減量・代謝改善手術が保険でできるようになりました
肥満とはBMIが25以上と定義され、現在本邦では男性の3割、女性の2割が肥満であるといわれています。さらにメタボリックドミノといわれる、肥満が原因と考えられる疾患は多岐にわたり、心疾患や糖尿病、がんも肥満と大きく関係しているといわれています。世界的に年間350万人が肥満関連疾患により死亡しており、これは新型コロナ感染で亡くなられた人に匹敵する数であります。
近年、肥満症の大きな治療選択として手術療法が脚光をあびています。本邦においても高度肥満に対する手術のなかで「腹腔鏡下スリーブ状胃切除術」という術式が2014年に保険収載されました。本手術の適応は①6カ月以上の内科治療抵抗性、②BMI35以上、③糖尿病、高血圧症、脂質異常症、又は閉塞性睡眠時無呼吸症候群の一つ以上を合併する患者様です。多くの研究で、減量・代謝改善手術が予後の延長に寄与することが証明され、約40%の死亡リスクの軽減が報告されております。そして現在肥満症治療ガイドライン2016年版には肥満症の治療選択として手術療法が明記されました。
また糖尿病にもこの減量・代謝改善手術が有用であることが近年いわれております。ある研究では糖尿病(平均HbA1C 9.1%)のある肥満患者を対象とし、通常の薬物療法を受けた群と手術を受けた群を比較したところ、HbA1c 6%以下に改善した患者が、薬物療法で5%であったのに対して手術療法では38%であり、さらに35%の患者で薬物治療の必要がなったという非常に良好な結果が報告されました。これらのエビデンスをもとに、2015年に行われた世界的な国際会議で糖尿病の有効な治療方法として手術療法が示され、本邦においても2021年に日本糖尿病学会を含む3学会より糖尿病に対する有効な治療の一つとして考慮するステートメントがでております。
十分な治療効果を背景に、世界では2018年には約70万人の患者様が本治療を受けております。一方で本邦では2014年の保険収載以来、徐々に施行件数が増えておりますが、2021年において69施設、約850例が行われているにすぎず、今後さらに発展していくであろう治療法であると考えております。
消化器病センターでは本治療の早期導入を目指し、確実に実施できる体制を整えてきました。2021年12月21日に第1症例を行って以来、2022年7月までに計5例を行い、2022年8月から保険診療下で本手術ができるようになりました。手術治療は消化器外科が担当しますが、他科の医師や、栄養士や理学療法士なども積極的に参加し、チームをあげて確実な治療が達成できるようにバックアップさせていただきます。治療法についてご相談されたい患者様がいらっしゃいましたら、是非とも当消化器病センターをお役立て頂けたらと存じます。