文武両道を突き進む準硬式野球部 【前編】
硬式でもない、軟式でもない、準硬式野球というスポーツがある。競技として硬式と軟式の良さを併せ持つだけでなく、最も特徴的なのは、学業との両立をモットーに、試合も学生主体で行われるなど、学生たちの自主性や人間性を高めることを掲げて運営されていることだ。スポーツマンとして、学生として、そして社会人としての素養を高めることができる準硬式野球という世界に迫る。
1949年に創部された歴史のある本学準硬式野球部は、全日本優勝5回、準優勝6回を誇るだけではなく、年に2回行われるリーグ戦でも、春と秋を合わせて31回もの優勝を誇る伝統と格式ある部だ。
スポーツでの「日本一」を目標に掲げつつ、学業や自分たちの大学生活も決しておろそかにしないことが、部の大事な基盤となっている。
それは部のホームページを見てもよく分かる。年間スケジュールを見ると、トレーニング期間やリーグ戦の期間と並んで、前期後期のテスト期間の文字が記載されている。部の活動と学業が同列で捉えられているのである。
実は本学だけではなく、東都大学準硬式野球連盟としても、加盟大学のテスト期間と試合期間が重複しないようにスケジューリングがなされている。つまり、練習と学業が一体となって、初めて一つのスポーツとして成り立っているのが準硬式野球なのである。
野球を通して人間性や社会性を身に付けてほしいと米﨑監督
「野球がうまくて試合に出る、というのは運動能力があればできます。でも、大学を卒業して社会に出たら、運動能力自体はあまり役に立ちませんよね。それよりも人間性だったり社会性だったり、自主性の方が社会に出たら必要になってくる。そういうことを、野球を通して学んでほしい」
そう話すのが、文武両道を行く本学準硬式野球部を率いる米﨑寛監督である。米﨑監督も、毎日選手たちの練習を見られるわけではない。平日は仕事をしつつ、休日に指導を行っている状態だ。そのため、基本的なトレーニングはほぼ学生と杉山智広ヘッドコーチに任せている。
「ですから、特に自主性は重んじています。高校生の時のように、大人の指示だけで動くというのは卒業していただいて。自分で考えて、自分で行動すること。それを大事にするように指導しています」
指導する立場になると、ああした方が良い、こうした方が効率が良い、と細かく指導をしてしまいやすい。それをグッとこらえ、辛抱して口を出さないというのも、選手たちの自主性を高めるために必要だと米崎監督は語る。
野球も本気で、そして勉強も私生活も本気で取り組むからこそ、人として大きく成長できる。それは受動的にではなく、全て能動的に自分たちで考え、自らが行動することで得られる大きな成果である。
自らで考えて行動することで人として成長できる
米﨑監督は何事も本気だから得られるものがあると選手に伝え続ける
「誤解はしてほしくないのですが、僕は勝利至上主義。勝つことが全て、という意味ではなく、“本気”で勝利を目指さないと得られないものもあると思うのです。本気で勝ちたいから負けたら悔しい。悔しいから次はこうしよう、あれをやってみようと、自らで創意工夫をする。それで勝てたなら、うれしいという達成感を味わえる。それもこれも、全て本気で取り組むからこそ感じられるものですから」
スポーツである以上、勝利にこだわり、そこに向かって本気で取り組む。それは学業だけでは得られない貴重な経験だ。今年、チームの主将を務める関口淳基選手(法3年)もそう話す。
「日本一を目指せるという経験は、そうそうできないことだと思います。それを本気で目指すから面白いし、楽しい。もちろん野球だけじゃなくて、勉強は大変ですけど、大学生活は充実しています」
自主性を重んじつつ、本気で取り組むことの大切さを伝え続ける米﨑監督。指導者として技術を教えることよりも、人としての成長を促せるような指導を心掛けている。
「僕は選手たちに、何においても挑戦をしてほしいと思っています。自分の殻を破らない、破れないというのは、もったいない。せっかく本気でチャレンジできる準硬式野球という場があるわけですから、自分の限界に挑んで、本気で挑戦していってほしい。そういう本気の挑戦を積み重ねることで、人として成長していくのだと思います」
人として成長していくことでプレーも、チームとしての成績も変わってくると言う。その大きな例が、昨年のコロナ禍で全日本大会が中止となったことで開催された「KANTO JUNKO SUMMER CHALLENGE CUP」での優勝だ。コロナ禍でなかなか思うような練習できない中でも、昨年の主将を務めた石田崇人氏がオンラインを使ったミーティングをこまめに行ったり、苦しい中で仲間に声を掛けて気持ちを鼓舞し続けてきた。
今年からチームを率いる関口主将は組織力で戦う伝統を受け継ぐ
「彼の成長があったから、チームもひと回り強くなれた。やっぱり主将の人としての成長は、チームを強くする。そういう意味では、今年の関口主将も成長してくれていますし、彼の今後にも期待しています」
その関口主将は、「個性と役割」をテーマにチーム作りに取り組んでいると言う。
「日大は組織力で戦う、という言葉を先輩から受け継ぎました。そこで、何ができるかを考えてみて、ランニングを極めてみようと思ったんです。全員の足並みが揃っているのはもちろんですが、呼吸も揃えていこう、と。そのためには第六感を研ぎ澄ませて、集中してみんなと息を合わせていこう、と話しています。この取り組みのおかげか、例えば1点取ったときの盛り上がりとか、ここぞというときのギアの上げ方とか、組織的に一つになって勢いにつなげることができていると思います」
試合に出られない選手も一緒に戦うことがチームを強くする
今秋のリーグ戦で本学は5勝5敗の3位。上位を目指して歩みを止めない準硬式野球部は、さらなる高みを目指す。
「団体スポーツですから、みんなで協力をするということが一番大事。部員は現在80人弱。でも試合に出られるのは9人ですから、当然プレーができない選手の方が多いですよね。そういう選手たちが、どうやって自分はチームに貢献できるのか、一人一人が役割を考え、自分で行動していく。それがチームを強くしていくのだと思います」(米﨑監督)
そういった「縁の下の力持ち」としての働きも、当然社会に出たときに役立つ経験になる。準硬式野球部として行動、経験すること全てが、社会につながる。それこそが、この準硬式野球部の大きな魅力であり、やりがいなのである。
※後編は、東都大学準硬式野球連盟として取り組む社会貢献やSDGs活動に、本学準硬式野球部として参加した選手たちの声をお届けします。