食道胃接合部癌 -食道と胃の境界にある癌はどっちの癌?-
我が国のがん統計データを参照すると、1975年以降長らく胃癌が男女ともに罹患数最多の癌腫でした。胃癌の原因としてはHelicobacter pylori(ピロリ菌)感染が大多数を占めますが、若い世代ではピロリ菌感染率は10%を下回る低率で、ピロリ除菌治療の公的医療保険の適用拡大以降はピロリ菌保有の国民が大きく減少しています。現在も依然として患者数は多く癌治療対象の中心の一つですが、若年の胃癌患者は減少傾向の一途で、ピロリ菌感染率の高い世代、つまり高齢者に多い疾患になってきています。
国内のがん統計を参照しますと胃癌罹患数は2013年をピークに減少傾向に転じており、将来的に漸減傾向が続いていくものと考えられます。一方で、食道と胃の境界線、食道胃接合部に発生する腺癌はピロリ菌未感染であっても発生することがあります。胃癌患者の減少傾向は実臨床からも体感されますが、この境界線のがん、「食道胃接合部癌」については相対的に増加傾向にあります。
食道胃接合部癌の多くは、組織型が腺癌です。国内の食道癌は9割以上が扁平上皮癌ですので、この領域の腺癌は同じく腺癌である胃癌と同様に扱われてきました。結果として胃癌の定型手術である胃全摘が多く施行されてきたというのがわが国での実臨床です。しかしながら、臨床研究の結果、多くの症例では予防的郭清を目的とした胃全摘は不要であることが分かり、特に進行がんであっても胃全摘によるメリットは少ないということも明確になってきました。
胃全摘の適応が激減し、食道浸潤距離に応じて食道亜全摘あるいは下部食道噴門側胃切除のいずれかを選択するように術式選択が整理されてきました。この領域の癌は、食道側に大きく浸潤する可能性があります。腹部側から切除可能な食道の長さには限界があり、切除長が長くなればなるほど再建を含めて手技の難易度が上がります。縫合不全のリスクも高くなりますので、安全面を考えても食道亜全摘にすべき場合がどうしても出てきてしまいます。日本大学病院では縦隔鏡下手術を導入し、これまで右胸腔側からアプローチしていた食道手術を、胸腔アプローチなしに行えるようにしてきました。手術中に体位変換することなしに食道胃接合部腺癌に対する噴門側胃切除、食道亜全摘に対する鏡視下手術を症例に応じて柔軟に行える体制としています。
是非、食道癌なのか胃癌なのか対応に迷う症例がございましたら、当センターご利用をご検討頂けましたら幸いです。