今回は心筋微小循環(微小血管狭心症)についてお話をさせて頂きたいと思います。
図1
心臓の血管は図1のような構造をしています。私達が普段行っている心臓カテーテル検査では100μm以上の血管が目視可能で、これは心臓血管床の5~10%程度といわれています。以外に知られていませんが、実は心臓血管の90%以上はカテーテル検査では肉眼的に確認できない微小血管です。
心筋の微小血管が十分に拡張できない病態が、いわゆる“Syndrome X”です。私達が運動した時に心臓には数倍の血液が流れます。太い冠動脈にはこの血流調節機能はほとんどなく、微小血管が拡張することで心筋に充分量の血液が供給されます。ところがこの拡張が不十分だと血液の需要―供給バランスに不均衡が起こり相対的な心筋虚血を生じます。労作時胸痛→負荷心電図で陽性→カテーテル検査で異常なしというSyndrome Xが、従来微小血管狭心症と呼ばれていました。
ところが微小血管狭心症にはもう一つの側面があります。Microvascular spasmです。Microvascular spasmには症状が多彩(胸痛、背部痛、動悸、息苦しさ、何となく胸が苦しいなど)、硝酸薬に対する反応が非典型的(症状改善までに時間がかかる、症状が完全に消失しない)などの特徴があり、これは微小血管床が多く血管の収縮―拡張の程度にバラツキがあるためと考えられています。このmicrovascular spasmも肉眼的には確認できない微小血管の異常のため、カテーテル検査で冠攣縮誘発試験を行ったとしても多くの場合は見逃されています。当院ではドップラーガイドワイヤーを用いた冠動脈血流測定を併用して行い、microvascular spasmの診断に取り組んでいます。通常アセチルコリンを冠動脈内に投与すると直後から血流増加がみられますが、microvascular spasmでは特異的に血流が低下します(図2)。当院のデータでは本測定の約20%でmicrovascular spasmが確認されています。
Microvascular spasmは確定診断がつかずに医療機関を転々として、心臓カテーテル検査を繰り返すことが多いといわれています。本疾患は閉経前後期以降の女性に多い疾患です。先生方の日々の診療でも女性の胸痛で診断がつかない場合には、是非当院までご連絡を頂ければ幸いでございます。どうか今後とも宜しくお願い申し上げます。
図2