当科受診後の診療について
日本大学病院耳鼻咽喉科科長の松﨑洋海です。常々患者さんを御紹介いただきありがとうございます。
本日は、一側性反回神経麻痺について、診断および治療に関するわれわれの取り組みを御紹介したいと思います。この疾患は、神経麻痺により声門の開閉が不可能になるため、発声障害・誤嚥をきたすものです。
ご紹介いただくきっかけ(このような際では、当科へのご紹介をご検討ください。)
① 主な症状:嗄声(特に息が漏れるような声の枯れ方)、会話中に息切れをして声が続かない、嚥下障害
(主に液体嚥下時のむせ)
下気道に問題がないにも関わらず、以上のような症状がある際には、片側の反回神経麻痺となっていることがあります。
② 診断:喉頭ファイバースコープ検査で、声帯の固定が観察されます。耳鼻咽喉科の先生であれば、この①から②までの診療はなさるものと推察いたします。この時点で、当科にご紹介いただければと思います。
当科受診後の診療
さて、その後、当科ではまず、神経麻痺の原因を確認いたします。詳細な病歴聴取のうえ、反回神経の走行全体を俯瞰すべく、頸部CTやMRI検査を行います。原因疾患があれば、その治療を関係各科と共同して行います。当科では、一側性反回神経麻痺による声門閉鎖不全による発声障害・誤嚥を改善させるべく、以下の3つの治療を患者さんの状態に応じて選択して行います。
a) 声帯注入術
比較的発声時の声門閉鎖不全が軽い場合に行います。通常、外来で日帰り手術として対応します。
b) 甲状軟骨形成術Ⅰ型
患側と健側の声帯の高さにズレが少ない場合に行います。局所麻酔手術で行います。皮膚の切開は、約4cm弱ほどです。一定の確率で、術後一時的な気道狭窄リスクがあるので、入院で経過を観察しております。入院期間は約7から8日間です。
c) 披裂軟骨内転術
患側と健側の声帯の高さにズレがある場合に行います。全身麻酔あるいは静脈麻酔で適宜行います。皮膚の切開は、約5cm弱ほどです。甲状軟骨形成術よりも術後の気道狭窄リスクが高めなため、入院で経過を観察しております。入院期間は約7から9日間です。
これらの治療により新たな楽器として生まれ変わった喉の適切な使い方を学んでいただくため、言語聴覚士による音声治療を加え、患者さんの発声障害・誤嚥に改善をはかります。
当科では、画一的な治療ではなく、患者さんとご相談しながらお一人お一人の状況にあわせた治療法を行なってまいります。引き続き、日本大学病院耳鼻咽喉科へのご紹介をよろしくお願い申し上げます。