SNSのデマ情報が災害時の避難行動にどんな影響を与えるか、研究論文が国際会議ICICIC2021にて受賞

生産工学部マネジメント工学科 大前佑斗 助教、柿本陽平 助手

研究
2021年12月08日

生産工学部マネジメント工学科の大前佑斗助教と柿本陽平助手は、SNSのデマ情報が災害避難時の避難行動にどのような影響を及ぼすかを、人工知能を使ってシミュレーションした。その研究論文が、9月15、16日に行われたアジア圏の国際会議ICICIC2021において優秀賞にあたるBest Presentation Awardを受賞した。

ICICICは「International Conference on Innovative Computing, Information and Control 」(革新的な計算技術および情報と制御に関する国際会議)の略称で、毎年アジア圏の各都市で開催されており今年が15回目。昨年はコロナ禍で中止となり、今年はオンラインで開催された。

右端の図の一つひとつの点が避難者を表わしている

右端の図の一つひとつの点が避難者を表わしている

今回の研究では、以下のような条件で災害時の避難状況をシミュレーションした。

仮想空間に避難者を5000人置き、25の避難所を設定。移動は一定時間に1ステップずつ、つまりそれぞれの避難者が同じ速さで移動するという条件を与えた。

その上でTwitterなどのSNSで(1)正しい情報だけを発信する、(2)デマの情報も含んで発信する、(3)デマ情報に対するファクトチェックの情報も含んで発信する、の3つのケースで、全員が避難所に着くまでの移動時間や、避難所の収容人数のばらつきがどう違ってくるかを調べた。

デマ情報としては、例えば「この避難所で炊き出しを行っている」という、そこに行きたくなるような情報を流した。

ファクトチェックではそこに着いた避難者が、「実際は炊き出しを行っていない」という正しい情報をSNSで発信した。その情報を得た避難者は目標とする避難所を変更し進路を変える、というようなことが起きてくる。

結果は、避難者の平均移動時間の比較では、(1)の正しい情報だけの時に比べ、(2)のデマ情報が発信された場合は、少しだけ短くなった。それに対して(3)のファクトチェックを行う場合は、かなり大きく時間が伸びた。

避難所の収容人数については(1)に比べ、(3)は人数にやや偏りが出て、(2)は非常に大きく偏りが出た。「炊き出しをしている」というようなデマ情報が出た避難所に多くの避難者が集まってしまった結果である。

正しい情報を知った人は発信した方がいい

「誤情報が発信されると、移動時間はやや短くなるが、収容人数のバランスが取れなくなる。そこにファクトチェックを入れればバランスが改善されるけれども、一方で避難時間が長くなるというデメリットもあった、というのが今回の結果です。そもそも誤情報の発信をなくすことが大事だし、ファクトチェックがあった方がいいという結論になると思います」
と柿本助手は話す。

つまりSNSの情報は常にファクトチェックをした方がいいし、避難所に着いた人が、「炊き出しをしている」という情報が間違いだと気付いたらSNSで正しい情報を発信した方が、人々がバランス良く避難することにつながるということだ。

大前助教

大前助教は緊急事態宣言解除のタイミングのシミュレーションでも、学会の賞を受賞している

「もちろんデマ情報がないのが一番いいです。昔は主に公的な情報に頼って動いていましたし、15年前ぐらいなら携帯電話で知り合いからのメールを頼りにしたぐらいだったと思います。その当時は間違った情報は非常に拡散されにくい状態にあったので、デマがあってもそれほど大きな影響はなかったのですが、今はTwitter、Instagram、FacebookなどのSNSで、誰でも情報を発信して誰でも見られるような状況になり、よく検証されていない情報も発信されます。情報がすぐ伝わるというメリットもあるのですが、間違った情報も広まりやすいというデメリットもあると思われます。そういう問題が本当にあるのか、それを改善するためにどうするのかを調べるために行ったのが、今回のシミュレーションです」
と大前助教は研究の動機を語る。

柿本助手

柿本助手もコロナ禍での問題に取り組んでいる

大前助教は2019年に本学に就任。人工知能を使ってさまざまな研究やシミュレーションを行っている。新型コロナウイルス感染拡大以降は、緊急事態宣言を解除するタイミングで感染者数や経済状況がどうなるか、ワクチンをどれだけ打てば感染者がどれだけ増えるか、人流によって感染状況がどう変わるかといった数理的モデルを提示してきた。

柿本助手は2021年4月に本学に就任したばかりだが、コロナ禍においてどういう条件で飲食店を運用すれば感染リスクを減らしつつ利益を上げることができるか、という研究に取り組んでいる。2人とも、コロナ禍で今まさに社会が必要としているテーマに向き合っている。

今回の受賞についての感想を大前助教はこう話す。

「もちろんうれしいですが、決して難しいことをやっているわけではなく、やはり最近の問題にフォーカスを当てているという点が、受賞の理由かと思います。新しいこと、誰もやっていないことをやるのが大事だと改めて感じています」

今回受賞したテーマについて今後は、「この避難所は狭い」とか「布団が少ない」といったネガティブな情報を流した場合など、さらに現実に近い想定でシミュレーションを行って、実際に災害が起きたときに多少でも被害が少なくなるのに役立つ情報を公表していきたいと考えているそうだ。

<プロフィール>
生産工学部
大前佑斗(おおまえ・ゆうと)助教

釧路工業高等専門学校電気工学科卒業、長岡技術科学大学大学院工学研究科博士後期課程修了。国立スポーツ科学センター研究員、東京工業高等専門学校助教を経て、2019年より本学生産工学部マネジメント工学科助教を務める。

柿本陽平(かきもと・ようへい)助手
長岡技術科学大学卒業、長岡技術科学大学大学院修士課程修了。関東学院大学研究助手を経て2021年より本学生産工学部マネジメント工学科助手を務める。