高度肥満症に対する減量・代謝改善手術
雨に映える紫陽花の花も美しい季節、皆さんいかがお過ごしですか。消化器外科病棟医長の萩原 謙と申します。いつも貴重な患者様をご紹介いただき厚く感謝を申し上げます。今回は当院で行っている高度肥満症に対する減量・代謝改善手術についてご説明させていただきます。
2019年の国民健康栄養調査では成人男性の約30%、成人女性の約20%が肥満(BMI≧25)であると報告されています。特に男性は40歳代で39.7%、50歳代で39.2%と非常に高く、年次推移をみても成人男性では肥満者割合がすべての年代で増加傾向です。肥満はさまざまな健康障害を合併するため、「肥満症」は私達が遭遇する非常に身近で、予後に直結する非常に恐ろしい「病気」ともいえます。
まずは当院肥満治療外来で、食事療法、運動療法、行動療法から開始し、必要に応じて薬物療法も検討しますが、十分な減量を達成できないBMI35以上の高度肥満症の患者様には外科療法もご提案しています。外科療法は、内科療法と比較して体重減少および2型糖尿病の改善効果が認められ、さらに体重減少が長期的に維持され、その他の肥満関連健康障害の改善効果も良好であることが証明されています。また術後早期から代謝改善と種々の消化管ホルモンの変化などが確認され、最近では「減量・代謝改善手術」と呼ぶことが一般的になってきました。減量・代謝改善外科手術の主な術式は図に示す4つあり、本邦では2014年に胃を筒状に切除する「腹腔鏡下スリーブ状胃切除術」が保険収載され、2020年に本邦で実施された減量・代謝改善手術の95%を占めています。さらに2024年6月から腹腔鏡下スリーブバイパス術も保険収載されました。
当科では2021年12月より腹腔鏡下スリーブ状胃切除術を導入し、2022年8月より保険診療による減量・代謝改善手術が可能となりました。現在まで8名の患者様に行っており、さらに現在も外科療法を視野にいれつつ外来で内科療法を継続している患者様が数名います。
手術を希望される方には、術前に約5%~8%の減量をお願いしております。これは内臓脂肪や肝臓内脂肪の減少につながり手術の安全性を高めるため、ぜひ必要です。通常は術前3日前に入院していただき、術後約6日間で退院(計10日間の入院)となります。手術は腹腔鏡下に行い、胃の外側(大弯側)を切除し、約2.5cm幅のバナナ状の胃にします。手術時間は約2時間30分です。翌日から水分、翌々日から流動食を中心とした食事を開始します。術直後は食べられるものがかなり制限されますが、少量で満腹になるものの徐々に通常の食事を楽しむことが可能です。約20-30%の減量と肥満関連疾患の改善が当面の目標となります。より効果的な減量や体重維持を達成するため、手術後も定期的なフォローアップをさせていただいております。
我々は肥満治療の意義や外科療法を多くの先生方にしっていただけるよう積極的に情報発信をおこなっており、来たる2024年8月21日にも学外セミナーを予定しております。ご視聴を希望される先生方がいらっしゃれば、ぜひお声がけいただけたらと存じます。