ヘルニア(鼠径部、腹壁)
1. ヘルニアとは?
ヘルニア(hernia)は『芽』というギリシャ語、または破裂を意味するラテン語に由来し、『先天性または後天性の組織の欠損部、あるいは裂隙などの抵抗の弱い部を通じて臓器、あるいは組織が、その本来の位置より脱出したもの』をいいます。消化器外科での代表的なヘルニアを解説します。
1) 鼠径部ヘルニア:鼠径ヘルニア、大腿ヘルニア
いわゆる脱腸で加齢による筋膜の脆弱化が原因です。40歳代から増加傾向となり、2015年の統計では16万人以上の方が手術を受けております。これは高齢人口の増加により高齢者のactivityの増加(みなさんお元気で活発です)が一つの要因と考えられております。
ヘルニアは、立ち仕事や荷役をされる職業の方、またスポーツをされる方に多く、自己診断される事が多い疾患で股に違和感や突出、疼痛を自覚します。 特に立位、座位、入浴中に座った時、靴紐を結んだ時などは脱調になりやすい体位であり、運動で腹圧をかけた時、長時間の歩行なども症状がでやすいです。反対に、横になりお腹の力を抜くと戻ることが多いです。横になり、お腹の力を抜いても戻らない場合や痛みを伴う場合は 嵌頓(腸管壊死、腸捻転)の可能性がありますので、病院に電話し夜間でも救急受診して下さい。
図1は左鼠径ヘルニアのCT画像です。ピンポン玉大の膨隆がみられます。一方、図2、3は巨大右鼠径ヘルニアのCT画像です。長年の放置するとかなり大きな脱出を認めることもあります。
手術は大きくわけて2つあり、足の付け根に小切開をおいて修復する方法(前方到達法)と臍部と側腹部に3つの穴をあけてカメラを用いて腹腔内より修復する方法(腹腔鏡法)があります。いずれの手術もメッシュと呼ばれる補強材を用いてヘルニアの原因となっている脆弱した部位を補強してくる手術が主流です。手術方法や麻酔方法の進歩により高齢者の方でも安全に手術を受けていただくことが可能です。
当院での手術数 (2012~2016)
・前方到達法:鼠径部を斜めに切開します。脱出の程度や全身状態によって術式を選択します。
1)PHS−UHS法: 310例
2)Lichtenstein法: 27例
3)従来法:メッシュを使わない手術 15例
・腹腔鏡手術:臍下部を小切開します。 64例
当院では両術式のメリットやデメリットをお話しし、患者様のご希望と症状に応じて手術法を検討しております。
ご興味がありましたら、お気軽に当科外来を受診していただけたらと思います。
2)臍ヘルニア
先天的なもの:生後からのデベソ
後天的なもの:肥満、種々の疾患による腹水貯留など。
3)腹壁瘢痕ヘルニア
腹部の手術層が離開し、内臓が突出したもの。緊急手術、肥満や糖尿病の患者さんの術後に多いと報告されており、経年的に増大します。
従来は皮膚を切って、直接腹壁を再縫合したり、メッシュで補強したりしておりました。しかし、感染や再発が少なからず発生するため満足な結果を得られないこともありました。
近年では腹腔鏡手術が腹壁瘢痕ヘルニアにも導入されております。当院では特に5㎝を超えるような大きなヘルニアに対して、従来から行っている前方到達法に腹腔鏡手術を応用したハイブリッド手術による腹壁瘢痕ヘルニアの手術を行っております(図4-8)。前回手術創を4㎝切開、腹腔鏡を用いて大きなメッシュを配置します。両方の手術の欠点を補完する良いとこ取りの術式で現在まで良好な結果を収めておりますが、新しい術式であり今後の十分な経過観察が必要と考えています。