識はどの科目にも共通していると感じました。」
「2年生になると主専攻を選ぶのですが、私は『パブリックセキュリティ』領域を選びました。県警の本部長経験のある教授から、職務質問の心得など実務的な知識を学ぶことができる科目があり、入学前から求めていた環境で学ぶことができて満足しています。
警察官志望というのもあって防災・防犯を中心に学んでいくつもりでしたが、最近になってロシアのウクライナ侵攻をきっかけに戦争に対する意識が変わり、『グローバルセキュリティ』領域にも関心を抱くようになりました。そのなかで『インテリジェンス論』という授業では、各国が秘密裏にホットラインを作って戦争に陥らないようにしているなど、私の想像を超えるような情報を知って驚きつつも、国際情勢が混とんとしている中でどうすればいいのか、自分の意見が形成され、学ぶ意義も感じました。危機管理学というものが、現在起きている社会的課題とリンクすることが多いので、いろいろな方向に知識が広がっていって、それがすぐに活かせるというのがとても楽しいです。」
危機管理学部 3年(2023年3月取材時)
「私は日本大学付属の中学・高校に通っていたので、危機管理学部のことはパンフレットなどで目にしていました。もともと生物が好きで理系だったので、大学では自然に関すること、これから日本で需要がありそうなこと、そしてまだあまり開拓されていない分野を学びたいと思っていました。最終的に進学先を危機管理学部に決定し、学際的複合的学問領域で、既存の学問系統では学ぶことができない危機管理学は、大学でなにか新しいことを学びたいと思っていた私にピッタリでした。
入学前から自然災害について学びたいと考えていたので、2年生になった時に選ぶ主専攻は、危機管理学の4つの領域の中から自然災害や大規模事故の対策や避難、救急、復興などを学ぶ『災害マネジメント』を選択しようと決めていました。」
「印象に残っているのは『消防救急論』という授業です。その授業をきっかけに自然災害に対応するのは主に消防の組織というのを知り、また、自然災害は地球で暮らしていく上では避けられないものなので、今後の災害への向き合い方について考えるきっかけになりました。
ゼミでは地震火災の研究に取り組んでいます。阪神淡路大震災でも地震火災の被害が多かったということで、フィールドワークでは神戸にも行きました。市役所の方にヒアリング調査をしたり、防災学習施設を見学したりと、とてもいい経験になりました。やはり危機管理を学ぶには講義だけでなく、フィールドワークが重要だと思いました。座学(講義)だけでなく実技(フィールドワーク)も行うような学びの選択肢があるのはありがたいですし楽しいです。自信にもなりました。」
「入学当初は将来について漠然としか考えていませんでしたが、入学し授業を受ける中で防災教育に興味がわき、特に『消防救急論』を受講してからは、『防災について広く知ってもらうためには何をすべきか』ということが私の学びのテーマになりました。消防士を目指しトレーニングを積んだこともありますが、消防はどうしても消火や救助などの警防業務がメインになるため、自分のテーマから逸れてしまうと気づき、『防災とどう向き合うか』ということに意識がシフトしていきました。入学前には自分では思ってもみなかった未来が見えてきていますし、視野が広がってきています。まだ明確な答えは見つかっていませんが、現在消防団に入って活動をしていますし、まずは自分の大切な人や周りの人に防災を知ってもらうところから始めていこうと考えています。
就職は防災とは直接関係がない民間企業を選びましたが、大学で学んだ知見はどこでも役に立つと思っています。もっと学びたい思いもあったので大学院への進学も考えたほど、危機管理や防災は、この先も関わることを諦めたくない分野です。どんな形でもずっと携わり続けていきたいと思っています。」
「私は『災害マネジメント』領域を主に担当していますが、ゼミで昨年度、世田谷区の『地域交流ラボ』という事業とコラボレーションしながら共同研究を行いました。地域住民の方々が直面している防災上の問題について、近隣の大学の学生たちと一緒に解決策を提案していくという取り組みで、私のゼミでは防災訓練や、首都直下型地震が起こった際に地震火災が発生する可能性がある地域ということで、地震火災の対応策などを、住民や自治体の方々とコミュニケーションを取りながら研究していきました。
また、危機管理学部は新しい学部ですが、いろいろな分野に卒業生がいるというのも歴史ある日本大学ならではの強みです。例えば、静岡県熱海市で町おこしに取り組んでいるOBとコラボレーションをしながらゼミの研究をしたいと企画しています。今後は、学生たちがいろんな場所に出かけ現場で学びを得るフィールドワークを、学部全体として強化していきたいと思っているところです。
危機管理というと少々物騒に聞こえてしまい、硬いイメージを抱く人もいるかもしれませんが、危機は私たちの日常生活において、とても身近なものです。至るところに危機があると言っても過言ではありません。そこに日頃から注意を払うことがなぜ必要か、どう対策をすればいいのか。そういったことを学ぶ危機管理学は、自分自身や自分の周りの人々の安心・安全な暮らしを守ることにつながっていく大切な学問であることを知っていただけるのではないかと思っています。」
危機管理学部がある三軒茶屋キャンパス
三軒茶屋キャンパス1号館前
災害時には、災害用トイレになるマンホール
災害時には、炊き出し用かまどとして利用できるベンチ