平素より貴重な患者様をご紹介いただきありがとうございます。今回は、比較的多くご紹介いただく急性虫垂炎に対しお話させていただきます。
膿瘍形成性虫垂炎に対し、抗菌剤治療を先行した待機的虫垂切除(interval appendectomy)の緊急虫垂切除に対する有意な安全性が報告されました1)。緊急手術を選択すると、回盲部切除など過大な手術が必要となったり、遺残膿瘍、創感染など術後合併症が待機的虫垂切除術後より有意に多くなった結果を受けたものです。以後、多くの施設で待機的虫垂切除が膿瘍形成性虫垂炎のみならず、単純性虫垂炎(カタル性、蜂窩織炎性虫垂炎)に対しても適応拡大されています。
手術を施行する立場として、抗菌剤無効例に対し手術を施行することに対しては問題ないと考えますが、有効例に対してどのような方針で臨むべきかは、いろいろと議論があると思います。急性虫垂炎はすべて切除すべきでしょうか。抗菌剤有効後の再発率や、手術を施行した場合の長期的な合併症を中心に考えていきたいと思います。
単純性急性虫垂炎に対する抗菌剤有効例の1年後の再発率は約20%(10~27%)と報告されています2)。世界中で施行された無作為化比較試験(抗菌剤vs虫垂切除)の結果からのデーターです。長期的な再発率ですが、平均観察期間7年で抗菌剤有効例の再発率は4.4%と米国より報告されており比較的低い印象を受けます3)。これら短期・長期再発率の結果は、抗菌剤無効例および有効後の再発例を切除する待機的虫垂切除の方が、全例虫垂切除よりも医療費抑制効果が高くなることが英国・米国より報告されています4,5)。次に、虫垂切除後の合併症として癒着を取り上げます。カナダからは術後平均観察期間4.1年で2.8%に癒着性腸閉塞が発症(開腹と腹腔鏡に差はなし)、そのうち40%に手術治療を要したとの報告があります6)。英国からは術後10年で6.37%が癒着による原因で入院を要したとの報告があります7)。さらに今回は触れませんでしたが、術後の長期的合併症には癒着による不妊、腹壁瘢痕ヘルニアの問題もあります。また、急性虫垂炎の正診率は造影CTを施行して95%とされています2)。
まとめますと、待機的虫垂切除strategyは、誤診例も含め不必要な虫垂切除やそれに伴う癒着など長期的な合併症を減らし、医療費抑制効果を生む可能性があると考えられます。現在、この様な立場から急性虫垂炎に取り組ませていただいております。
参考文献)
1) Ann Surg 2007;246:741-8
2) Lancet 2015;386:1278-87
3) Am Coll Surg 2014;218:905-13
4)Br J Surg 2017;104:1355-61
5)Surgery2015;158:712-21
6)Ann Surg 2009;250:51-3
7)Dis Colon Rectum 2001;44:822-30